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第五章 クリスマスの涙
夜明け4
しおりを挟む女にとって、当面の課題は仕事だった。
しばらく無職でいたので金が減るのは当然だが、それにしても減りすぎている。
災難続きで仕事を探すどころではなかったから、そろそろ本腰を入れなければ。
そして。
しなければいけないことは、まだある。
頭の隅にある、きらっと光る小さな何か。
それを思い出すと、どうしてか前向きになれるような気がするのだった。
「あの、佐山さん。私……」
意を決して顔を上げた時には、笑みが浮かんでいた。
何かと悩みを抱えやすい不器用な女は、それでも少しずつ、前へ進もうとしている。
「私は──」
***
「んもう! 何で私がこんな目に遭うのよ!?」
カラオケセットのマイクを通して、絶叫が壁に反響する。
音が外に漏れたとて、猛吹雪のおかげで辺りには人っ子一人いない。
ところ変わって。
駅前の、小さいけれども小洒落たスナック。
先程のワンルームでワインを酌み交わす男女の話題に上った、“冴子さん”の店である。
男の方が予想した通り、この猛吹雪で列車は運転を停止。
したがって客はいない。
冴子さんは、この悪天候で帰宅することもできず店に留まっているのだった。
「店のお酒、全部飲んでやるんだから!」
酒の並ぶ棚に嵌め込まれたガラスに映る、赤い衣装が痛々しい。
冴子さんはカウンター席の一つにドカッと腰を下ろすと、ウイスキーの水割りを一気に呷った。
「あーあ。ま、ちょうど良かったかしらね」
氷の残ったグラスに新しい酒をトプトプと注ぐ。
「後は上手いことやりなさいよ。お二人さん」
冴子さんはグラスを目の高さほどに掲げ持ち、ぼんやりとそれを眺めて呟いた。
「メリークリスマス」
それぞれの場所で、夜は明けようとしている──。
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