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14、屈辱的
しおりを挟む「お兄様!? 何を仰っているのですか!?」
ルギウス殿下の変わりように、クリスティ様が動揺する。
「お前は、母上からの贈り物も見分けられないのか!? なぜそんな風に育ってしまったんだ……。セリーナ嬢、本当にすみません! 全ては、私の責任です!」
こんなにたくさんの人が見ている前で、妹であるクリスティ様を侮辱している。そして、子爵令嬢である私に深々と頭を下げている。その理由が、分かってしまった。
ルギウス殿下は、クリスティ様を守ろうとしているのだと。
この指輪は、お母様の形見……指輪は、スフィリル帝国の皇族に伝わる物だったのだろう。それに気付いたのは、この指輪を見た時のルギウス殿下の驚いた表情を見たからだ。
お母様は男爵令嬢で、お父様は貧乏子爵。それなのに、この指輪は高価過ぎると思っていた。
妹思いのルギウス殿下に免じて、今回はここまでにしてあげよう。
「ルギウス殿下、頭を上げてください。クリスティ様は、宝石を見分けるのが苦手なようですね。誤解だと分かって下さればいいのです。お気になさらず」
クリスティ様は、悔しそうに唇を噛んでいるだけで、謝ろうとはしない。ルギウス殿下には悪いけれど、反省くらいはしてもらわないと困る。
「ですが……クリスティ様のご様子を見る限り、まだ私を疑っているようです」
そう言った私を、クリスティ様は睨み付ける。
クリスティ様は、全く反省していない。
するわけがないことは、分かっていたのだけれど、お兄様であるルギウス殿下にまで嫌悪感を抱いているように見える。
私を貶めるつもりでいたのに、自分が責められる状況になるなんて思いもしなかったのだろう。
「どうして……? どうして、私を責めるの? 私の大切な指輪がなくなり、同じような指輪をしていたら、盗んだと疑われても仕方がないわ! だってそうでしょう? 指輪は、とても高価な物で、セリーナ様のお父様はお世辞にも裕福とはいえない方よ! そんな指輪を持っているなんて、思わないじゃない!」
どうしても、謝る気はないようだ。
ルギウス殿下に、同情する。
「いい加減にしろ!!」
その言葉と同時にパンッと乾いた音が響き渡り、ルギウス殿下がクリスティ様の頬を叩いていた。
「お……兄様……」
クリスティ様は本物の涙を浮かべ、ルギウス殿下を見ている。
「お前には、失望した。自分本位の考え方しか出来ず、他人を思いやることも出来ない。お前は、国の恥だ。
お前は、この国の王女だ。国民の手本になるように生きなければならない。決して権力で皆を怯えさせてはならない。分かったなら、セリーナ嬢に誠心誠意謝りなさい」
妹を溺愛して甘やかしていると聞いていたけれど、噂とは信じるに値しないのだと分かった。もちろん、ルギウス殿下はクリスティ様を愛しているのだと分かる。だからクリスティ様が窮地に陥らないように、みんなの前で厳しく叱っているのだろう。
ただ、それだけではない。ルギウス殿下の目は、本気でクリスティ様を諭しているように見える。
「……セリーナ様……う、疑ってしまい、申し訳ありませんでした……。私が……愚かでした……お許しください」
謝りたくない気持ちが伝わって来るような謝罪だったけれど、初めてクリスティ様が謝ってくれた。
「分かりました。ですが、もう二度と同じ過ちを繰り返さないでください。約束ですよ?」
握りしめたクリスティ様の手が、怒りでふるふると震えている。私に謝ることが、クリスティ様には屈辱的だったのだろう。
周りの生徒達は、動くことも話すことも出来ないままその場に立ちつくしている。
このまま楽しい夜会……とはいかなそうだ。
「今日は失礼しますわ」
一番この場にいたくなかったのは、クリスティ様だった。振り返ることなく、足早に講堂から出て行った。
「セリーナ嬢、不快な思いをさせてしまい本当に申し訳ありません。クリスティには、よく言って聞かせます。セリーナ嬢の深い温情に、感謝いたします」
ルギウス殿下はもう一度私に頭を下げてからシェリルに断りを入れ、クリスティ様のあとを追って行った。ルギウス殿下が居なければ、クリスティ様は私の指輪を奪い取っていただろう。それがきっと、後々問題になっていたはず。
クリスティ様は、ルギウス殿下に感謝すべきだ。あの様子を見る限り、それはありえないだろうけれど……
「セリーナ……」
シェリルが不服そうな顔で、私の顔をじっと見ている。
「シェリル? どうしたの?」
理由を聞いた私の両頬を、シェリルは思い切り摘んだ。
「い……いひゃいよ……」
「痛くしてるの! こんなに面白い状況になることを、どうして私に教えてくれなかったの!? お兄様が口出ししなかった所を見ると、お兄様も知っていたのでしょう? 仲間外れにするなんて、酷い~」
そんなことを言われても、色んなことが起こったのはシェリルと別れた後だったし……
「シェリルこそ、パートナーがルギウス殿下だって教えてくれなかったじゃない」
手が離れた頬を擦りながら、負けじと言い返す。
言いあっている私達の肩に手が置かれ、
「とりあえず、夜会どころではなくなったから、食事に行こうか」
困り顔でレイビス様はそう言った。
シェリルは仕方なく頷き、二人と一緒に講堂を出た。
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