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17、告白
しおりを挟む朝早く、モニカは私の部屋を訪れた。
「まだ支度が終わっていないのだけれど……」
何時に起きたのか、モニカはすでに準備万端だ。
「私のことはお気になさらず」
そんなことを言われても、昨日初めて会ったばかりの人の前で支度をするのは落ち着かない。
「気にするなと言われても、気になります。これからは、登校時間に来てください」
「では、明日からは部屋の外でお待ちします。それと、私に敬語をお使いになるのはおやめ下さい」
敬語を使うなと言われても、私はこの国の子爵令嬢で、モニカはスフィリル帝国の伯爵令嬢。私だけ敬語を使わないのは、かなり不自然だ。
「早く来る必要はありま……ないわ。私に敬語を使うなというのならば、その言葉使いもやめて欲しい。私達は、友人なのだから敬語を使うのは不自然だと思わない?」
「分かりま……分かったわ。ここで待っているわ」
女性で騎士になるなんて、とても優秀な人なのだと思う。そんな人が護衛についてくれるのは、ありがたいと思っている。
でも……真面目過ぎて、融通がきかない。
レストランから送ってもらった時も、私が眠りにつくまで部屋の前で見張りをしていた。
友人という設定なのに……
教室に入ると、シェリルが物凄い勢いで私に向かって来た。
凄い勢いだったのにも関わらず、モニカは表情一つ変えずに立っているだけだ。さすが、帝国の騎士様。シェリルのことを、認識しているようだ。
「昨日は、どうだった?」
シェリルとレイビス様には、叔父様と会うことを話してあった。その話が聞きたくて、うずうずしている。
「詳細は、昼食の時に話すわ。シェリル、こちらモニカ。モニカ、こちらはグランディ王国のシェリル王女よ」
「王女殿下、お初にお目にかかります。私はセリーナ様の護え……」
「モニカは、スフィリル帝国の伯爵令嬢なのですって! 昨夜、寮にいらした時に仲良くなったの!」
モニカの声の上に、さらに大きな声を重ねた。
自分が護衛であることを、話そうとするなんて……優秀なのか抜けているのか分からない。けれど、シェリルはすぐに察してくれた。
「まあ! モニカ様、私とも仲良くしてくださいね? 席は、私の隣が空いてますわ」
「ありがとうございます」
モニカは、無表情でお礼を言った。
そういえば、彼女が笑った所を見ていない。
彼女にとっては、任務ということなのだろう。それでも、せっかく知り合えたのだから仲良くなりたい。
席に着いた私達は、顔を寄せ合い小声で話す。
「モニカ、さっきのは何? 私達は、友人でしょう?」
「申し訳ございません……」
「モニカ様は、真面目なのですね。そんなに肩に力を入れていたら、疲れません?」
「真面目過ぎることは、自覚しています。二度と、このようなことがないようにいたします」
シェリルと顔を見合わせ、モニカの手を片方ずつ握る。
「私は、モニカと仲良くなりたい。そんな風に堅苦しくならないで、普通に接して欲しい」
「私も、モニカ様と仲良くなりたいです。良かったら、シェリルと呼んでください」
モニカはキョトンとした顔をしながら、私達を交互に見た。そして微かだけれど、微笑んでくれた。
「お二人とも、不思議な方々ですね……。セリーナ、シェリル、これから仲良くしてね」
真面目で不器用で少し抜けてるモニカと、これから仲良くなれそうな気がする。
「見ない顔だね。三人ともそんなに顔を近付けて、悪巧みの相談でもしてるの?」
「きゃっ!!」
気付いたら、レイビス様の顔が私の顔のすぐ側にあり、思わず悲鳴をあげた。
「ち、ち、ち、ち、近すぎです!」
レイビス様から距離を取り、目をパチパチさせながらそう言うと、レイビス様は意地悪な笑みを浮かべてまた顔を近付けて来た。
「俺から離れちゃ、ダメじゃないか」
と、耳元で囁いた。
私の顔が一気に赤く染ったのを見て、レイビス様は満足そうに離れた。
クリスティ様は、物凄く怖い顔でこちらを睨んでいる。
まだ、レイビス様を狙っているようだ。彼のお兄様をあんな目にあわせたのに、どういう神経をしているのか。それに、王妃様からいただいた大切な指輪まで利用した。
「殿下は、セリーナ様がお好きなのですね。これは、興味深い」
興味津々な目でモニカが私達を見ると、いつも軽いレイビス様が、なぜか照れくさそうに頭をかいた。
「す、好きで悪いか?」
その瞬間、クラス中の視線が私に集まった。
いつもは軽いはずのレイビス様が、顔を真っ赤に染めてハニカミながらそう言った。
これではまるで、愛の告白みたい……
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