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13、泥棒
しおりを挟む中に入るとすぐに、クリスティ様と目が合った。ずっと入口を見張っていたのだろうか……
ものすごく鋭い目で、こちらを見ている。
カイン様はすでにクリスティ様の隣にいるので、私に断られたことは知っているはずだ。
「分かりやすくセリーナを睨んでいるな」
「カイン様を脅してまで、私を来させないようにしていましたからね。あからさまな方が、気が楽です」
他の人は、楽しそうにダンスを踊って……
「え? シェリルが一緒にダンスされている方って、まさか……」
笑顔を交わしながら、一際目立っている二人が居た。華やかなのに繊細で、 うっとりするほど美しいダンス。
「ルギウスだな。あいつ、いつの間に誘っていたんだ?」
ルギウス殿下は、クリスティ様のお兄様でこの国の王太子。 シェリルの言っていた適当な相手が、まさかルギウス殿下だとは想像も出来なかった。
ダンスを終えたシェリルが私達に気付き、こちらに歩いて来る。
「二人共、遅い! 何をしていたの!?」
私達の姿が見えなくて、心配してくれたみたい。
シェリルは頬をぷくーっと膨らませて、怒っている。怒っているのに可愛らしくて、心が和んだ。
殿下は二十二歳で、とっくにこの学園を卒業しているけれど、学園の夜会には生徒でなくてもパートナーとしてなら出席が可能だ。でも、王太子殿下を適当な相手と言えちゃうシェリルはさすがだ。
「レイビス、久しぶりだね。君が学園に来たことは知っていたから、もっと早く会いに来るつもりだったけど、なかなか時間が取れなくてすまなかった」
「よく言うよ。シェリルの誘いなら、すぐに時間が取れるのだな」
そう言いながら、笑顔になるレイビス様。三人は、とても仲が良さそうに見える。
「そちらの方は……」
「ご紹介しますわ。私の大好きな親友のセリーナです!」
シェリルは私の隣に立ち、目をキラキラさせながらルギウス殿下に私を紹介する。
「お初にお目にかかります、ルギウス殿下。セリーナ・ブランカと申します」
お見かけしたことはあったけれど、こうしてお話をするのは初めてだ。王太子殿下というよりも、クリスティ様のお兄様ということが緊張する。
「少しイメージが変わりましたね」
爽やかな笑顔でそう言ったルギウス殿下は、本当にクリスティ様のお兄様なのかと思うほど好青年だった。
「私のことを、ご存知なのですか?」
話したことさえない貧乏子爵令嬢の私のことまで、知っているとは思わなかった。
「これでも、この国の王子ですからね。国の貴族のことは把握しています」
あまりにしっかりとした方で、なぜクリスティ様があんな風になってしまったのか疑問に思える。
「ない……ないわ! お母様からいただいた指輪がないわ!」
ルギウス殿下と話をしていると、クリスティ様の声が講堂に響き渡った。何事かと皆が振り返り、クリスティ様に注目する。クリスティ様は慌てたように辺りを見渡し、私の指を見て動きが止まる。そして、まっすぐ私の方へと歩いて来る。
「その指輪は……」
私の指にはめられている指輪を見て、クリスティ様は口元を両手で隠す。
「お母様からいただいた指輪を、なぜセリーナ様がお持ちになっているの!? まさか、この学園に泥棒がいるなんて!」
講堂中に聞こえるほど大きな声で、私を泥棒だと言った。
「クリスティ!? 失礼なことを言うな!」
ルギウス殿下は、私を庇ってくださった。
「そうですわ! セリーナがそんなことをするはずありません! 言いがかりはやめてください!」
事情を知らないシェリルも、必死で庇ってくれている。
「お兄様、酷いですわ! 私を信じて下さらないのですか? 言いがかりではありません! 現に、私の指輪をセリーナ様がしているではありませんか!」
指輪を指差すクリスティ様。
最初は、指輪をはめずに夜会に来ようと思った。
けれど、たまたま同じような指輪を持っていたので、その指輪をはめて来た。
指輪は、お母様の形見。お母様を思い出して悲しくなるから、 この指輪は大切にしまっていて、はめたことはなかった。
どうしてその指輪をはめてきたかというと、クリスティ様が誤解するのではと思ったからだ。何もつけていなかったら、カイン様が話したのだと気付くかもしれない。それは避けたかった。まだカイン様には、クリスティ様の側に居てもらわなければ。それにクリスティ様には、全て思い通りにはならないと思い知らせたかった。
「クリスティ様、何を仰っているのですか? この指輪は、私の母の形見です。よくご覧になってください」
表情ひとつ変えず、クリスティ様によく見えるように手を差し出す。その時なぜか、ルギウス殿下が驚いているように感じた。
「嘘をつかないで! その指輪は、紛れもなく私の物よ!」
……これは、想定外だ。
王妃様からいただいた大切な指輪を、クリスティ様が見間違えるなんて思っていなかった。
「クリスティ、やめろ。その指輪は、お前の物ではない。セリーナ嬢に、謝りなさい」
どうしたらいいのか考えていると、先程のルギウス殿下とは別人のような怖い顔で、クリスティ様に謝るように言った。
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