〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな

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26、ロイド様の婚約者

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 ルーク様は公務があるので、私は中庭を散歩することにしました。散歩している間、ずっと顔がニヤけてしまっています。
 ルーク様と、身も心も結ばれたことが嬉しくて、どうしても顔がニヤけてしまいます。

 「随分、楽しそうですね」

 そう話しかけられて、声がした方を振り向くと、見知らぬ女性が立っていました。身なりがいいので、どこかのご令嬢でしょうか?

 「初めまして。どちらのご令嬢ですか?」

 私が話しかけると、彼女は明らかに不機嫌な顔をしました。そちらから話しかけて来たのに……

 「ご令嬢……ね。私は王太子妃になるはずだった、リンダ・アンダーソン。あなたが私の居場所を奪ったのよ」

 リンダって、ロイド様の婚約者だったあのリンダ様でしょうか!?
 
 「居場所を奪ったとは、どういうことなのでしょうか?」

 「何であなたなんかが、王太子妃になってるのよ! 私は、王妃教育を幼い頃からずっと受けて来た! たった1年学んだだけのあなたが、私の居場所を奪わないでよ!」

 リンダ様は、生まれた時から嫁ぐことが決まっていました。だからずっと、王妃教育を受けて来たのですね。それなのに、いきなり来た私がその座を奪ったのだから、気分が悪いのも当然ですね。

 「気分を害されたなら、謝ります。申し訳ありません」

 私には、謝る事しか出来ない。ロイド様がいないのだから、ルーク様が王太子になるのは必然で、ルーク様を他の誰かにとられるなんて耐えられません。
 私が1年間、王妃教育を受けていたのは、一部の方しか知りませんでした。だから、リンダ様は私の存在を昨日の結婚式まで知らなかったようです。

 「申し訳ないと思ってるなら、ルーク様を私に譲ってくれない?」

 譲ってって……

 「ルーク様は、物ではありません。リンダ様が、おつらい思いをされたのは存じておりますが、そのような発言はお控えください」

 その言い方だと、相手はロイド様でなくても良かったということでしょうか。それは、ロイド様にもルーク様にも失礼だと思います。

 「この国の人間でも無いくせに偉そうに……」

 「確かに、生まれはこの国ではありませんが、今はこの国の王太子妃です」

 この国の人間ではないと言われ、少しムカッとしてしまいました。

 「そう……だけど、いつまであなたが王太子妃でいられるか見物ね。アンダーソン公爵家は絶対に許さない。覚えておきなさい」

 私は対応を間違えたのでしょうか? 国王様のお話を聞く限り、王子はアンダーソン公爵家から妻を娶らなければならなりませんでした。
 ですが、婚約していたロイド様が亡くなってしまったことで、その約束が果たされることはありませんでした。普通に考えたら、リンダ様がロイド様と婚約した時点で、リンダ様がルーク様と結婚することは不可能なのですが……先程の話からするとリンダ様は、ルーク様との結婚を望んでいたということなのでしょう。
 私が考えたところで、結論は出ません。ルーク様にリンダ様のことをお話しましょう。

 「公務、お疲れ様です」
 
 公務を終えたルーク様は、夕食を用意してくださいました。疲れているのだから、料理はお休みした方がいいとお伝えしたのですが、ルーク様にとっては私に料理を作る事が何より大切なことのようで、断られてしまいました。

 「んー! すごく美味しい!」

 今日の料理は、チキンの香草焼きと、じゃがいものスープです。

 「やっぱり、料理を食べている時の君の顔は最高だな。全部食べてくれるのも魅力的だ」

 「食いしん坊みたいに言わないでください」

 「どうして? とっても可愛くて、俺は大好きだ」

 食いしん坊は、否定してくださらないのですね。

 「ルーク様、実は今日、リンダ様にお会いしたのですが……」

 リンダ様とお話したことを全てお話したところ、ルーク様も私と同じ考えに至ったようです。

 「少し厄介なことになるかもしれない。父上にも話して、アンダーソン公爵家には目を光らせておく必要があるな。俺達の結婚で王室が注目されている今、国民の目があるからすぐに動くことはないだろう」

 そうですね。国民が私を受け入れてくれたので、今私達に何かしたら、国民を敵に回すことになります。

 「それよりも1ヶ月後にあの国、ナラードに行くことが決まった。ホーリー侯爵夫人の無念を晴らしに行こう!」


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