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18、真実とは ―エルビン視点―
しおりを挟む邸の中に通された俺は、執事に案内されてホーリー侯爵の寝室に案内された。
「旦那様、エルビン様がお見えになりました」
「通しなさい」
中に入ると、体調が悪いのか、病気なのかは分からないが、かなり顔色が悪いホーリー侯爵がベッドに横たわっていた。
「いきなり来てしまい、申し訳ありません。どこかお悪いのですか?」
ホーリー侯爵はベッドから起き上がり、俺をソファーに座るように促すと、自分は向かいのイスに腰を下ろし、静かに話し始めた。
「どこも悪くはありません。気力が衰えているだけです。
妻の手紙を持っているそうですね。それならば、その手紙をブライト公爵に渡していただけませんか?」
手紙には、ホーリー侯爵とイザベラのことが書いてあると思ったのだが、なぜそんな事を言うのだ? 俺はわけがわからず、混乱していた。
そんな俺の様子を見て、ホーリー侯爵は話し出した。
「……あなたは、持っていないのですね」
すぐに嘘がバレてしまった。
「申し訳ありません。侯爵に会う口実が欲しかったので、嘘をついてしまいました」
「かまいません。私は誰かに、話したかったようです。私がした過ちを、聞いていただけますか?」
侯爵の話は、想像を絶するものだった。
きっかけは、夫人が妊娠した事。夫人の妊娠を知ったイザベラは、夫人が許せなかった。理由は、自分には子が出来なかったからだ。
どうして自分ではなく、夫人が身篭ったのかとホーリー侯爵は責められたそうだ。
そしてイザベラは街のゴロツキを雇い、自分の目の前で夫人を子が流れるまで暴行させた。
侯爵はそれを知ったあとも、イザベラを庇ったそうだ。そして、夫人は復讐する事を決断した。そのことを、アナベルに手紙で伝えたのだが、アナベルに手紙を届けた使用人が捕まり、拷問されてアナベルに手紙を届けた事を話してしまった。
拷問された使用人はそのまま亡くなった。そして、イザベラは侯爵に夫人を殺すように言った。
「私はこの手で、妻を殺してしまいました……」
侯爵はイザベラに言われた通り、夫人の首を絞めて殺した。夫人の遺体の首に、ロープを巻き付けて自害したように装っていた。
「どうしてあんな事をしてしまったのか……
私は妻を愛していました。だが、イザベラの言う事に逆らえなかった。彼女には、何故か不思議な魅力があって、夢中になり過ぎて周りが見えなくなっていた。
いくら後悔しても、妻は戻って来ない……」
妻を殺してしまった事で、侯爵は我に返った。だが、後悔してももう遅い。
まるで、自分を見ているようだった。あのままアナベルが邸にいたら、俺はもしかしたらアナベルを……そう思うと、怖くてたまらなかった。
イザベラが何度もこの邸に出入りしていたのは、侯爵が真実を話さないように釘をさす為だった。
ホーリー侯爵にはもう、自ら罪を認めて出頭する気力がなかったから、手紙をブライト公爵に渡して欲しいと頼んだようだ。
「後悔しているなら、自ら罪を告白して罪を償うべきです。そうしなかったら、きっと夫人は許してはくれませんよ」
ホーリー侯爵は役所に行き、全てを告白する事を決めた。俺は役所に向かうホーリー侯爵の馬車を、見送ってから邸に戻った。
数時間後、ホーリー侯爵が事故で亡くなったという報せが届いた。
なぜあの時着いて行かなかったのかと後悔したが、きっと一緒に行っていても事故は起きただろう。タイミング的に、早すぎる。
最初から、ホーリー侯爵邸を見張っていて、もしも役所の方に馬車を走らせたなら、事故に見せかけて殺すつもりだったのだろう。
怒りが込み上げてくる……
イザベラは自分勝手な理由で、夫人のお腹の子を殺した挙句、侯爵に妻を殺させ、その侯爵まで殺した。
今は心底、アナベルがここにいない事に感謝した。アナベルが危険な目にあうなど、耐えられない。それにきっと、侯爵の死にも、アナベルは心を痛める。今は、アナベルの無事を確かめたい。無事でいるよな?
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