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15、アナベルがいない
しおりを挟むアナベルがルークと共に邸を出て行ってから、数日が経った。エルビンは人を雇い、アナベルを探させているが一向に見つかる気配がない。
「他国へ向かう馬車に乗った所までは掴めたのですが、その後の消息は不明です」
「そうか……引き続き頼む。何としてでも、アナベルを見つけて欲しい」
アナベルがいなくなり、エルビンはずっと書斎にこもりきりだった。邸のどこにいても、アナベルの事を思い出してしまうからだ。
「まだ探しているの?」
イザベラは、相変わらずエルビンに会いに来ていた。最初は、アナベルを苦しめる為にエルビンに近付いたのだが、今はイザベラがエルビンに夢中になっていた。
「……ノックくらいしろ」
アナベルがいなくなったことで、エルビンの中で何かが変わっていた。あんなに愛していたはずのイザベラに会っても、何とも思わなくなっていたのだ。
「ノックなんて、私達の間に必要ないでしょ?」
イザベラはエルビンの顔にそっと触れる。
「それでは、私はこれで失礼します」
エルビンと話していた男は、空気を読んでその場から立ち去る。
「人前で堂々とこんな事をしていいのか? ブライト公爵に知られたら、ただではすまないぞ」
「あんな老いぼれなんて、どうにでもなるわ。私はあなたのものよ」
イザベラはエルビンの顔にゆっくり顔を近づけて行く……
「……やめろ」
エルビンはイザベラから顔を背けた。
「な!? どうして!?」
「帰ってくれ」
あの日ルークに言われた事が、エルビンの心を変えていた。
『顔だけのアバズレか、心の綺麗な奥様か、両方は手に入らないんだよ!』
あの言葉が、頭の中で何度も繰り返されている。
自分が取り返しのつかないことをしたのだと、ようやく分かったのだ。
「私を誰だと思ってるの!? 後悔するわよ!!」
よくある捨て台詞を言って、イザベラは帰って行った。
「確かにアバズレだな……」
エルビンはそう言って、天井を見上げた。
イザベラを初めて見たのは、10歳の時だった。エルビンは、イザベラのあまりの美しさに一目で恋に落ちた。だが、いつもイザベラの周りには令息達が集まっていて、エルビンの周りにも令嬢達が集まっていた。2人とも人気者だったからこそ、近付くことが出来なかった。
話す事の出来ない想い人に、どんどん想いは募って行った。そんなある日、湖でイザベラが溺れている所に偶然遭遇した。助けようと必死に走り出したが、イザベラはすでに湖から上がり、去って行ってしまった。
仕方なく溺れていたイザベラの妹を助けた。その時、イザベラの妹はイザベラに少しだけ似ている事に気付いた。
「ありがとうございます! あなたは、命の恩人です!」
真っ直ぐな目で見つめるアナベル。まだ1度も話した事のないイザベラも、こんな感じの子なのかもしれないとエルビンは思った。
そしてエルビンは、アナベルと仲良くなって行った。
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