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7、お茶会の誘い
しおりを挟むその日は、そのまま実家に泊まった。
翌朝には出発するつもりだったけれど……
「姉上~! いつお戻りになったのですか?」
サミュエルの顔を見てしまったら、そのまま別れるなんて出来なかった。
「昨日の夜よ。サミュエルは眠っていたから」
「起こしてくださいよ! 僕がどれだけ姉上に会いたかったか!」
サミュエルは素直で、すごくいい子に育ってくれた。
「なんて可愛い弟なの~」
サミュエルの頭をわしゃわしゃすると、照れくさそうに「やめてよ~」と言いながら微笑むところが最高に可愛い。
結局お昼までサミュエルと過ごしてから、寮に戻った。
そういえば、学園を休んだのは初めてだ。皆勤賞を逃してしまった。なんて考えるほど、私の気持ちは落ち着いていた。
お母様に秘密があったことは事実だけれど、私達家族は何も変わらない。お父様のことも、サミュエルのことも、心から愛している。
「どうぞ」
メーガンはまた、何も聞かずにお茶を出してくれる。話したい時は真剣に聞いてくれるし、話したくない時は静かに見守ってくれる。
「ありがとう」
お茶を飲みながら、頭を整理する。
お父様がお願いした通り、私には接触していないところをみると、傲慢な方ではないように思う。
一度もお会いしたことがないのだから、考えても仕方がないのかもしれない。
考えるのは、やめやめ! ただ、叔父様に会えると思えばいい。お母様の子供の頃の話を聞けるかもしれないし。
カイン様との婚約解消も、お父様に受け入れてもらえたし。これからは、学園生活を楽しもうと思う。
翌朝学園に行くと、教室の入口でシェリルが抱き着いてきた。
「セリーナ~! 寂しかった~!」
一日離れていただけなのに大袈裟だと思いながらも、こんな友達が居て幸せだなと思えた。
シェリルのイメージとはかけ離れていたのか、クラスメイト達が目を丸くして驚いている。
「私も、寂しかった」
同じ歳だけれど、妹みたいに思える。
昨日、サミュエルにあったからかな……
「俺も寂しかったから、抱きついてもいい?」
抱き合う私達を見て、レイビス様がからかってくる。
「お断りします」
私がそう言うと、シェリルはレイビス様に向かって舌を出した。
この前は私とレイビス様を婚約させたがっていたのに、素直じゃないな。
「レイビス様、シェリル様、セリーナ様、少しよろしいでしょうか? 皆さんを、次の休日にお茶会へご招待いたしますわ」
三人の名前を呼んだのに、なぜかレイビス様の方しか見ていないクリスティ様。そしてクリスティ様の後ろには、私を見ているカイン様。おかしな状況に、シェリルは下を向いて笑いを堪えている。
「お父様が、クラスメイトを全員ご招待したいそうですの。出席してくださいますよね?」
上目遣いでレイビス様を誘うクリスティ様。あれほど冷たくされているのに、まだレイビス様を落とそうと頑張るところは素直にすごいと思う。
「国王陛下からのご招待なら、断れないな。セリーナ、一緒に行こう」
わざとやっているのか、これで私はまたクリスティ様の標的にされる。
「セリーナは、僕と一緒に行くよね? 今回は夜会ではないから、レイビス殿下とは約束していないだろう?」
カイン様まで……これは、新手のいじめ?
クリスティ様の顔が、引きつっているじゃない!
「まあ、困ったわ。クリスティ様、私達相手がいませんね?」
クリスティ様の気持ちを逆撫でするシェリル。絶対に面白がってる。
そのつもりなら、私にだって考えがある。
「クリスティ様、お誘いありがとうございます。私は、シェリルと一緒に行きます」
レイビス様もカイン様も顔を歪めたけれど、クリスティ様だけは私を睨み付けている。
「まあ! 嬉しいわ! お兄様と……カイン様? 奪ってしまって申し訳ありません。クリスティ様にはお相手が居ないようですし、お誘いして差し上げたらいかがですか?」
さらにクリスティ様の気持ちを逆撫でするシェリルに、深いため息が出た。
「シェリル……わざとやっているでしょ!?」
小声でそう言うと、シェリルは可愛らしく笑った。
可愛くて、憎めない……
お茶会には、特別なお客様が来るそうだ。その特別なお客様が、クリスティ様のクラスメイトを招待して欲しいと頼んだ。
陛下が頼みを聞くということは、どこかの国の要人だろう。私には、そう頼むような人物に心当たりがある。
これはあくまでも私の推測だけれど、お茶会に出席する特別なお客様とは、スフィリル帝国の皇帝陛下だと思っている。
その日の夕方、シェリルがまた「来ちゃった」と私の部屋を訪れた。
「シェリルのせいで、クリスティ様に睨まれちゃったじゃない」
怒ってはいないけれど、これ以上クリスティ様に敵意むき出しの視線を向けられたくはない。
「ごめんね。クリスティ様の悔しそうな顔を見たら、つい調子に乗ってしまったわ。でも、セリーナに嫌な思いをさせるつもりはなかった。反省してる」
しゅんとしているシェリルを見ると、本当に悪いと思っているのが伝わって来る。
「どうしてシェリルは、そんなにクリスティ様が嫌いなの?」
仮にもクリスティ様は、亡くなったシオン様の婚約者だった。私が見る限り、シオン様が亡くなった時のクリスティ様は本当に落ち込んでいた。だから、慰める為にカイン様がクリスティ様の側に居ても仕方がないと思えたのだ。
「シオンお兄様には、幼馴染みが居たの。その幼馴染みは、シオンお兄様のことが大好きだった。すごく控えめな子で、その子は自分が子爵令嬢だから相応しくないと、想いを告げることが出来ずにいた。でも、シオンお兄様もその子のことが好きだった。
そんな時、クリスティ様との婚約話が来たの。お兄様は、受け入れなかった。でも……セリーナもクリスティ様が散々男性に媚びを売るところを見て来たでしょう? 社交の場でその子と顔を合わせる度に、見せつけるようにお兄様にベタベタと……」
すごく辛そうに、一言一言を絞り出すように話している。
「それだけではなかった。
クリスティ様は、その子に無実の罪を着せた。宝石が盗まれたと大騒ぎして、その宝石がその子の持ち物から見つかったの。もちろん、シオンお兄様はその子を庇ったわ。『彼女はそんなことはしない!』って。でも、証拠は彼女を犯人だと示している。クリスティ様は、彼女を許すかわりに婚約の話を進めて欲しいと脅したの。お兄様は彼女を守る為に、了承するしかなかった」
クリスティ様が、そこまでするなんて……。
シオン様とクリスティ様が婚約したのは、三年前。その時、クリスティ様は十四歳。わがままでは、すまされない程悪質だ。
「シオン様の幼馴染みの方は、どうなったの?」
「自分の為に、愛する人が……そんなことに、耐えられる強い子ではなかった。シオンお兄様とクリスティ様の婚約式の翌日、自害したわ」
最悪な結末。
人の命が自分のせいで奪われたというのに、クリスティ様は何も変わっていない。
「もしかして、シオン様は……」
「ええ、病死ではなく、幼馴染みのハンナのあとを追って自害したわ」
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