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2、新しい料理長
しおりを挟むエルビン様は急いで着替えを済ませてくれて、2人で食堂に行くと美味しそうな匂いがして来ました。
「エルビン様、早く座りましょう! 私もお腹が空いてしまいました! 今日の料理は、すごく美味しそうな匂いがするんですもの」
テーブルに座り、料理を待ちます。
「そうだな。いい匂いがする。
確か、今日の夕食から料理長がかわるんだったな」
あ! そうでした。
前の料理長は、実家に帰らなくてはならなくなったから、別の料理長を紹介してくれたんでした。
……あれ? 今日はずっと邸にいたけど、挨拶されていないような気がするのですが?
「エルビン様、新しい料理長にはお会いしました?」
「いや、君が会ったんだろ?」
前の料理長の紹介だからと、雇い主に挨拶もないなんて、非常識ではないでしょうか……
「失礼します。今日から、料理長を務めさせていただく、ルーク・オデットと申します」
今更!?
私達の会話が聞こえたのでしょうか。
それに、随分若い料理長ですね。この方が料理長で、本当に大丈夫なのでしょうか……
「先程、旦那様がお帰りになった際に、ご挨拶しようとも思ったのですが、お邪魔になるかと思いまして……
歳は若いですが、腕には自信があります。ご心配なく」
私の心の声まで聞こえてるのですか!?
「そうか。これからよろしく頼む」
「……よろしくね」
なんか今、私の顔を見て笑ったような?
失礼な人ですね! 私のせいで、挨拶出来なかったって言いたいのね!
「よろしくお願い致します。
それでは、料理をお持ちしますので、少々お待ちください」
ルークは厨房へと戻り、執事やメイド達が次々に料理を運んで来ます。
ルークは嫌いだけど、すごく美味しそう……
「食べようか」
「はい」
スープを一口……
何これ、ものすごく美味しいです!!
「これは、美味いな」
「本当ですね! 前の料理長には悪いけど、こんな食事が毎日食べられるなんて、幸せ~!」
料理に罪はありません!
美味しいものは美味しいです!
「君はいつも、美味しそうに食べるな。俺まで幸せな気分になるよ」
「だって、美味しいんですもの!
顔がにやけてしまうのは、仕方がありません!」
私が幸せなのは、料理が美味しいからだけではありません。エルビン様が居てくださるからです。
結婚式に仰ってくださった言葉通り、私を幸せな気持ちにさせてくださるエルビン様。
ただひとつだけ、不満な事があります。
エルビン様は、まだ私を抱いてくださいません。毎日キスはしてくださいますが、ほんの軽いキス。私に色気がないから、抱きたい気持ちになってくださらないのでしょうか……
毎日、同じ寝室で寝ていますが、手を繋いで眠るだけ。結婚してから3ヶ月経つのに、それ以上先に進んでいません。
どうしたら先に進めるのでしょうか……
色気が足りないから、セクシーな格好をしてみたのですが……
『風邪を引くよ』そう言われ、上着をかけられました。
恥ずかしさを我慢して、ベッドの上で自分から迫った時は、エルビン様は寝ていました。
精がつく料理を料理長に頼んだ時は、元気が有り余っているから仕事をすると、書斎から出てきませんでした。
思いつく限りのことは全てやりましたが、何も変わる事はありませんでした。
いつかは私を、抱いてくださるのでしょうか……
「アナベル? ボーッとして、どうした? 疲れているのかい?」
私ったらエルビン様と一緒にいるのに、ボーッとするなんてダメですね!
「すみません、考え事をしていました。
刺繍の柄は、何にしようかなって……」
「刺繍は期待しているけど、あまり無理はしないようにね。君は俺の大切な人なんだから、心配かけるような事はしないで」
エルビン様……私はもう、エルビン様の虜です!
今は抱かれなくても、いつかは身も心もエルビン様のものになれると信じます!
こんなにも想ってくださっているのに、不満だなんて……私はバカでした!
「私はエルビン様の妻になる事が出来て、本当に幸せです。
食事も美味しいし、今日はぐっすり眠れそうです!」
「俺より食事が上なんじゃないか?」
「そんな事はありません! エルビン様の方が、少し上です!」
「少し……か。食事に負けないように、俺も頑張らなくてはならないな」
嘘です。エルビン様さえいてくれたら、他には何もいりません。それほど好きです。大好きです。
明日は夜会が開かれます。正直、社交界の集まりは苦手です。
私はずっと、お姉様と比べられて来ました。お姉様は容姿端麗で頭も良くて、何でも出来てしまいます。それに比べて、私は平凡。
容姿も普通なら、成績も普通でした。お姉様より優れているところなんて、ひとつもありません。
社交界に出席する度に、美しくて出来のいいイザベラの、出来損ないの妹と言われ続けて来ました。本当の事だから、仕方がないのだと耐えて来たのですが、エルビン様と結婚してからは更に酷くなりました。
だけど私は負けません! 嫌味を言われようと、それがなんだというのですか!?
私には、愛するエルビン様がいる! それだけで、どんな事にも耐えられます!
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