〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな

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30、全員集合の舞踏会

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 舞踏会が行われる会場には、続々と貴族達が集まって来ていた。
 エルビン、イザベラ、グランド夫妻、アナベルに関係する者も姿を現した。

 「お集まりの皆様、本日は大切なゲストをご紹介させていただきます」
 
 壇上に上がって話し始めたブライト公爵。ドラナルド王国の王太子夫妻を、国王の代わりに紹介する為に、裏で待機していた。

 「ドラナルド王国の王太子ルーク殿下と、王太子妃アナベル様です!」

 アナベルの名を聞いて、皆の動きが一瞬止まる。だが皆、『まさか』と頭に浮かんだことを打ち消した。もちろん、壇上に上がったのはアナベルだ。

 ザワザワザワザワザワザワ……

 アナベルを見た貴族達は、何が起こっているのか分からなかった。

 「ドラナルドの王太子妃って……」
 「どうしてアナベル様が!?」
 「行方不明だったはずじゃ……?」

 アナベルを見下していた令嬢達や夫人達は、顔が青ざめている。

 「何よそれ……アナベルが、王太子妃!? そんな事、あるはずないじゃない!!」

 イザベラはアナベルをじっと睨みつけ、ありえないという顔をしている。

 「……アナベル……」

 エルビンはアナベルの名を呼んだだけで、あとはただ見つめることしか出来なかった。

 「今日はお忙しい中、私達夫婦のために集まっていただきありがとうございます。
 妻はこの国の出身なので、ご存知の方も多いでしょう。ですが、アナベルはこの国にいい思い出がない。心当たりのある方は、心を入れかえていただきたい。
 私にとってアナベルは、とても大切な人であり、最愛の人です。アナベルを傷つけるやつは、絶対に許さない」


 「アナベル、理由を説明してくれない?」

 イザベラは信じることが出来ず、アナベルに詰め寄ろうとすると……

 「あなたが近付くことは許可出来ません。お下がりください!」

 護衛がイザベラを静止する。

 「ふざけないで!! 私はアナベルの姉よ!? 」

 「イザベラ、やめなさい。アナベル様は、私達との縁を切っている。これ以上、無礼を働けばただではすまない」

 護衛の静止を振り切ろうとするイザベラを、グランド伯爵が止めた。

 「どういうこと……!?」

 「アナベルは、我が国のガーディー公爵の養子になった。だから、お前とはなんの関わりもない。二度と俺の妻に近付くな!」

 イザベラは怒りに振るえているようだ。
 
 「冗談じゃないわ! 養子? 王太子妃? 笑わせないでよ! お父様も、アナベルになんてつけちゃって、バッカじゃないの!?
 アナベルは今までも、そしてこれからも私の引き立て役!! ブサイクな妹と美しい姉よ!」

 「お姉様って、本当に哀れな方ですね」

 「何ですって!?」

 「いい加減、無礼な口を聞くのはやめなさい、。あなたがこれまで好き勝手出来たのは、ブライト公爵の妻だからです。それなら、私に逆らえない理由は分かりますね?
 あなたが犯した罪を、私は決して忘れない。必ず報いを受けさせます!」

 お姉様に怯えていた私は、エルビン様への想いと共に消え去りました。ブライト公爵は冷酷な方です。お姉様に裏切られたと知った今、公の場で断罪したりはしないでしょう。シルビア様が味わった苦しみ以上のものを味わってください。

 「なっ!!?」

 事実を言われ、何も言うことが出来ないイザベラ。

 「アナベル……様、元気そうで何よりです」

 ずっと黙っていたエルビンが、ようやく口を開いた。

 「エルビン様も、お元気そうで何よりです」

 1年ぶりに見たアナベルの生き生きした姿に、エルビンは見惚れていた。もう二度と、自分には向けてくれることがないと思っていた笑顔を見て、やっぱり愛していたのだと確信する。

 「俺は、諦めるつもりはありません。たとえ、あなたが俺を見ることが二度となくても、あなただけを生涯想い続けます」

 エルビンはアナベルにしたことを、償いながら生きていくことを決めた。

 「エルビン様のお気持ちに、応えることは出来ません。私はきっと、あなたを恨み続けます」

 アナベルの言葉を聞いたエルビンは、嬉しそうな顔をした。

 「それは、嬉しいですね。俺をずっと忘れないということなので……」

 「随分、歪んでいますね。アナベルを傷付けたことを、一生後悔して生きてください。では、俺達はこれで失礼します」

 ルークはアナベルの手を取り、会場をあとにした。

 舞踏会のはずなのに、誰1人踊っていない。
 アナベルがドラナルドの王太子妃になったことで、自分達の身が危ういのではと皆が考えていた。ルークとアナベルは、爆弾を置いて立ち去って行ったのだった。




 「シド、イザベラを内密に調べてくれ」

 「奥様を……ですか?」

 「私はイザベラを、信じすぎていたようだ。過去のこともだが、イザベラが何をしているか、誰に会っているかも全て調べろ」

 「かしこまりました」

 アナベルのことで頭がいっぱいになっているイザベラは、ブライト公爵が動き出したことを知る由もなかった。


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