118 / 130
第五章 クリスマスの涙
天秤1
しおりを挟む
胸の中で心が潰れる感触が確かにあった。
血の味が喉に迫り上がる。
決断するのは私。
こんな残酷なことってある?
捨て切れなかった。
嘘が真実に変わる可能性。
でも、その希望を通したらルナは消える。
惰性で目の前の人に助けを求めてハッとなった。
いつも頼れるその人は、形を留めているだけで意識を失っている。
佐山だったら、何て答えるだろう。
「お願い、待ってよ。日付けが変わるまで。
だって、この子が初めにそう言っ……」
『──おまえに存在を知られた以上、猶予はない』
この強大な存在に、誤魔化しは効かない。
『──三ヶ月というのは、この子が出鱈目に設けた期間だ。
限界はとうに超えている』
「絵美ぃ! あたし、ここにいる!」
ルナのが小さな手で必死に私の指を掴む。
残すと決めれば、今すぐの別れは回避される。
『声』はルナが消えると言うが、これまでも何度か危ないところを持ち直してきた。
奇跡が起こるかもしれない。
還すと決めれば。
順番は、永遠に巡ってこないと決まった訳ではない。
生まれ変わる。それもまた奇跡だ。
どちらも不確実。
私とルナの繋がりは、いつだって危なっかしい。
『──決められないのか。ならば勝手に連れて行くぞ』
ルナが泣き声を上げた。私は必死でルナを抱え込む。
「やめて……!」
『──苦しむことはない。すぐに楽になる』
その言い方がやけに意味深に響く。
『──この子がしでかしたことは前代未聞だ。
そして、私もまた知られてはならない存在……』
「何が言いたいのよ!?」
迫る不安を押し退けるように、私は声を荒げた。
目の前のものが腕を上げる。
私は、引き離されないようしっかりとルナを抱き直した。
『──記憶をもらう』
背後から冷水を浴びせられたみたいに身体が竦む。
佐山の形をした者は上げた腕をピタリと止めると、ちょうど私の額のあたりで掌を翳した。
最も無情な宣告が下る。
『──この子に関係した全ての者から、この子の記憶を抜き取らせてもらう』
血の味が喉に迫り上がる。
決断するのは私。
こんな残酷なことってある?
捨て切れなかった。
嘘が真実に変わる可能性。
でも、その希望を通したらルナは消える。
惰性で目の前の人に助けを求めてハッとなった。
いつも頼れるその人は、形を留めているだけで意識を失っている。
佐山だったら、何て答えるだろう。
「お願い、待ってよ。日付けが変わるまで。
だって、この子が初めにそう言っ……」
『──おまえに存在を知られた以上、猶予はない』
この強大な存在に、誤魔化しは効かない。
『──三ヶ月というのは、この子が出鱈目に設けた期間だ。
限界はとうに超えている』
「絵美ぃ! あたし、ここにいる!」
ルナのが小さな手で必死に私の指を掴む。
残すと決めれば、今すぐの別れは回避される。
『声』はルナが消えると言うが、これまでも何度か危ないところを持ち直してきた。
奇跡が起こるかもしれない。
還すと決めれば。
順番は、永遠に巡ってこないと決まった訳ではない。
生まれ変わる。それもまた奇跡だ。
どちらも不確実。
私とルナの繋がりは、いつだって危なっかしい。
『──決められないのか。ならば勝手に連れて行くぞ』
ルナが泣き声を上げた。私は必死でルナを抱え込む。
「やめて……!」
『──苦しむことはない。すぐに楽になる』
その言い方がやけに意味深に響く。
『──この子がしでかしたことは前代未聞だ。
そして、私もまた知られてはならない存在……』
「何が言いたいのよ!?」
迫る不安を押し退けるように、私は声を荒げた。
目の前のものが腕を上げる。
私は、引き離されないようしっかりとルナを抱き直した。
『──記憶をもらう』
背後から冷水を浴びせられたみたいに身体が竦む。
佐山の形をした者は上げた腕をピタリと止めると、ちょうど私の額のあたりで掌を翳した。
最も無情な宣告が下る。
『──この子に関係した全ての者から、この子の記憶を抜き取らせてもらう』
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】婚約破棄の代償は
かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティにて王太子に婚約破棄を告げられる侯爵令嬢のマーガレット。
王太子殿下が大事にしている男爵令嬢をいじめたという冤罪にて追放されようとするが、それだけは断固としてお断りいたします。
だって私、別の目的があって、それを餌に王太子の婚約者になっただけですから。
ーーーーーー
初投稿です。
よろしくお願いします!
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件
遥 かずら
恋愛
両親が仕事で家を空けることが多かった高校生、栗城幸多は実質一人暮らし状態。そんな幸多のお隣さんには中学が一緒だった笹倉秋稲が住んでいる。
彼女は幸多が中学時代に告白した時、爽やかな笑顔を見せながら「ずっと友達ならいいですよ」とズッ友宣言をしてきた快活系女子だった。他にも彼女に告白した男子も数知れずいたもののやはり友達止まり。そんな笹倉秋稲に告白した男子たちの間には、フラれたうちに入らない無傷の戦友として友情が芽生えたとかなんとか。あくまで友達扱いをしていた彼女は、男女関係なく分け隔てない優しさがあったので人気は不動のものだった。
「高校生になってもずっとお友達だよ!」
「……あ、うん」
「友達は友達だからね?」
やんわりとお断りされたけどお友達な関係、しかもお隣同士な二人の不思議な関係。
本音がつかめない女子、笹倉秋稲と栗城幸多の関係はとてもゆっくりとした時間の中から徐々に本当の気持ちを運ぶようになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる