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3、脅迫?
しおりを挟むクリスティ様が婚約していたシオン様は、グランディ王国の王太子だった。
レイビス様が第二王子ということは、次の王太子ということになる。だからクリスティ様は、レイビス様と一緒に居た私を不快に思ったのだろう。
「どうして、私とカイン様のことに詳しいのですか?」
レイビス様は私の耳元に顔を寄せ、
「君に、興味があるから」
そう言った。
あまりに顔が近くて、ドキッとする。
「からかうのは、おやめください。本当の理由を教えてください」
からかわれていると分かっていても、こんなに男性の顔を近くで見たのは初めてで、戸惑ってしまう。
「残念、バレたか」
そう言いながら、私から離れる。
ホッと胸をなでおろし、レイビス様を見る。
「兄が亡くなって、第二王子である俺が王太子になったんだけど、クリスティとの婚約話が出たんだ。俺はクリスティと婚約なんてしたくないから、色々調べさせた。で、カインのことや君のことを知ったんだ。嫌だと言ったのに、父は諦めていないんだろうね。クリスティの居るこの学園に、無理やり転入させられたんだ」
クリスティ様の本性に気付いているレイビス様なら、婚約なんてしたくないと思うのも納得だ。
「それは、災難でしたね。では、私はこれで失礼します」
レイビス様には悪いけれど、またクリスティ様に関わりたくはない。彼と話すだけで、クリスティ様に恨まれそう。
「逃げる気? 俺達同じクラスだから、よろしくね」
笑顔が怖い。
関わりたくないと思っていることが、バレバレだったようだ。
同じクラス……クラスはAクラスからEクラスまであるというのに、私もカイン様もクリスティ様まで同じクラスな上に、レイビス様まで一緒だなんて。平穏な学園生活は、送れそうもない。
教室に入ると、みんなの視線を感じた。見られるのも噂されるのもいつものことで、気にはならないけれど、今日はなんだか様子がおかしい。
「誰?」
「このクラスに、あんな美しい生徒いたか?」
すぐにレイビス様のことだと分かった。彼から距離を取りながら、席につく。
「転入生に、もう少し優しくしてくれない?」
「申し訳ないのですが、美形な方と関わるのは遠慮いたします」
青みのある銀髪に、藍色の瞳。形の良い鼻や口。カイン様は幼い感じの美形だったけれど、レイビス様は大人っぽい感じの美形だ。
どうやら私は、美形恐怖症になったらしい。
「俺を美形だと思ってくれるのは嬉しいけど、周りの生徒達が言っているのは君のことだと思うけど?」
何を言っているのだろうと周りを見渡すと……
「もしかして、セリーナ様なの!?」
「あんなに地味だったのに……」
「婚約解消したなら、チャンスかもしれない!」
あれ? 本当に、私のことを言っているの?
確かに、メーガンには可愛くして欲しいと言ったけれど、前髪を切ってメイクしただけでこんなにも反応が変わるもの……?
「セリーナ嬢! つ、次の夜会は、僕と一緒に行きませんか!?」
今まで私をバカにしていた男子生徒が、緊張しながら誘って来た。それに続くように……
「いや、俺とご一緒してください!」
「抜け駆けするな! 僕とお願いします!」
他のクラスの生徒まで誘いに来た。
昨日まで私のことを散々悪く言っていたのに、手のひらを返すこの人達に呆れてしまう。
これは、無視しよう。
視線を窓の外に向けて、完全に無視をする。
「横顔も、可愛い!」
無視をしているのに、全く動じない。
「もうやめてください! もうすぐ授業が始まります。席に戻ってください!」
「怒った顔も可愛い」
何でそうなるのか……
こんな風にされたことなんて一度もない私には、この状況をどうしたらいいのか分からない。
「レイビス様、助けてくださいよ」
私が困っているのに、なぜかくすくすと笑っているレイビス様に助けを求める。
「はーい、みんな聞いてー! 悪いけど、セリーナ嬢と夜会に行く約束をしてるのは俺だから、諦めてね~」
な……なんということを言ってしまったの!?
「……仕方ないか。レイビス殿下には勝てない」
「諦めるしかないか……」
レイビス様の一言で、男子生徒達はすごすごと自分の教室や席に戻って行く。
グランディ王国は、大国だ。この国は小国で、グランディ王国と友好関係を結んでいるとはいえ、敵に回したらひとたまりもない。
諦めてくれたことは助かったけれど、今度は女子生徒の目が怖い。このことをクリスティ様が知ったらと思うと、平穏な学園生活なんて完全に無理だと諦めた。
授業が始まる直前に、カイン様は教室に到着した。けれど、クリスティ様がまだ来ていなかった。
そういえば、毎日カイン様はクリスティ様を迎えに行っていたのに、今日は一人だった。
まさか、カイン様が迎えに来るのを待っているのだろうか……
一時間目の授業が終わっても、クリスティ様は姿を現さない。二時間目が始まると、教室のドアが開いた。
「遅れて、申し訳ありません……」
ドアの方にみんなの視線が集まり、クリスティ様が中に入って来る。
「遅刻するなんて、珍しいですね。どうされたのですか?」
先生にそう問われたクリスティ様は、 暗い顔をしながら「何もありません……。申し訳ありません……」と理由は言わずに席についた。
これではまるで、何かあったから心配してと言っているようなものだ。
「クリスティ様、何かあったのですか?」
「話してください! 私達、クリスティ様の味方です」
授業中だというのに、クリスティ様の取り巻きが心配そうに声をかける。そう言われるのを待っていたとばかりに、クリスティ様は顔を両手で覆って泣き出した。
「みんな、ありがとう。私のことは、気にしないで」
泣き止んだと思ったら、悲しげな表情をしながら物思いにふける。そんなクリスティ様に、カイン様が声をかけた。
「クリスティ、どうしたんだ? 何かあったのか?」
他の人とは視線も合わせなかったクリスティ様が、カイン様の目を見つめながら瞳をうるうるとさせている。けれど、チラチラとレイビス様のことも見ているから、心配して欲しかったのはレイビス様の方のようだ。
レイビス様はというと、クリスティ様に興味がないのか、頬杖をつきながら窓の外を見ている。
先生はクリスティ様の様子にあたふたしているし、授業は進みそうにない。
「朝起きると、部屋のドアの下にこの手紙が挟んであったの……」
震える手でカイン様に手紙を差し出し、タイミングよく涙が頬をつたう。まるで演劇を見ているかのようで、感心してしまう。
手紙を受け取ったカイン様は、その手紙を読んで怒りに震えた。
「……これは、何かの間違いでは?」
手紙の内容は分からないけれど、怒っているようで、悲しそうにも見える。
「カインなら、誰が書いたものなのか分かるでしょう?」
その言葉を聞いて、カイン様が私の方を見た。そして、こちらに向かって歩いて来る。
バンッと、勢い良く私の机の上に手紙を置いた。
その手紙には、クリスティ様を脅し、カイン様を返せと記されている。なぜか、私の文字で……。
「セリーナ、言いたいことはあるか?」
私は書いていない。カイン様とやり直すつもりもない。けれど、他の人から見たら私が書いたのだと誤解されても仕方がない。文字を真似されたと言ったところで、私を信じてくれる人なんていない。
先程まで誘って来ていた男子生徒達も、手紙を見て私を疑っている。
「知らないと言ったら、私を信じるのですか?」
カイン様は、何も答えないまま下を向いていた。信じるとはっきり言えないのは、信じていない証拠だ。彼と別れたのは、正解なのだと確信した。
「そんなの、いくらでも偽造出来るよ。セリーナ嬢は、そんなことしない。そもそも、セリーナ嬢から婚約解消してるのに、なんで今更そんな手紙を出す? それに、その手紙の内容……クリスティを悪く言っているようで褒めてない? 脅す相手を、普通褒めたりはしないと思うけど? そういえば、クリスティの侍女は文字を真似るのが得意だと聞いたな」
誰も信じるはずないと諦めていたのに、まだ出会って間もないレイビス様だけが私を信じてくれた。
クリスティ様が嫌いなだけかもしれないけれど、誰かに信じてもらえることは嬉しかった。
「確かに、婚約解消すると告げているのに、カインを返せはおかしいな」
「これ、褒めているな……」
「まさか、クリスティ様が自分で侍女に書かせたのか……?」
レイビス様が言う通り、手紙に書いてあるクリスティ様への脅しは褒めているようにも思えた。
『美しくて何でも持っているクリスティ様には、カイン様は必要ないと思います。カイン様を返していただけないのなら、綺麗過ぎるそのお顔が傷付くことになります』
皆が一斉に、クリスティ様の顔を見る。
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