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第五章 クリスマスの涙
審判1
しおりを挟む奇跡は起きなかった。
それでも、私にはまだやらなければいけないことがある。
「バカねぇ、ほんとは寂しいクセに」
私は、ルナの小さな顔を指で挟み込んだ。
アヒル口。そんな風に眉をひん曲げて。
これは、納得できてない時の顔。
「にゃによぅ、ふぁかって!」
また喧嘩になる。
やっと分かった。最後に私がすること。
小さなルナを、悲しいまま還さない。
「あんた、諦めてないでしょうね? 順番回って来ないって」
顔の前に指を突き出すと、ルナはぎくりとした様子で指をしゃぶった。
やっぱりか。だから、あんな表情だったんだ。
「いい? 絶対に生まれてきなさい。
もう一度、会うわよ!」
ルナが訝しげな顔をする。
ベビーに馬鹿にされてるようでちょっとムカついた。
「あんたは何も気にせず生まれりゃいいの!
あとは、私が世界中駆けずり回ってでも見つけてあげる!」
ルナは、薄い眉をますます反り返らせた。
くすん、と一声泣き声をあげる。
「バカだよ、絵美ぃ。あたしたち、記憶を抜かれちゃうんだよ」
分かってる。それでも。
「それでも忘れないの」
泣きながら膨れっ面になるルナに、しっかり目を合わせた。
「ねえ、ルナ。この三ヶ月って何だったんだろう。
怒って泣いて。面倒くさくて楽しくて。
目が回るような毎日。ジェットコースターに乗ってるみたいだった」
ルナの涙を指で拭ってやる。
「こんなこと……例え神様に忘れろって命令されたって、忘れられるわけがないじゃないの」
ルナが目を見開いた。
「ほんとうに?」
くるりとした黒目がしっかり私を捉える。
これは、ワクワクしてる時の顔。
私は大きく頷いた。
「……順番、ちゃんと回ってくるかなぁ」
「大丈夫! その時は、ちゃんと探しに行くから」
もう一度、大きく頷いてみせる。
ルナは覚悟を決めたように、ふんと息を吐いた。
「パパと一緒に来てね」
「うっ? うん」
「なんか怪しいなぁ。絵美、あたしがいないと頼りないしぃ」
「なんですって!?」
また喧嘩になる。
一瞬間を置いた後、お互いケタケタと笑い合った。
ルナが固く握り込んでいた指を開く。
掌と掌が重なった。
二人で頷き合うと、私は佐山の形をした者にルナを託した。
その腕を両側から支え、ルナを囲むようにする。
『──それが、おまえの審判か』
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