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第五章 クリスマスの涙

夜明け2

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 「冴子さん、そろそろ来ますかね?」


 「この雪です。難しいのでは」


 「じゃあ、お客さんも足止めかしら」


 「いや。この吹雪だと電車も動いていないでしょうから、今頃は閑古鳥が鳴いているのではないですか」


 「えぇっ!? サンタの衣装用意して張り切ってたのに……冴子さん」


 「ああ、あれ。着ることにしたのですか。フ、滑稽だな」


 「本人の前で言ったら怒られますよ」


 眉をひそめて見せながら、女は内心喜んだ。
 飲みかけのワインに口をつけて頬を赤らめる。
 この人と、まだ二人きりでいられる──。


 やっぱり好き。


 髪に隠れて、目の表情はよく分からない。
 広い肩。長くて真っ直ぐな指。
 相変わらず飄々とした態度。

 ドキドキして、女はローテーブルの上に視線を落とした。

 どういう訳か、災難ばかり続く年だった。
 クリスマスをこんな風に過ごせることが、女には夢のようだ。

 今こうしていられるのは、さっき話題に上った“冴子さん”のお陰である。
 彼女が、人や行事に全く興味のないこの人を無理に誘ってくれたのだ。

 チラリと顔を上げると、目の前の人はグラスのワインを飲み干して小さく息をついたところだった。


 「もう少し飲みますか?」


 女がワインのボトルを持ち上げると、彼は少し口角を上げてグラスを掲げた。


 「どうも」


 女の心臓が、小躍りを始めた。



 始まりは九月だった。
 女は記憶の糸をたどる。

 彼氏に振られ、仕事が失くなり。
 あの頃は、どん底だった。

 仕事をクビになったのは、振られたショックで何も手につかなくなったから。
 そして、振られた原因は──。


 ベビー・アレルギー。


 遡ること約一年。
 彼氏から結婚を打診されて、天にも昇る気分だった。

 ところがその後のライフプラン、特に子どもについての話になると、女の身体からは一気に拒否反応が出た。


 女は、この世で赤ちゃんが最も苦手なのだ。


 赤ちゃん好きの彼氏との関係は悪化。
 最後の頃の彼は、新しい恋人がいることを隠そうともしなかった。

 そして九月。
 「酷い女」の烙印を押されたまま、彼との関係は終わった。

 女は荒れた。
 ベビー・アレルギーが原因で振られるのが、五度目だったからだ。


 そんな時だった。
 隣室から、この人がやって来たのは。
 うるさいと苦情を言いに来たのだ。

 別に暴れていたわけではない。
 泣きながらビールを飲んでいただけなのに。
 この騒音問題は、今もうやむやのままだ。

 出会った瞬間、その風貌から何て怪しい人だろうと思った。
 さらに、ペット文鳥のことを友達だと言い切った時には相当引いた。



 でも──。
 いつも助けてくれた。
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