上 下
1 / 12

裏切り

しおりを挟む

 私は愛されているのだと思っていた...。
 この光景を見るまでは...。

 「ん...。サミュエル様いけません。奥様に見つかってしまいます。でも...もっと...んっ。」

 女は男の膝の上に乗り、甘い声を出していた。
 その男は私の夫、サミュエル・ゼバス伯爵だ。

 夫サミュエルに初めて会ったのは、5年前の事。
 15歳になったばかりの伯爵令嬢の私に、彼から結婚の申し出があった。
 サミュエルはとても優しく、毎日愛を囁いてくれた。

 次第に彼に惹かれていった私は、彼の申し出を受け入れ結婚した。

 「ロディア、君を一生愛する。」

 その言葉が、愛を知らなかった私の心に愛をくれた。

 両親は反対していた。
 領地を治め、莫大な財産を持つ辺境伯のリーベルト伯爵家と、ほとんど財産のない宮中伯のゼバス伯爵家の結婚...周りにも財産目当てだと散々言われた。
でも私は、彼の愛を信じた。
 
 ...それが間違いだったと、今思い知らされている。
 
 こんな光景を目にして、見たくないのにその場から動くことができない。
 信じたくない...だけど、目の前の光景は現実。
 そして、最も聞きたくなかった言葉を夫は口にする。

 「妻など愛してはいない。おまえのような可愛い女が好きだ。あいつはただの金を生み出す人形だ。」
 
 .....................この人は、本当に旦那様なの?
 あの言葉も、あの眼差しも、あの優しさも...全てが偽物だったというの?

 ロディアは後退りした。

 ガタンッ!

 後退りした時、廊下に置いてある置物にぶつかってしまった!

 「誰だ!?」

 どうしよう...早く逃げなくちゃ...

 だが、足が思うように動かない。
 ゆっくりこちらに歩いてくるサミュエル...
 もうダメ...!!

 その時隣の部屋の扉が開き、

 ガシッ!

 腕を掴まれ、隣の部屋へと連れ込まれた!

 キィ...

 「気のせいか...。」

 サミュエルは誰もいないのを確認し、また女の元へ戻って行った。

 「...奥様、何をなさっているんですか!あの場で見つかったら、奥様は耐えられるのですか?」

 顔を上げると、そこに居たのは使用人のシェイドだった。

 確かにシェイドの言う通りだった...。
 あの場を見た私に、きっと夫は言い訳をする。
 あんな光景を見たにもかかわらず、現実を耐えられない私は彼の言葉を信じてしまうだろう。
 それほど彼を信じ、愛してしまっていた。

 「シェイド...私はどうしたらいいのでしょう...?」

 シェイドは私の腕を掴んでいた手をそっと離し、

 「奥様はどうしたいのですか?」

 私は...分からない...。
 裏切られてもまだ、夫を愛してる自分に腹が立つ。
 だけど、夫の気持ちは最初から作り物だった。

 「私と一緒に逃げますか?」


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

どうか、お幸せになって下さいね。伯爵令嬢はみんなが裏で動いているのに最後まで気づかない。

しげむろ ゆうき
恋愛
 キリオス伯爵家の娘であるハンナは一年前に母を病死で亡くした。そんな悲しみにくれるなか、ある日、父のエドモンドが愛人ドナと隠し子フィナを勝手に連れて来てしまったのだ。  二人はすぐに屋敷を我が物顔で歩き出す。そんな二人にハンナは日々困らされていたが、味方である使用人達のおかげで上手くやっていけていた。  しかし、ある日ハンナは学園の帰りに事故に遭い……。

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

処理中です...