上 下
3 / 25

夢じゃなかったみたいです。

しおりを挟む
 暇かと問われれば確かに暇だ。
 100件目の会社にも落ちちゃったし。


 「仕事をやる。参れ」


 いや、参れって。
 どこに?


 小野篁おののたかむらと名乗る彼は多くを語らず、枕元に手を伸ばす。
 そしてあろうことか、置いてあった私の鞄を開けた。


 「ちょ、やめてよ! 私の!」


 使い込んだグレーのビジネスバッグ。
 見られたくない物だって入ってる。


 乙女のプライバシーを勝手に覗くな。
 抗議しようとした次の瞬間。
 信じ難い現象が起こった。





 小野篁が、私の鞄に吸い込まれて消えた。



 ◇


 私の怪我は奇跡的に打撲だけで済んだ。
 驚いて気絶してしまっただけらしい。


 当たりどころが良かったのか?
 トラックと接触したことを考えれば一生分の運を使った気がする。


 翌日には退院。
 自室へ戻ると、気になるのは“小野篁”だ。



 あれは夢だったのか。



 就活用の鞄を開けてみれば、ポーチや企業のパンフレット。
 いつもと変わらない物が目に映る。



 ここに、本当に人が吸い込まれたのか──?



 ふと思い立ってスマートフォンを手に取り、検索画面を開く。


 小野篁おののたかむら。あった。
 実在した人物だ。


 平安時代の、超やり手の官僚。
 歌人でもあった。
 百人一首の……そんなの、あったっけ?


 ともかく。
 お上にも平然と楯突たてつく人であったらしい。
 それが災いして流罪になるも、見事復活を遂げている。


 その激しい一面から『野狂』と渾名あだなされ、現在の単位で188cmほどの高身長でもあったとか。


 人でありながら冥界へ通い、閻魔えんま大王に仕えていたという信じ難い伝説まである。


 「嘘でしょ」


 あれが、歴史上の人物?


 病院での出来事が現実だったかどうかも定かでない。
 でも、すごく綺麗な人だった……。


 引き寄せられるように鞄の中に手を入れた。
 ポーチやハンカチをかき分け、鞄の底に手がつくと──。



 「あ」



 確かに引っ張られる感覚があった。
 

 
 

 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

女ハッカーのコードネームは @takashi

一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか? その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。 守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

インキュバスさんの8畳ワンルーム甘やかしごはん

夕日(夕日凪)
キャラ文芸
嶺井琴子、二十四歳は小さな印刷会社に勤める会社員である。 仕事疲れの日々を送っていたある日、琴子の夢の中に女性の『精気』を食べて生きる悪魔、 『インキュバス』を名乗る絶世の美貌の青年が現れた。 彼が琴子を見て口にした言葉は…… 「うわ。この子、精気も体力も枯れっ枯れだ」 その日からインキュバスのエルゥは、琴子の八畳ワンルームを訪れるようになった。 ただ美味しいご飯で、彼女を甘やかすためだけに。 世話焼きインキュバスとお疲れ女子のほのぼのだったり、時々シリアスだったりのラブコメディ。 ストックが尽きるまで1日1~2話更新です。10万文字前後で完結予定。

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

TAKAMURA 小野篁伝

大隅 スミヲ
キャラ文芸
《あらすじ》 時は平安時代初期。小野篁という若者がいた。身長は六尺二寸(約188センチ)と偉丈夫であり、武芸に優れていた。十五歳から二十歳までの間は、父に従い陸奥国で過ごした。当時の陸奥は蝦夷との最前線であり、絶えず武力衝突が起きていた地である。そんな環境の中で篁は武芸の腕を磨いていった。二十歳となった時、篁は平安京へと戻った。文章生となり勉学に励み、二年で弾正台の下級役人である少忠に就いた。 篁は武芸や教養が優れているだけではなかった。人には見えぬモノ、あやかしの存在を視ることができたのだ。 ある晩、女に救いを求められる。羅生門に住み着いた鬼を追い払ってほしいというのだ。篁はその願いを引き受け、その鬼を退治する。 鬼退治を依頼してきた女――花――は礼をしたいと、ある場所へ篁を案内する。六道辻にある寺院。その境内にある井戸の中へと篁を導き、冥府へと案内する。花の主は冥府の王である閻魔大王だった。花は閻魔の眷属だった。閻魔は篁に礼をしたいといい、酒をご馳走する。 その後も、篁はあやかしや物怪騒動に巻き込まれていき、契りを結んだ羅城門の鬼――ラジョウ――と共に平安京にはびこる魑魅魍魎たちを退治する。 陰陽師との共闘、公家の娘との恋、鬼切の太刀を振るい強敵たちと戦っていく。百鬼夜行に生霊、狗神といった、あやかし、物怪たちも登場し、平安京で暴れまわる。 そして、小野家と因縁のある《両面宿儺》の封印が解かれる。 篁と弟の千株は攫われた妹を救うために、両面宿儺討伐へと向かい、死闘を繰り広げる。 鈴鹿山に住み着く《大嶽丸》、そして謎の美女《鈴鹿御前》が登場し、篁はピンチに陥る。ラジョウと力を合わせ大嶽丸たちを退治した篁は冥府へと導かれる。 冥府では異変が起きていた。冥府に現れた謎の陰陽師によって、冥府各地で反乱が発生したのだ。その反乱を鎮圧するべく、閻魔大王は篁にある依頼をする。 死闘の末、反乱軍を鎮圧した篁たち。冥府の平和は篁たちの活躍によって保たれたのだった。 史実をベースとした平安ダークファンタジー小説、ここにあり。

ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~

415
キャラ文芸
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」 普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。 何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。 死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。

処理中です...