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15、叔父様との再会
しおりを挟む学園から馬車で十分ほどのところに、完全個室のレストランがある。すごくお高いので、来るのは初めてだ。
「今日はお兄様がご馳走してくれるのよね?」
シェリルの言葉で、レイビス様がご馳走してくれることになった。
お茶だけにしようと思っていたから、ご馳走してくれるなんて嬉し過ぎる。
「セリーナ、遠慮はいらないわ! たーくさん食べましょう!」
先程まで怒っていたのに、レストランに入ると急に機嫌がなおり、嬉しそうに微笑むシェリルが子供みたいで可愛い。
「たくさん食べていいのですか?」
そーっと、レイビス様を見ると、笑顔で頷いてくれた。その笑顔が、ひきつらなければいいけれど……
「じゃあ……とりあえず、前菜メニューを全部お願いします!」
そう注文した後、二人は目を見開いて固まった。
「ダメ……ですか?」
「とりあえずという部分が引っかかるけど、君の食欲が果てしないということは、初めて会った日に分かっていたからな。男に二言はない! 好きなだけ食べて」
笑顔がひきつり出したけれど、遠慮はしないことにした。レイビス様の前では、ありのままの自分でいられる。
「ありがとうございます!」
運ばれて来た料理を、次々に平らげていく。前菜を食べ終え、スープを三種類、メイン料理を五品、デザートを三種類食べてお腹がいっぱいになった頃、シェリルが口を開いた。
「あまりにも美味しそうに食べるから、見入ってしまったわ。その華奢な体の、どこに入ったのか不思議で仕方ない。
で? なんでクリスティ様は、あんなことになったの?」
お茶を一口飲んで落ち着いてから、カイン様のことや指輪のことを話した。
シェリルは、シオン様とハンナ様のことを嫌でも思い出してしまう。同じ手を使おうとしたクリスティ様を、許せるはずがない。
「セリーナが、やり返してくれたのね。あの時のクリスティ様の顔、本当に悔しそうだった。セリーナ、ありがとう……」
シオン様とハンナ様を思い出して、すごく辛そうに目を伏せる。
「兄上がもう少し図太かったら、ハンナを守れたかもしれないな」
…………え?
確か、シオン様とハンナ様のことを知っているのは、シェリルだけだったはず。
「お……兄様!? どうしてそれを!?」
やっぱり、シェリルも驚いている。
「俺達は双子だぞ? 隠し事が出来ると、本気で思っていたのか? 父上に話さないのは、あの様子からして仕方がないけど、俺には話して欲しかった」
レイビス様はクリスティ様がしたことを知っていて、知らないフリをしていたようだ。
最初から知っていたわけではなく、シェリルの思い詰めた様子から気付いたそうだ。シェリルから話してくれるのを、待っていた。
グランディ王国の国王陛下は、シオン様の死で心を病んでしまったのだそうだ。クリスティ様がしたことを話していたら、両国が戦争になっていたかもしれない。シェリルは、陛下を想って話さないと決めたようだけれど、レイビス様は国同士の争いになることを懸念した。
「……ごめんなさい。じゃあ、セリーナがスフィリル帝国の皇族だということも気付いていたのですね。皇帝陛下に敵意むき出しにしていたのは演技だったなんて、まんまと騙されましたわ」
「……え?」
「え……?」
「え?」
私達は、三者三様で同じ言葉を発した。
どうやら、そちらは知らなかったようだ。
状況を理解したレイビス様は、私をジトーっとした目で見ている。『俺に秘密にしたな』という目だろう。
シェリルには怒っていないのに、私には怒るなんて不公平だと思う。
「そういえば、レイビス様もシェリルも、ルギウス殿下とは仲がよろしいのですね」
話題を変えようと試みた。
「ルギウスは、良い奴だからな。で? 君がスフィリル帝国の皇族だとは初耳だ。説明してくれ」
結局そのあと、二時間近く説明させられた。
もう二度と、レイビス様に隠し事はしないと心の中で誓いながら。
二日後、叔父様からの手紙が届いた。
手紙には、会って話したいと書かれていた。私も、会って話すのが一番いいと思う。
叔父様に手紙を書いた後、お父様にも手紙を書いていた。お母様のことを知っていると、叔父様に話すという内容だ。お父様はきっと、『お前が思うようにしなさい』と言ってくれるのは分かっていた。それでも、報告はしたかった。
夜会でのことで、ルギウス殿下は信頼出来る方だということは分かった。けれど、クリスティ様はきっと変わらない。学園では大人しくしているけれど、今頃は私への報復を考えていそうだ。
私はそれでもかまわない。クリスティ様が反省しないのならば、こちらにも考えがある。
その翌日、シェリルとレイビス様と行ったあのレストランで、叔父様と会うことになった。
一度お会いしているけれど、身内として会うのはさすがに緊張する。
店員さんに案内されて、叔父様の居る部屋へと向かう。部屋の前には、強そうな護衛の人が二人立っていて、私に気付くと片膝をついて頭を下げた。
「あの……」
どうしたらいいか分からず驚いていると、ドアが中から開かれた。
「セリーナ! 良く来てくれたね!」
ドアを開けたのは側近ではなく、目を細めて微笑む叔父様だった。
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