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10、手紙
しおりを挟む「お騒がせして申し訳ありません」
ここは、自由席だ。
大帝国であるスフィリル帝国の皇帝陛下ならば、特別席に案内されたはず。
「いえいえ、楽しそうだから思わず来てしまいました。お菓子、美味しそうですね」
叔父様は、(私達が全部食べてしまったから)新しく用意されたお菓子を次々に平らげていく。
「セリーナにそっくり……」
レイビス様は、そう呟いた。
自分でも、そう思う。と言うより、まるでお母様を見ているようだった。
お母様もよく食べる人で、特にお菓子が大好きだった。すごく美味しそうに食べるから、見ているこちらまで幸せな気分になる。
「ああ、すみません。皆さんの分まで食べてしまうところでしたね。良かったら、どうぞ」
言われた通り、お菓子を頬張る。
「……美味しいです」
叔父様は嬉しそうに微笑み、席を立った。
学園を卒業するまではお母様のことを話さないというお父様との約束を、守ろうとしてくれているようだ。
「失礼します。また、お会い出来る日を楽しみにしています」
ほんのわずかな時間だったけれど、叔父様と話せて良かったと思えた。まるで、お母様と話しているような感覚……
「何なんだ、あの爽やかさは……」
「お兄様……お顔が引きつっておりますわ。まさか、セリーナがとられてしまうのではと、ご心配なさっているのですか?」
「引きつってない。セリーナ、そろそろ帰ろうか」
似てると思っても、私と皇帝陛下が親戚だとは普通は思わない。レイビス様が気付かなくて、少しだけ安心した。私はまだ、このままでいたい。
「そうですね、帰りましょう」
席を立つと、クリスティ様と目が合った。
いつから見ていたのか……もしかしたら、叔父様のことも誤解してるのではと思えて来る。
それほど、クリスティ様の私を見る目が怖かった。
お茶会から一週間が経ち、今日は学園で夜会が開かれる。約束した通り、今日の夜会はレイビス様と出席するのだけれど……
「これは……」
寮にドレスと靴、そしてアクセサリーが届いた。贈り主は、レイビス様。
「セリーナ様、愛されていますね!」
メーガンは嬉しそうにそう言ったけれど、婚約者でもない相手からの贈り物を受け取ってもいいものか悩む。
私はドレスを三着しか持っていないから、エスコートしてくれるレイビス様に恥をかかせない為に受け取るべきなのだろうか。
「こちらも」
メーガンが手渡したのは、メッセージカードだった。カードには、『全て君の為に用意した物だから、セリーナが着ないなら捨てて欲しい』と書いてあった。
「セリーナ様、もしやお返ししようとは考えていませんよね? お相手は、レイビス殿下です。正直言って、お持ちのドレスでは失礼になると思います」
はっきりと言ってくれるところが、メーガンのいいところだけれど、本当にいただいてもいいのだろうか……?
ドレスを見ながら悩んでいると、ドアがノックされた。何となく、誰だか想像がつく。
「来ちゃった」
思った通り、シェリルだった。
「シェリル~!」
困り果てていた私は、シェリルの顔を見た瞬間抱きついた。
事情を説明すると、シェリルは笑い出した。
「そんなの、受け取る一択よ。返しても、迷惑になるだけ。私も適当な相手と出席するけれど、彼から贈られて来たドレスを着ていくわ」
ドレスのことよりも、シェリルがいつの間にか相手を見つけていたことに驚く。
「そ……そうなのね。いつの間に、相手を見つけたの? それは、誰?」
私の質問に、シェリルはイタズラな笑みを浮かべて「内緒」と答えた。
ドレスに着替える為に、シェリルは自分の部屋へと戻って行った。
「セリーナ様、お手紙が届いております」
「手紙?」
レイビス様からいただいたドレスに着替え、メイクも終わった頃、寮長が手紙を持ってきた。
差し出し人は、叔父様からだった。手紙には、『お話があります。十七時に学園の裏にある丘で待っています』とだけ書かれていた。
「メーガン、少し出てくるわ」
気付くと、私は駆け出していた。
「え!? セリーナ様!? 夜会は、どうなさるおつもりですか!?」
夜会のことを考える余裕はなかった。
お茶会の日から、お菓子を食べていた時の叔父様の顔が忘れられなかった。まるで、お母様にもう一度会えたような……そんな感覚。
急いで丘に行くと、そこで待っていたのは、叔父様ではなかった。
「……嘘の手紙を出すなんて、どういうおつもりですか? カイン様」
まさか、カイン様がこんな嘘をつくなんて思わなかった。
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