〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな

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3、憂鬱な夜会

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 今日は夜会なので、あの美味しい料理を食べる事が出来ません。ものすごく残念です。
 ……そんな事を言っている場合ではありませんでした。支度を終えて、エルビン様の待つ玄関に急ぎます。

 「お待たせしてしまい、申し訳ありません! 」

 お待たせした事に罪悪感を抱きながら、エルビン様に駆け寄ります。

 「慌てなくても大丈夫。夜会は逃げたりしないから、遅れても問題ないよ」

 今日は来客があって、予定より支度する時間が遅くなってしまいました。来客というのは、お姉様のご友人でした。
 お姉様は自分が1番だと思っている自己中心的な人なので、お姉様のご友人からよく相談をされます。相談というより、愚痴を聞いているだけのような気がしますが、皆さんは私が1番の被害者なのだと思っているようで、話しやすいようです。話を聞くことは出来るけど、解決はしてあげられません。
 お姉様に何を言っても、ムダだと分かっているからです。

 「エルビン様は、腹が立ったりはしないのですか?」

 先程まで、散々愚痴を聞かされていた私は、エルビン様が1度も怒ったことがない事が不思議に思えました。

 「んー、そうだな。あまりないかな。
 君に腹が立つ事はないと思うよ」

 「どうしてですか?」

 「君が可愛いから、何でも許してしまうと思う」

 エルビン様は、どうしていつも私の欲しい言葉をくださるのでしょう。とても甘い言葉……とろけてしまいそうになります。

 「何でも許してくださるなんて、エルビン様は神様みたいですね」

 本当にいつも優しくて、怒った所を見た事がありません。

 「神か……大袈裟だな。もし俺が神なら、君の願いを叶えてあげたいな」

 「それなら、すでに叶っていますよ。エルビン様と一緒にいたい。それが私の願いです」
 
 エルビン様はそっと私を抱き寄せて、チュッと額にキスをした。

 「あまりに可愛いことを言うから、我慢が出来なかった」
 
 「あまりに愛しい事を仰るから、私も我慢出来ません」

 エルビン様の背に腕をまわし、ギュッと抱きしめた。
 
 「ずっとこうしていたいけど、そろそろ行かないとな」

 イヤ……なんて、ワガママ言えませんね。

 夜会が開かれているデイク侯爵のお邸に、馬車を走らせました。

 デイク侯爵邸に到着して馬車を降りると、令嬢達の視線を感じます。
 『何であなたが、エルビン様の妻なの?』という視線です。釣り合っていないのは、私が1番分かっています。
 
 「エルビン! 会えてよかった! 少しいいか? 君に話があるんだ」

 話しかけて来たのは、エルビン様のご友人のトーマス様。2人は幼馴染みです。

 「アナベル、先に中に入ってて」

 「分かりました。トーマス様、失礼します」

 軽く頭を下げてから、1人で邸の中に入ります。

 「アナベル様ではないですか。相変わらず地味で目立たないから、誰かと思いましたわ」

 中に入ってすぐに見つけて声をかけて来たのに、その嫌味は成立しませんね。

 「地味で目立たないのに、見つけてくださり、ありがとうございます。で、どなたですか?」

 どちらのご令嬢か、本当に全く分かりません。

 「な!? 私を知らないなんて、どこのド田舎から来たのですか?」
 
 どれだけ自意識過剰な方なのでしょう。お姉様とそっくりな方ですね。

 「あなたを知らなくても、暮らしていけるので問題はありません。では、失礼します」

 嫌味を言われる事には慣れてるし、いつまでも付き合っていられません。

 「調子に乗らないでよ! エルビン様は、お金の為にあなたと結婚しただけよ! そうじゃなかったら、あなたみたいなドブスと結婚するわけないじゃない!」

 嫌味から、ただの悪口になりましたね。逆に、清々しいです。

 「俺の可愛い妻に、暴言を吐くのはやめてもらえるか?」

 「エルビン様!?」

 いつからいたのでしょう……
 エルビン様には、聞かれたくなかったです。

 「エ、エルビン様、お久しぶりです。
 私は、カー……」

 「自己紹介は結構です。あなたの名前を覚えるつもりも、呼ぶつもりもありませんから。
 俺の可愛い妻にまた暴言を吐いたら、絶対に許しません。
 さあアナベル、行こうか」

 結局、名前を聞く事か出来なかった名無し令嬢は、顔を真っ赤にしたまま固まっていました。


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