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37、イザベラ 後編 *このお話を読まなくても、物語の内容に影響はありません。
しおりを挟むイザベラはそのまま、娼館に送られたが、意識はまだ戻っていない。生きているのが不思議なくらいだ。
あんなにいた男達は、誰1人イザベラを助けようなどと思わなかった。つまり、誰1人イザベラを愛してはいなかったということだ。見た目だけの女なのだから、仕方がない。
好意を持っていたホーリー侯爵に妻を殺させた挙句に殺し、愛してると言ってくれたエルビンを妹のことを傷付けるために利用し、妻にしてくれたブライト公爵を裏切ったイザベラを、愛する者など誰もいなくなった。
「冗談じゃないです! こんな化け物、使い物になんかならないし、臭いし、汚いし! どうして看病なんかしなくちゃいけないんですか!?」
「仕方ないわ。ブライト公爵が連れて来たんだから、追い出す事なんて出来ないじゃない」
娼館の女主人は頭を抱えていた。こんなに醜いのだから、客などつくはずもない。火傷からは膿が出て、悪臭がする。放置することも出来ず、毎日包帯をかえなければならない。 面倒なものを押し付けられただけだ。
「このまま死んでくれたらいいのに……」
そう思っていたが、イザベラはしぶとく生き続けた。
そして半年後、イザベラはすっかり元気になっていた。
「私はイザベラよ! こんな汚い部屋でなんか暮らせないわ! もっと広い部屋を用意して!」
元気になったイザベラにも、手を焼くことになるとは女主人も思っていなかった。
「あんたにはお客が1人も居ないのに、贅沢言わないで! ここでは稼げる子が偉いの!」
「そう、ならお客を連れて来てよ!」
「あんたを抱きたいと思う男なんていないわ。醜いったらない! あのまま死んでくれたら、どんなによかったか……」
全身に醜い火傷の痕が残っていて、見るのもおぞましい顔。人前に出しただけで、客は帰ってしまう。
「それなら私をここから出して! こんなところ、私の居場所じゃないわ!」
それが出来たら、とっくにやってる。プライドだけ高い、醜いイザベラをどうするべきか、女主人は考えた。
「いたわ。あんたでも抱いてくれる男」
その男は、普通の女性に満足出来なかった。女性を殴り、服従させるのが好きな変態。プライドの高いイザベラならちょうどいい。問題は、この見た目。
女主人は、イザベラの顔の火傷を包帯で隠し、その男がいる部屋に連れて行った。
「何だ? その醜い女は!」
「この子しか、今は空いていないのです」
空いていないのではなく、誰もこの男の相手をしたくないだけだった。
「この女には、何をしても文句言わないなら我慢してやる」
「文句だなんて、言うはずありません! この容姿でお客もいないくせに、プライドだけ高くて困っているんです! 躾てやってください!」
「ほう……プライドが高いのか」
「それでは、失礼いたします」
女主人は、イザベラを部屋に入れて去って行った。
「お前、名前は?」
「人に聞く前に、自分から名乗りなさいよ!」
男はイザベラに、いきなり平手打ちをした!
「っ!!?」
「名前を聞いたんだ! 誰が口答えしろと言った?」
「……………………」
イザベラは男を睨みつける!
睨みつけるイザベラを、容赦なく叩く!
「っ!! イ……ザベラ……」
「最初から素直に名乗ればいいものを、抵抗するからそうなるんだ。
それにしても、醜い顔だな! お前、そんな顔でよく生きて来れたな。ガハハハッ」
気持ち悪く笑う男の顔を見る。
「あんたこそ、その気持ち悪い顔でよく生きて来られたわね!」
今度は腹を蹴られ、息が出来ないようだ。
「ゴホッゴホッ……!!」
「お前の顔、化け物だぞ? 分かってんのか? お前の顔を見たら、みんな逃げて行く。俺だけが、お前の相手をしてやってんだ。感謝しろよ!」
あれから毎日、男はイザベラを殴りに来る。殴られ、蹴られ、好き放題される毎日。
「…………死にたい…………」
そう思っても、自ら死ぬ勇気さえない……
「全部、アナベルのせいよ……
あの時、死んでれば良かったのに……」
「あの男が来たよ。良かったわね、客が出来て。あんたみたいな醜い化け物なんて、相手してくれるのはあの変態しかいないものね!あはははっ」
毎日、醜い化け物と言われ続ける。食事は他の娼婦が残した残飯。部屋はなく、寝るところは廊下。
何もかも失ったイザベラは今日も、惨めに生きている。
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