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4、王女様は絶対
しおりを挟む「私は被害者なのに、なぜそんな目で見るの? みんな酷いわ!」
クリスティ様は、また泣き出してしまった。生徒達や先生は、オタオタしながらクリスティ様を慰めている。
「君も災難だね。ワガママな王女様に、目をつけられてしまって」
レイビス様はそう言ったけれど、多分諸悪の根源はレイビス様だと思う。昨日、私がレイビス様と話していたことが、クリスティ様のカンに触ったのだろう。
「また助けてくださり、ありがとうございました」
助けてもらったのは事実だ。けれど、あまり関わりたくないという気持ちは変わらない。素っ気ないお礼になったけれど、感謝はしている。
はあ……と、深いため息をついていると、カイン様が私の頭に手を乗せて軽くポンポンとした。
「君がこんなことをするはずないと、僕は信じていたよ」
目を細めて微笑んでいる彼の手を思いきり振り払い、睨みつける。どの口が、『信じていた』と言っているのか……
「嘘までつくようになったのですね」
自分の見る目のなさにも、落ち込む。
一目惚れではあったけれど、中身も好きだった。
「嘘じゃない! 僕のこと、信じて欲しい」
この人の、何を信じろというのだろうか。
散々約束を破って、私がどんな思いをしていたかも考えなかった彼のことを、信じるなんて出来るはずがない。
「そうだ! 次の夜会は、一緒に出席しよう! 昨日のドレス、すごく似合っていた。香水も、僕の好きな香りだっただろう? 次の夜会用のドレスは、僕がプレゼントするよ!」
どうして今更……としか、言いようがない。
ドレスにも、香水にも気付いていたなんて。そんなことを今更言われても、彼への想いは消え去っている。
「……先約があるので、申し訳ありません」
レイビス様が言ったことを、利用させてもらった。皆の前であんなにはっきりと言ったのだから、レイビス様と夜会に出席することになるだろう。だから、嘘は言っていない。
「そっか……分かった……」
明らかに悲しそうな表情を浮かべて肩を落としながら、自分の席に戻っていく。今まで散々私との約束を破って来たのに、あんなに傷付いた顔をするのはずるい気がする。抱かなくてもいい罪悪感を、抱いてしまう。
クラスの生徒ほとんどが、手紙のことを忘れてクリスティ様を元気付けようと必死になっていた。結局、カイン様もそれに加わった。
クリスティ様には、お兄様が二人居る。二人のお兄様に甘やかされて育ったからか、自分の思い通りにならないと泣き出してしまう。
可愛らしくて守ってあげたくなる気持ちは、分からなくはないけれど、婚約者だったカイン様を自分の婚約者のように扱っていたクリスティ様を、好きになることは出来なかった。
結局、『クリスティ様は悪くない』 ということで落ち着いた。王女様を責めることなんて、誰にも出来はしない。
昼食の時間になり、一人で学食に向かう。
貴族が通う学園だけあって、学食といってもとても豪華な造りになっている。もちろん、出される料理も一級品だ。それでも学食なので、どれも値段が安い。
お父様は子爵だけれど、裕福な方ではない。というより、貧乏だ。
だから、安いのはとっても助かっている。
「Aセットと、Bセットをお願いします」
実を言うと、私は大食いだ。
二つのセットを頼んでも、全然足りない。これでも節約しているのだ。
料理を頼んで、空いている席に座る。
「いただきます」
食事の時間は、大好きな時間だ。色々あったけれど、料理は私を裏切らない。
味わって食べていると、目の前の席に誰かが座った。顔を上げると……
レイビス様……に良く似た、女の子がこちらをじっと見つめていた。何も言わずに、じーっと私を見ている。
「あの……」
耐えきれず、声をかけてしまった。
すると、女の子は目を輝かせながら話し出した。
「あなたが、噂のセリーナ様でしょう? ここに来るまで、散々噂されていました。本当にお美しいのね! そんなに細いのに、たくさん食べるのですね。私達、良いお友達になれると思うの!」
「えっと……」
何から突っ込んだらいいのか、分からない。彼女は一体、誰なのだろうか。その答えは、すぐに出た。
「シェリル!? お前、大遅刻だぞ」
「お兄様こそ、遅いです。お腹が空いてしまいました」
現れたのはレイビス様で、二人は兄妹のようだ。
「セリーナ嬢が、驚いているだろ。
これは双子の妹のシェリルで、妹も昨日からこの学園の生徒なんだ。授業はサボったのに、堂々と食事をしに来るなんていい度胸だろう? ちなみに、シェリルも同じクラスだ」
双子なら、こんなにそっくりなのも頷ける。
似てるとは思ったけれど、まさかレイビス様に双子の妹がいたなんて。
それにしても、どうしてまた同じクラスなのか……
「セリーナ様、ごめんなさいね。お兄様は軽いように見えて、ものすごく軽いから気を付けてください」
それは、ただの悪口なのでは……
「フォローになってない! 余計なことを言うな」
「フォローするつもりなんてありませんわ! だいたい、私がセリーナ様とお話ししていたのに、邪魔しないでくださる?」
この二人は、仲が悪いのだろうか。
「あの……早く食べないと、お昼の時間がなくなってしまいますよ?」
なぜか目の前で兄妹喧嘩を見せられたけれど、嫌な気分ではなかった。弟とは五歳離れていて、こんな風に喧嘩したことはないから、ちょっと羨ましい。
「セリーナ様は、なんてお優しいのかしら! やっぱり、私達良いお友達になれると思う!」
双子でも、性格はあまり似ていないみたい。
シェリル様の第一印象は、元気で明るい子だった。
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