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冥界のトップがお出ましです。

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 インディアン・レッドのドレープカーテンを開くと、クラブのボックス席が現れた。


 オレンジ色の淡い照明のもと、カーテンと同色のベルベット調のソファが、低いテーブルを囲むように緩く円を描いている。


 「疲れた……」


 タナカがソファに座り込む。
 すると。


 「ご指名ありがとうございます。
 閻魔です」


 斜向はすむかいに閻魔さまが腰掛けていた。


 きゃあ、素敵。
 やはり顔の美しさはたかむらと一、二を争う。


 【はーい、死後35日目。閻魔王ね。
 誰も指名してねーけどな】


 ナレーションが強気。
 閻魔さまは冥界のトップだよ?


 「いけめん、ちゅうやつじゃのぅ……」


 ほうけるタナカ。


 「キミかわいいね」



 やめて、閻魔さま!
 ジジイ相手に何を言うの!?



 「そ、そんなに見つめんでくれ」


 照れるタナカ。


 【何の時間だ?】


 そうよ、何の時間なの!?




 「フフ。照れてる顔もかわいいよ。
 ほら、鏡を見てごらん」


 閻魔さまが懐から手鏡を取り出す。


 あ、これはいつもの。
 閻魔さまがご自分のイケメン度を確かめてる……。


 【出たっ、浄玻璃じょうはりの鏡!】



 え?



 閻魔さまがタナカに鏡を向ける。
 そこに映ったのは、今の老いたタナカではなかった。


 周囲をうかがいながら、花柄のハンカチの香りを嗅ぐ少年。



 これってもしかして……生前のタナカの姿──?



 封筒からお金を抜き取り、パチンコ屋へ向かうタナカ。


 浮気相手①を口説くタナカ。
 浮気相手②と事に及ぶタナカ。
 浮気相手③の足にすがるタナカ……。


 閻魔さまの鏡は、いろんなタナカを映し出す。


 「た、頼む! やめてくれぇ」


 悶えるタナカ。


 そうだね。
 こんなの振り返りたくないよね……。


 【こちらの鏡は水晶でできており、亡者の生前の行いをくまなく映し出まーす】


 イケメン度をチェックする鏡じゃなかったんだ。


 【元は巨大な鏡だったため閻魔庁に置かれていましたが、
 時代を経てこんなにコンパクトになりました~】


 こんなにコンパクトにしちゃっていいの!?




 「ほーら。人間て、かわいいよねぇ」




 閻魔さまがゆっくりと言葉を継いだ。
 ゾッとした。


 いつものチャラい閻魔さまじゃない。
 目が笑っていないのだ。


 タナカを見ながら散々けなしてきたけど、私だってやらかした過去はある。
 嘘だって何度もついてる。



 亡者になって鏡を見せられた時、私は冷静でいられるだろうか。



 タナカを見てて分かった。


 何か後ろ暗い行動に出る時の人間の顔。
 すごくずるそうで悪そうで。


 
 申し訳なさそうで。



 人って、あんなに険しい顔するんだ──。



 「お許しください、お許しください!」


 タナカはソファから飛び降りて閻魔さまの足元にひれ伏し、すすり泣く。


 「わしが愚かだった。
 ずっと後悔しとったんですじゃ……」


 タナカ……。
 ずっと罪の意識を感じてたんだ。


 「ふーん。分かっていながらやってしまう」


 閻魔さまがゆっくりとタナカの傍にしゃがんだ。


 「しょーがない存在だね、人間ていうのは」


 タナカのあごに手を添え、上を向かせる。



 やだーっ!!
 あごクイ!

 

 「フッ……泣き顔もかわいいね」


 とろけたような表情のタナカ。



 やめてーっ!!



 【お゛ェェッ!!】


 ナレーション!
 気を確かに!




 「さあ。おふざけはここまでだ」


 閻魔さまがソファに座り直す。



 「これから、キミの行き先を決めるよ」
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