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こんな感じで現在に至ります。
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私が冥界に就職するまでの経緯は、まあざっとこんなところだ。
「大往生である」
小野篁が、おじいさんの前で真っ白な羽扇を翻した。
三国志で孔明が持ってるみたいなやつ。
篁が羽扇を振ると、皆一様に安堵の表情になる。
おじいさんも目尻を下げ、納得したように何度も頷いた。
この後は、私が冥界での過ごし方を説明する流れになっている。
どうしても遺族に伝えたいことがあれば、初七日までは夢枕に立つこともできる。
空間の所々に、電話ボックスに似たブースが設置されているのだ。
慣れれば何とかなる仕事だが、納得いかないこともある。
篁がまったく動かない。
閻魔さまによれば、以前は篁が迷っている人のところへ直接出向いて羽扇を振っていたという。
今は私がいるのをいいことに、中央の席でふんぞり返っている。
中央まで、いちいち迷い人をお連れしなければならない。
おまけに時間も分からない。
冥界では疲労や空腹などを感じないため、次から次へと舞い込む仕事に対応しているうちにとんでもなく時間が経過しているのだ。
初出勤から帰宅した時には丸二日が経っており、家族からは「どんなブラック企業なのか」と本気で心配された。
最近ようやく感覚が掴めて定時で帰れるようになったが、たまに勘が外れて深夜帰宅になると本当にヘコむ。
篁は、部下の勤務時間にまったく気をつかってくれない。
自分だって昔は俗世人だったくせに!
おじいさんへの説明が終わった。
死が確定してから初七日までの間に、秦広王という人から殺生についての裁きを受ける。
三途の川を渡り、それ以降も7日ごとにいろんな人から裁きを受けますよ。
私が説明するのは大体こんなところだ。
おじいさんが畳に座ってくつろぎ出すと暇になった。
帰っちゃおうかな。
例の鞄は常に持ち歩いている。
篁は、私に一切気をつかわない代わりに黙って帰っても文句は言わない。
鞄に手を入れようとしたその時だった。
「何よ、ここ……。
シュンちゃん? どこ?」
振り返れば、栗色の髪をポニーテールにした若い女性がへたり込んでいる。
私と同じくらいかな……?
白いワンピースにブーツを合わせてる。
それにしても何だか色素が薄いような……。
っていうか、こんなに若そうな人がどうして!?
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る。
女性は、涙を溜めた目で訴えた。
「私、シュンちゃん……彼といたはずなんです。
どうして……」
「大丈夫。何かの間違いですよ。
上司に聞いてみましょう」
女性の手を取ろうとして空振りした。
色素が薄いと感じたのは、透けてるからなんだ。
「と、とにかく行きましょう」
女性を促して中央を目指す。
「篁さま!」
「むぅ」
私が女性をお連れすると、篁は少し眉を動かした。
「帰るが良い」
私が口を開く前に篁が羽扇を振る。
女性がいきなり消えた。
え──?
篁は、何事もなかったかのように再度自席に沈み込む。
「た、篁さま。
今の何だったんですか?」
「透けておっただろう」
面倒くさそうに口を開く上司。
透けてって……あの女の人のこと?
「あの娘は、何らかの事情で一時的に昏倒したのだ」
昏倒って、気を失うみたいなことだよね。
そういう場合もここに来るんだ。
あ、そっか。
気を失ってるだけの時は体が透けてる。
で。消えたってことは俗世で意識を取り戻している、と。
もうちょっと丁寧に説明してくれたっていいのに。
「でも良かったぁ」
私は胸を撫で下ろした。
「あの女の人、すごく不安そうだったから。
あんなに若い人が冥界に来るなんておかしいですよねぇ」
確か、彼と一緒だったって言ってた。
オシャレしてたし、きっとデート中だったんだろう。
だとしたら、彼氏の方も今頃安心して──。
篁が、閉じていた瞼をふっと開けた。
切れ長の目を意味深に光らせながら、こちらに視線を流す。
顔は、ため息出るくらい綺麗なんだよなぁ。
……何よ?
今日、やけに見てくるじゃない。
思わず見つめ返しちゃう。
も、もしかして篁って私のこと……。
篁が、花弁のような唇を開いた。
「阿呆が」
何なの、この人──!?
「大往生である」
小野篁が、おじいさんの前で真っ白な羽扇を翻した。
三国志で孔明が持ってるみたいなやつ。
篁が羽扇を振ると、皆一様に安堵の表情になる。
おじいさんも目尻を下げ、納得したように何度も頷いた。
この後は、私が冥界での過ごし方を説明する流れになっている。
どうしても遺族に伝えたいことがあれば、初七日までは夢枕に立つこともできる。
空間の所々に、電話ボックスに似たブースが設置されているのだ。
慣れれば何とかなる仕事だが、納得いかないこともある。
篁がまったく動かない。
閻魔さまによれば、以前は篁が迷っている人のところへ直接出向いて羽扇を振っていたという。
今は私がいるのをいいことに、中央の席でふんぞり返っている。
中央まで、いちいち迷い人をお連れしなければならない。
おまけに時間も分からない。
冥界では疲労や空腹などを感じないため、次から次へと舞い込む仕事に対応しているうちにとんでもなく時間が経過しているのだ。
初出勤から帰宅した時には丸二日が経っており、家族からは「どんなブラック企業なのか」と本気で心配された。
最近ようやく感覚が掴めて定時で帰れるようになったが、たまに勘が外れて深夜帰宅になると本当にヘコむ。
篁は、部下の勤務時間にまったく気をつかってくれない。
自分だって昔は俗世人だったくせに!
おじいさんへの説明が終わった。
死が確定してから初七日までの間に、秦広王という人から殺生についての裁きを受ける。
三途の川を渡り、それ以降も7日ごとにいろんな人から裁きを受けますよ。
私が説明するのは大体こんなところだ。
おじいさんが畳に座ってくつろぎ出すと暇になった。
帰っちゃおうかな。
例の鞄は常に持ち歩いている。
篁は、私に一切気をつかわない代わりに黙って帰っても文句は言わない。
鞄に手を入れようとしたその時だった。
「何よ、ここ……。
シュンちゃん? どこ?」
振り返れば、栗色の髪をポニーテールにした若い女性がへたり込んでいる。
私と同じくらいかな……?
白いワンピースにブーツを合わせてる。
それにしても何だか色素が薄いような……。
っていうか、こんなに若そうな人がどうして!?
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る。
女性は、涙を溜めた目で訴えた。
「私、シュンちゃん……彼といたはずなんです。
どうして……」
「大丈夫。何かの間違いですよ。
上司に聞いてみましょう」
女性の手を取ろうとして空振りした。
色素が薄いと感じたのは、透けてるからなんだ。
「と、とにかく行きましょう」
女性を促して中央を目指す。
「篁さま!」
「むぅ」
私が女性をお連れすると、篁は少し眉を動かした。
「帰るが良い」
私が口を開く前に篁が羽扇を振る。
女性がいきなり消えた。
え──?
篁は、何事もなかったかのように再度自席に沈み込む。
「た、篁さま。
今の何だったんですか?」
「透けておっただろう」
面倒くさそうに口を開く上司。
透けてって……あの女の人のこと?
「あの娘は、何らかの事情で一時的に昏倒したのだ」
昏倒って、気を失うみたいなことだよね。
そういう場合もここに来るんだ。
あ、そっか。
気を失ってるだけの時は体が透けてる。
で。消えたってことは俗世で意識を取り戻している、と。
もうちょっと丁寧に説明してくれたっていいのに。
「でも良かったぁ」
私は胸を撫で下ろした。
「あの女の人、すごく不安そうだったから。
あんなに若い人が冥界に来るなんておかしいですよねぇ」
確か、彼と一緒だったって言ってた。
オシャレしてたし、きっとデート中だったんだろう。
だとしたら、彼氏の方も今頃安心して──。
篁が、閉じていた瞼をふっと開けた。
切れ長の目を意味深に光らせながら、こちらに視線を流す。
顔は、ため息出るくらい綺麗なんだよなぁ。
……何よ?
今日、やけに見てくるじゃない。
思わず見つめ返しちゃう。
も、もしかして篁って私のこと……。
篁が、花弁のような唇を開いた。
「阿呆が」
何なの、この人──!?
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