6 / 44
6、旦那様の変化
しおりを挟むお姉様が邸に来た日から、数日が経ちました。あの日どんな話をしたのか、どうしてお姉様を邸に呼んだのか、エルビン様は何も話してはくれません。
それどころか、寝室も別になり、毎日してくれていたお出かけする前のキスも、お帰りになった時のキスもなくなりました。
理由が何なのか、全く分かりません。私が何か気に触るようなことをしてしまったのでしょうか……
それでも私は、いつもと同じようにエルビン様に接しています。私が暗くなってしまったら、エルビン様が心配してしまいます。私はエルビン様の妻です。それは変わっていないのですから、愛する夫を支えなくてはなりません。
「明日は、ホーリー侯爵邸でお茶会ですね。ホーリー侯爵夫人は、子供を授かったようです。何かお祝いの品を贈ろうと思うのですが、何がいいと思いますか?」
寝室が別になり、キスはなくなってしまったけど、食事はいつも通り一緒に食べてくださるエルビン様。夕食をとりながら、何気なく話した話題でしたが、機嫌を損ねたようです。
「……明日の茶会は、君1人で行ってくれ。仕事がたまっているから、俺は行けそうにない」
私の顔を見ずに話す時は、機嫌が悪い時だと知りました。子供の話をしたからでしょうか……
私も子供が欲しいと、催促したように聞こえたのかもしれません。
「分かりました。あまり無理はなさらないでくださいね」
また余計な事を言って、更に気分を害したくありません。それ以上、何も言うことが出来ませんでした。
「……仕事をする。お茶は必要ないから、書斎に誰も通すな」
まだ食事の途中なのに、エルビン様は席を立ち、書斎に行ってしまいました。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまいました。こんなんじゃダメですね! 目の前に美味しい食事があるんだし、食べて元気を出しましょう!
「奥様、大丈夫ですか?」
執事のバランが、心配そうな顔で私を見ていました。
「大丈夫よ。ありがとう」
「あれほど仲がよろしかったのに、旦那様はどうしてしまわれたのでしょうか……」
確かに……
私に腹を立てる事なんてないと言っていたのに、最近はちょっとした事で気分を害してしまいます。
エルビン様に、何があったというのでしょうか……
でも、使用人達に心配かけるわけにはいきません。
「エルビン様は、最近お仕事がお忙しいから疲れているだけよ。すぐに、いつものエルビン様に戻るから心配しないで」
この言葉、まるで自分自身に言ってるみたいです。
「今日の料理も美味しかったと、ルークに伝えておいて」
エルビン様が食事を残してしまったから、美味しくなかったのではと、ルークは気にするでしょうから。
自室に戻ると、お茶会の事を考えます。
1人で社交の場に出席するのは、初めての事です。きっとまた、嫌味や悪口を言われるのでしょう。だけど、そんな事には負けたりしません。
明日のお茶会の主催者は、ホーリー侯爵だから、お姉様も出席するはずです。ホーリー侯爵はお姉様の恋人の1人です。
あの日、どんな話をしたのか、エルビン様が話してくれないのなら、お姉様に聞くしかありません。
普通なら、浮気をしている相手が主催するお茶会に出席するなんて、頭がおかしいと思います。だけど、お姉様はそんな事を気にしません。それどころか、ホーリー侯爵夫人をバカにしに行くと思います。お姉様は、そういう人です。
お姉様の旦那様のブライト公爵以外のほとんどの貴族は、お姉様が浮気をしている事を知っています。夫に浮気をされた妻が何も言えないのは、お姉様がブライト公爵の妻だから。ブライト公爵にお姉様の事を話しても、ブライト公爵はお姉様の言うことしか信じません。
お姉様のせいで、どれだけの人が傷ついているか……
私の予想とは違い、翌日のお茶会にお姉様は出席しませんでした。そしてこの日、人生最悪の日になりました。
91
お気に入りに追加
5,039
あなたにおすすめの小説
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。
gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。

あなたには彼女がお似合いです
風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。
妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。
でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。
ずっとあなたが好きでした。
あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。
でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。
公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう?
あなたのために婚約を破棄します。
だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。
たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに――
※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる