30 / 44
30、全員集合の舞踏会
しおりを挟む舞踏会が行われる会場には、続々と貴族達が集まって来ていた。
エルビン、イザベラ、グランド夫妻、アナベルに関係する者も姿を現した。
「お集まりの皆様、本日は大切なゲストをご紹介させていただきます」
壇上に上がって話し始めたブライト公爵。ドラナルド王国の王太子夫妻を、国王の代わりに紹介する為に、裏で待機していた。
「ドラナルド王国の王太子ルーク殿下と、王太子妃アナベル様です!」
アナベルの名を聞いて、皆の動きが一瞬止まる。だが皆、『まさか』と頭に浮かんだことを打ち消した。もちろん、壇上に上がったのはあのアナベルだ。
ザワザワザワザワザワザワ……
アナベルを見た貴族達は、何が起こっているのか分からなかった。
「ドラナルドの王太子妃って……」
「どうしてアナベル様が!?」
「行方不明だったはずじゃ……?」
アナベルを見下していた令嬢達や夫人達は、顔が青ざめている。
「何よそれ……アナベルが、王太子妃!? そんな事、あるはずないじゃない!!」
イザベラはアナベルをじっと睨みつけ、ありえないという顔をしている。
「……アナベル……」
エルビンはアナベルの名を呼んだだけで、あとはただ見つめることしか出来なかった。
「今日はお忙しい中、私達夫婦のために集まっていただきありがとうございます。
妻はこの国の出身なので、ご存知の方も多いでしょう。ですが、アナベルはこの国にいい思い出がない。心当たりのある方は、心を入れかえていただきたい。
私にとってアナベルは、とても大切な人であり、最愛の人です。アナベルを傷つけるやつは、絶対に許さない」
「アナベル、理由を説明してくれない?」
イザベラは信じることが出来ず、アナベルに詰め寄ろうとすると……
「あなたが近付くことは許可出来ません。お下がりください!」
護衛がイザベラを静止する。
「ふざけないで!! 私はアナベルの姉よ!? 」
「イザベラ、やめなさい。アナベル様は、私達との縁を切っている。これ以上、無礼を働けばただではすまない」
護衛の静止を振り切ろうとするイザベラを、グランド伯爵が止めた。
「どういうこと……!?」
「アナベルは、我が国のガーディー公爵の養子になった。だから、お前とはなんの関わりもない。二度と俺の妻に近付くな!」
イザベラは怒りに振るえているようだ。
「冗談じゃないわ! 養子? 王太子妃? 笑わせないでよ! お父様も、アナベルに様なんてつけちゃって、バッカじゃないの!?
アナベルは今までも、そしてこれからも私の引き立て役!! ブサイクな妹と美しい姉よ!」
「お姉様って、本当に哀れな方ですね」
「何ですって!?」
「いい加減、無礼な口を聞くのはやめなさい、イザベラ。あなたがこれまで好き勝手出来たのは、ブライト公爵の妻だからです。それなら、私に逆らえない理由は分かりますね?
あなたが犯した罪を、私は決して忘れない。必ず報いを受けさせます!」
お姉様に怯えていた私は、エルビン様への想いと共に消え去りました。ブライト公爵は冷酷な方です。お姉様に裏切られたと知った今、公の場で断罪したりはしないでしょう。シルビア様が味わった苦しみ以上のものを味わってください。
「なっ!!?」
事実を言われ、何も言うことが出来ないイザベラ。
「アナベル……様、元気そうで何よりです」
ずっと黙っていたエルビンが、ようやく口を開いた。
「エルビン様も、お元気そうで何よりです」
1年ぶりに見たアナベルの生き生きした姿に、エルビンは見惚れていた。もう二度と、自分には向けてくれることがないと思っていた笑顔を見て、やっぱり愛していたのだと確信する。
「俺は、諦めるつもりはありません。たとえ、あなたが俺を見ることが二度となくても、あなただけを生涯想い続けます」
エルビンはアナベルにしたことを、償いながら生きていくことを決めた。
「エルビン様のお気持ちに、応えることは出来ません。私はきっと、あなたを恨み続けます」
アナベルの言葉を聞いたエルビンは、嬉しそうな顔をした。
「それは、嬉しいですね。俺をずっと忘れないということなので……」
「随分、歪んでいますね。アナベルを傷付けたことを、一生後悔して生きてください。では、俺達はこれで失礼します」
ルークはアナベルの手を取り、会場をあとにした。
舞踏会のはずなのに、誰1人踊っていない。
アナベルがドラナルドの王太子妃になったことで、自分達の身が危ういのではと皆が考えていた。ルークとアナベルは、爆弾を置いて立ち去って行ったのだった。
「シド、イザベラを内密に調べてくれ」
「奥様を……ですか?」
「私はイザベラを、信じすぎていたようだ。過去のこともだが、イザベラが何をしているか、誰に会っているかも全て調べろ」
「かしこまりました」
アナベルのことで頭がいっぱいになっているイザベラは、ブライト公爵が動き出したことを知る由もなかった。
115
お気に入りに追加
5,055
あなたにおすすめの小説

今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

その発言、後悔しないで下さいね?
風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。
一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。
結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。
一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。
「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が!
でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません!
「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」
※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※クズがいますので、ご注意下さい。
※ざまぁは過度なものではありません。

あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜
本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。
アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。
ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから───
「殿下。婚約解消いたしましょう!」
アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。
『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。
途中、前作ヒロインのミランダも登場します。
『完結保証』『ハッピーエンド』です!
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)

酷いことをしたのはあなたの方です
風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。
あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。
ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。
聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。
※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。
※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。
※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる