〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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8、お茶会に参加

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 そんなことがあったなんて……
 でもそれなら、クリスティ様を嫌いなのも納得だ。
 王太子殿下が自害だとは発表出来ず、病死と発表したようだ。

 「お父様は、シオンお兄様が自害したことを申し訳なく思っていて、レイビスお兄様にクリスティ様との婚約を勧めているの。シオンお兄様の自害の真実を知るのは私だけ……だから、レイビスお兄様をクリスティ様に近付けないように私もこの学園に転入して来たの」

 シェリルは、ハンナ様をずっと見ていた。
 シェリルもまた、ハンナ様と同じで控えめな性格だった。「友達になろう」の一言が言えず、ハンナ様は誰にも悩みを打ち明けることなく亡くなった。シオン様とハンナ様が想いあっていたことは、ずっと見ていたシェリルしか気付かなかった。
 もしも友達になっていたなら、ハンナ様もシオン様も生きていたかもしれない……そう考えずにはいられなかった。だから、二度と後悔しないと心に決めた。今の明るくて強引で人懐っこいシェリルになったのは、そんな過去があったからだった。

 「もう、一人で悩まなくていい。私が居るから」

 シェリルの手を握りしめる。小さくて、女の子らしい手。
 グランディ王国の国王陛下に話さなかったのは、陛下にクリスティ様との婚約を勧めた自分のせいだと思わせたくなかったからだろう。シェリルは、誰よりも優しい子だ。

 「セリーナ……ありがとう……」

 シェリルの瞳から、涙がこぼれ落ちた。
 彼女が私と友達になりたがった理由が分かった。私を、守りたいと思ってくれている。
 それにしても、クリスティ様は許せない。
 
 ◇◇◇

 お茶会当日、三着しか持っていないドレスの一着を着て、シェリルと一緒に王宮へと出発した……のだけれど、
 
 「どうして、レイビス様が一緒に馬車に乗っているのですか?」

 なぜか当たり前のように、レイビス様も一緒の馬車に乗っている。

 「セリーナ嬢は冷たいな。俺に一人寂しくお茶会に行けと言うのか?」

 泣き真似をしながら、ちらちらと私の顔を見る。
 この兄妹は、私をからかうのが好きなの?

 「もう諦めました。好きにしてください」

 昨日の話を聞いて、クリスティ様に関わりたくないとか目をつけられたくないとか思わなくなった。クリスティ様の目が私に向いているうちは、他に被害が出ないと思ったからだ。
 私はすでに、愛する人を奪われている。これ以上辛いことなんて、何もない。

 「やっと俺の想いを受け止める気に……」
 「なっていません!」 
 「食い気味だな」
 「ふふっ」

 勝ち誇ったように笑った私を見て、レイビス様は悔しそうにくちびるを噛んでいた。
 レイビス様が嫌いなわけではないけれど、今はまだ、誰かを好きになれる自信がない。とは言っても、レイビス様はからかっているだけだろうけれど。

 「二人の世界に入らないで!」

 シェリルは頬をぷくっと膨らませて、ポカポカとレイビス様の肩を叩いた。

 「お前だっていつもセリーナをひとりじめしてるだろ? ズルいぞ!」

 やっぱり兄妹だ。
 二人のやり取りは、微笑ましい。

 王宮に到着して馬車から降りようとすると、

 「お手をどうぞ」

 レイビス様が手を差し出してくれた。
 さりげなくこういうことが出来るところは、やっぱり王子様なのだと感じさせる。
 レイビス様の手を借りて馬車を降りると、王宮の使用人が出迎えてくれて、お茶会が開かれる庭園へと案内してくれた。
 庭園にはクラスメイトだけではなく、沢山の貴族達が豪華なドレスやタキシードに身を包み、談笑していた。
 学園でのお茶会や夜会しか知らない私には、別世界のように感じる。

 「レイビス様、いらしてくださったのですね! それと、シェリル様も。お席はこちらに用意していますわ!」

 「まあ! 私はついでなのですね」

 クリスティ様の目に、私は映っていないようだ。彼女の後ろに、当たり前のようにカイン様が居る。
 結局、クリスティ様の側に居るというのに、レイビス様と一緒に現れた私を見て不機嫌そうに眉をしかめる。

 「悪いけど、俺達は陛下にご挨拶をしたら自由席に座るから気にしないでくれ」

 クリスティ様がレイビス様を案内しようとしていた席は、大切なお客様の為の席。つまり、私は一緒に座るなという意味だった。
 レイビス様の返事に、クリスティ様は一瞬だけ顔をしかめたけれど、すぐに笑顔を見せた。

 「そうですか、ではお父様の元にご案内いたしますわ」

 学園ではわがまま放題のクリスティ様でも、沢山の貴族や他国の貴族や王族の方々の前では、ちゃんと王女様を演じているようだ。

 クリスティ様の後をついて行くと、貴族の方と笑顔で挨拶を交わしている陛下の姿があった。学園の入学式の日に遠くからお見かけしたことはあったけれど、こうしてお会いするのは初めてで緊張する。

 「お父様、グランディ王国のレイビス王太子殿下とシェリル王女殿下がご挨拶をしたいと仰っていますわ」

 私は名前を言われず、従者のような扱いだ。
 攻撃してくると思ったけれど、無視されるとは思わなかった。

 「おお! 良く来てくれた! シオン殿下のことは、本当に残念だった。我が国に出来ることがあるなら、何でも言ってほしい」

 真相を知っているから、陛下の口からシオン様の名を聞くと辛くなる。シェリルなら、尚更だろう。

 「ありがとうございます、陛下のお言葉に感謝します」

 レイビス様も、シェリルも、笑顔で挨拶をしている。シェリルはすごいなと思っていると、陛下の視線が私に向けられた。 

 「君はもしや、ブランカ子爵のご令嬢か?」

 なぜか驚きながら、陛下は私を見つめている。

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