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もうひとつの最終回 前編 (前世…)
しおりを挟む「リベリア伯爵! 出て来てもらおう!」
しばらくすると、使用人が出て来て昨日と全く同じセリフを言ってくる。
「旦那様はお会いにならないそうです。」
「そうはいかない。今日は借用書を持ってきた! この邸はモンタリオール伯爵のものになった為、速やかに出て行ってもらおう!」
ドリュー男爵のあくどさがここで発揮された。ただ偽の借用書をスチュワートに見せた所で、本人は書いていないのだから偽物だと言われるだけだ。
だがドリュー男爵は、その借用書をモンタリオール伯爵に見せ、邸を売り払ったのだ。
モンタリオール伯爵は、ドリュー男爵以上にあくどい。
例えスチュワートが、借用書は偽物だと言った所で、既に契約を交わしてしまったモンタリオール伯爵は邸を手に入れるまで追い込む人物だ。
ドリュー男爵に借金した事実がある限り、モンタリオール伯爵にお金を返すか邸を明け渡すしかなくなった。
つまり、ドリュー男爵に借りたはずの借金がモンタリオール伯爵に借りた事になったということだ。
「ちゃんと伝えろよ? 使えない使用人め!」
ドリュー男爵は使用人に唾を吐き、邸に戻って行った。
「お父様! 私、スッキリしたわ!」
リベリア邸を売ったお金で、スベン男爵に借金を返し、邸をとられずに済んだ2人は、お祝いにワインを開けていた……そこへ兵士がやって来て、2人は城へと連行された。
罪状は、文書偽造……スチュワートが訴え出たのだった。
ドリュー男爵は爵位を剥奪され、邸まで奪われる事になった。2人が何かしようとすればする程何かを失い、そして何もなくなっていた。
スチュワートもまた、モンタリオールに借金を返済出来ず、邸を明け渡していた。爵位だけはあるスチュワート、女を騙せばいくらでもお金が入ると思っていたのだが……ドリュー男爵の借金踏み倒しが噂となり、スチュワートに誰も近寄ろうとはしなかった。
ミリアーナがスチュアートと離縁してから、1年が経とうとしていた。
ミリアーナの元へ、一通の手紙が届いた。
その手紙は、ホーレス・ドナルド侯爵様からで、是非一度お会いしたいとの事だった。
邸を訪れたミリアーナは、使用人に庭へと通された。そこには沢山の花が咲いていて、ミリアーナの心は踊った。
「やはりあなたは、花が大好きなのですね。」
声をかけられ振り返ると、20代半ば位の優しそうな男性が立っていた。
「ドナルド侯爵様ですか?……あの、やはりとは?」
「私はサイモンです……奥様。」
え……サイモン……!?
「サイモンて……あの?」
サイモンは前世で、邸の使用人だった。
「記憶があるのですね。スチュアート・リベリア伯爵は、旦那様ですよね?二人が前世と同じ出会いをしていたので、気になってずっと調べていたのです。奥様が前世とは違う選択をしたので、もしかしたら記憶があるのかと思い、会いたいと手紙を送りました。」
サイモンがドナルド侯爵だったの!?
「サイモン……ドナルド侯爵も、前世の記憶があるのですね。」
「記憶を取り戻したのは、奥様が嫁いだ後でした……。」
サイモンには前世でずっと心配させっぱなしで、あのお邸で私の味方はサイモンだけだった。
ミリアーナは時が経つのも忘れて、ドナルド侯爵とずっと話し込んでいた。
「もう暗くなってしまいましたね。お送りします。」
「暗くなってることも気づかないくらい、話に夢中になっていました。」
まだ話したかった私は、乗ってきた馬車を先に帰し、ホーレス様に送ってもらうことにした。
馬車に揺られながら、前世の事を思い出す。あんなに心配してくれたサイモンに何も言わず、私は、命を絶ってしまった。
「……ごめんなさい。」
謝らずにはいられなかった。
「謝らないでください。」
ドナルド侯爵はミリアーナの様子で察したようだ。
「ミリアーナ嬢を守って差し上げられなかった私の方こそ、謝らなくては。」
「そんな……ホーレス様は私の心の支えでした。」
「そう思ってくださるなら……私にまた、あなたを支えさせていただけませんか?今度は夫として。」
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