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17、初めてのダンス
しおりを挟むさすがに、今更セシリー様に騙される人間は居ない。彼女の行動に、皆呆れて何も言えない。そんな中、オリバー殿下が口を開く。
「つくづく、自分がバカだったのだと思い知らされた。セシリー、お前には呆れる。お前は、俺に何を言ったのか覚えているか? リアナの父であるブライド公爵に、密売の罪を着せようと言った。まさか、自分の父親の罪をブライド公爵に着せようとしていたとはな……」
オリバー殿下が直接私を問い詰めて来なかったら、本当に父が罪を着せられていた。なんて恐ろしいことを、セシリー様は考えていたのだろうか。
「……だから? 私は、自分が一番大事なだけよ! それの、何が悪いの? みんなそうでしょう? リアナ様……あなたさえ居なければ、全部上手く行ったのに! 何もかも、あなたのせいよ!」
演技をしても無駄だと分かったからか、開き直ったようだ。
「お姉様、もうおやめ下さい! リアナ様は、お姉様とは全く違います! リアナ様のせいにするのは、間違っています! 今のこの状況は、お姉様がして来たことが原因ではありませんか!」
あのオドオドしていたマディソンが、セシリー様に説教をしている。マディソンはもう、弱くなんかない。
「あなたまで……なんなの……よ……」
あれ程強気だったセシリー様が、今までと違うマディソンにたじたじになっている。
「マディソンは、セシリー様に怯えていた頃のマディソンではありません。あなたが今そうしているのは、あなた自身がして来たことが原因です。人を貶め、人を騙して来たセシリー様には、何かを手に入れる資格なんてありません。この先の人生、後悔しながら生きて下さい」
セシリー様に手を差し伸べる人は、誰一人居ないだろう。
「目障りだ。連れて行け」
陛下はため息をつきながら、兵に命じた。
オリバー殿下の発言で、セシリー様は国の高位貴族を陥れようとした大罪人となった。オリバー殿下が実行しなかったことで、死罪になることはないだろうけれど、この国には居られないだろう。
何もかもを失い、抜け殻のようになったセシリー様を兵が連行する。
「リアナ、バカな息子のせいで嫌な思いをさせてしまったな。本当に、すまなかった」
私なんかよりもずっと、陛下は心を痛めている。オリバー殿下もウォルター殿下も、陛下は同じように想っていらっしゃった。
「いいえ、私の力不足でした。オリバー殿下をお支えすることが、私の役目でした。ですが私は、殿下の言いなりになり、自分を偽ってしまいました。たとえ殿下に嫌われようと、私がしっかりしなくてはならなかったのです」
殿下の好みになろうと、間違った努力をしていた。
「それは違う。そのようなことを、君に押し付けるべきではなかったのだ。最初から、ウォルターを王太子に選んでおくべきだった。自分を責めるのは、やめなさい」
陛下はそう言うと、会場から出て行った。
去り際の悲しげな表情から、自分を責めているのは陛下の方だと思えた。
その後、夜会はそのまま続けられたけれど、話題はパウエル子爵家の話ばかりだった。今日の主役は、ウォルター殿下なのに……
「出番があまりなかった……」
出番が少なかったと落ち込むライアン様を、ウォルター殿下が慰めている……のかと思ったけれど、
「ライアンは、良い方だよ。僕なんて、一言も話していない……」
二人で落ち込んでいた。
「何を落ち込んでいるのですか?」
二人に話しかけたところで、背後に気配を感じて振り返る。
「……ミモザ?」
「お二人はまだいいではありませんか……。私なんて、存在感すらなかったのですよ?」
二人より、ミモザの方が落ち込んでいる。
「ウォルター殿下は主役なのですから、さっさと挨拶回りをしに行ってください! ライアン様、落ち込んでいないで踊りますよ! ミモザは、いつもの笑顔を見せて!」
「そ、そうですね。行ってきます!」
「リアナ……踊ってくれるのか!?」
「リアナが言うなら、いくらでも笑うわ!」
ようやく三人は元に戻った。
楽しい夜会……とは行かなかったけれど、これで学園生活は平和になりそうだ。
私達がダンスをしている間、学園の生徒達がマディソンに謝っていた。その生徒達を、ミモザが説教している。なんだかんだ言っても、ミモザは面倒見がいい。
「よそ見するな」
ライアン様に視線を向けると、あまりの近さにドキッとする。それでも、彼から目をそらすことが出来ない。
いつから私は、こんなにも彼に惹かれていたのだろうか。
そういえば、ライアン様とダンスを踊るなんて初めてだ。このまま時が止まってくれたらいいのにと思える程、素敵な時間だった。
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