〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
18 / 44

18、真実とは ―エルビン視点―

しおりを挟む


 邸の中に通された俺は、執事に案内されてホーリー侯爵の寝室に案内された。

 
 「旦那様、エルビン様がお見えになりました」

 「通しなさい」

 中に入ると、体調が悪いのか、病気なのかは分からないが、かなり顔色が悪いホーリー侯爵がベッドに横たわっていた。

 「いきなり来てしまい、申し訳ありません。どこかお悪いのですか?」

 ホーリー侯爵はベッドから起き上がり、俺をソファーに座るように促すと、自分は向かいのイスに腰を下ろし、静かに話し始めた。

 「どこも悪くはありません。気力が衰えているだけです。
 妻の手紙を持っているそうですね。それならば、その手紙をブライト公爵に渡していただけませんか?」

 手紙には、ホーリー侯爵とイザベラのことが書いてあると思ったのだが、なぜそんな事を言うのだ? 俺はわけがわからず、混乱していた。
 そんな俺の様子を見て、ホーリー侯爵は話し出した。

 「……あなたは、持っていないのですね」

 すぐに嘘がバレてしまった。

 「申し訳ありません。侯爵に会う口実が欲しかったので、嘘をついてしまいました」
 
 「かまいません。私は誰かに、話したかったようです。私がした過ちを、聞いていただけますか?」

 侯爵の話は、想像を絶するものだった。
 きっかけは、夫人が妊娠した事。夫人の妊娠を知ったイザベラは、夫人が許せなかった。理由は、自分には子が出来なかったからだ。
 どうして自分ではなく、夫人が身篭ったのかとホーリー侯爵は責められたそうだ。
 そしてイザベラは街のゴロツキを雇い、自分の目の前で夫人を子が流れるまで暴行させた。
 侯爵はそれを知ったあとも、イザベラを庇ったそうだ。そして、夫人は復讐する事を決断した。そのことを、アナベルに手紙で伝えたのだが、アナベルに手紙を届けた使用人が捕まり、拷問されてアナベルに手紙を届けた事を話してしまった。
 拷問された使用人はそのまま亡くなった。そして、イザベラは侯爵に夫人を殺すように言った。

 「私はこの手で、妻を殺してしまいました……」

 侯爵はイザベラに言われた通り、夫人の首を絞めて殺した。夫人の遺体の首に、ロープを巻き付けて自害したように装っていた。

 「どうしてあんな事をしてしまったのか……
 私は妻を愛していました。だが、イザベラの言う事に逆らえなかった。彼女には、何故か不思議な魅力があって、夢中になり過ぎて周りが見えなくなっていた。
 いくら後悔しても、妻は戻って来ない……」

 妻を殺してしまった事で、侯爵は我に返った。だが、後悔してももう遅い。
 まるで、自分を見ているようだった。あのままアナベルが邸にいたら、俺はもしかしたらアナベルを……そう思うと、怖くてたまらなかった。

 イザベラが何度もこの邸に出入りしていたのは、侯爵が真実を話さないように釘をさす為だった。
 ホーリー侯爵にはもう、自ら罪を認めて出頭する気力がなかったから、手紙をブライト公爵に渡して欲しいと頼んだようだ。

 「後悔しているなら、自ら罪を告白して罪を償うべきです。そうしなかったら、きっと夫人は許してはくれませんよ」

 ホーリー侯爵は役所に行き、全てを告白する事を決めた。俺は役所に向かうホーリー侯爵の馬車を、見送ってから邸に戻った。

 数時間後、ホーリー侯爵が事故で亡くなったという報せが届いた。
 なぜあの時着いて行かなかったのかと後悔したが、きっと一緒に行っていても事故は起きただろう。タイミング的に、早すぎる。
 最初から、ホーリー侯爵邸を見張っていて、もしも役所の方に馬車を走らせたなら、事故に見せかけて殺すつもりだったのだろう。

 怒りが込み上げてくる……
 イザベラは自分勝手な理由で、夫人のお腹の子を殺した挙句、侯爵に妻を殺させ、その侯爵まで殺した。
 今は心底、アナベルがここにいない事に感謝した。アナベルが危険な目にあうなど、耐えられない。それにきっと、侯爵の死にも、アナベルは心を痛める。今は、アナベルの無事を確かめたい。無事でいるよな? 


しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...