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12、受け身はやめる
しおりを挟む覚悟とは、叔父様に手紙を書くことだった。私が知っていること、そして私の素直な気持ちを伝える。
シェリルからの情報だと、叔父様は一ヶ月程この国に滞在しているとのことだった。表向きは、両国の友好を深める為だ……けれど、友好を深める為に大帝国側が小国に訪れるなんてほぼありえない。
カイン様には、レイビス様に言われた通りにして欲しいと頼んだ。
指輪はレイビス様が預かることになり、寮長のことは少しの間、泳がせることにした。
今回は指輪を持ってはいない私に罪を着せることは出来ないけれど、これから先何度だってクリスティ様は私を罠にかけようとするだろう。
私は、ハンナ様ほど優しくはない。
カイン様に苦しめられて来たことは事実だけれど、クリスティ様は私が苦しんでいると分かっていてカイン様をいいように使って来た。
私の中ではカイン様とお別れした時点で、終わったことだからと思っていたけれど、クリスティ様はハンナ様とシオン様のことを何も反省していないのだと分かった。
これ以上、クリスティ様のせいで不幸になる人を増やしたくない。
受け身でいるのは、もうやめた。
クリスティ様が権力を利用するというのなら、こちらもそれを使わせてもらう。
カイン様と別れ、レイビス様に送ってもらって、一度寮に戻る。
私の前を歩くレイビス様の後ろ姿が、少し怒っているように見える。
「レイビス様、来てくださり、ありがとうございました」
お礼を言うと、レイビス様は足を止めて振り返った。彼の顔があまりに真剣で、本気で心配してくれているのだと分かる。
自分の愚かさに、申し訳なくなる。いくら学園の敷地内だとしても、一人で行動するべきではなかった。
この学園は、大きな塀に囲まれている。学園側が護衛を雇っていて、学園から出る際には護衛をつけてくれる。部外者は、許可を得なければ入ることは出来ない。つまり、他国の皇帝陛下が学園内の敷地にある丘に呼び出すことはありえないことだった。それが例え、大帝国の皇帝陛下であってもだ。呼び出すとしても、学園長に許可を取り、応接室が妥当だろう。
私が考えなしだったということだ。
「セリーナが抜けていて助かった……」
抜け……え?
つっこみたかったけれど、彼の泣きそうな顔を見たら何も言えなくなった。
寮を飛び出した時、私は手紙を握りしめていた。けれど肝心の手紙を、廊下に落として行ったようだ。
メーガンはすぐに私を追いかけようとして、その手紙を拾って読んだ。私より冷静だったメーガンは、すぐに手紙がおかしいことに気付き、レイビス様に知らせたということだった。
手紙を落とすなんて、本当に抜けている……
「ごめん……なさい……私が、考えなしでした」
頭を下げようとすると、急に身体がレイビス様の方へと引き寄せられた。
気付くと、レイビス様の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「あの……」
この状況は何……?
あまりに突然で、頭が働かない。
「これは心配させた罰だ。我慢しなさい……」
罰だと言いながら、抱きしめる手は優しい。
なんだか、心地いい……
しばらくすると、レイビス様は私から離れた。
「侍女が心配していたから、早く無事だと知らせてあげて。その後は、セリーナのパートナーとして初めての夜会だ~。完璧にエスコートするからね」
さっきのはいったい何だったのだろうと感じるほど、いつものレイビス様に戻っていた。
メーガンに無事を知らせた後、私達は夜会が開かれている講堂に向かった。よく考えたら、パートナーと夜会に出席するのは初めてのことだった。
講堂の入口に立つと、緊張して来た。
中から明るい音楽と、楽しそうに談笑する声が聞こえてくる。いつも一人だったから、この楽しそうな雰囲気が苦手だった。けれど、今日は一人じゃない。
「お手を」
レイビス様から差し出された手を取り、中に入る。
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