【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第五章 クリスマスの涙

天秤1

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 胸の中で心が潰れる感触が確かにあった。
 血の味が喉に迫り上がる。

 決断するのは私。
 こんな残酷なことってある?

 捨て切れなかった。
 嘘が真実に変わる可能性。

 でも、その希望を通したらルナは消える。

 惰性で目の前の人に助けを求めてハッとなった。
 いつも頼れるその人は、形を留めているだけで意識を失っている。

 佐山だったら、何て答えるだろう。


 「お願い、待ってよ。日付けが変わるまで。
 だって、この子が初めにそう言っ……」


 『──おまえに存在を知られた以上、猶予はない』


 この強大な存在に、誤魔化しは効かない。


 『──三ヶ月というのは、この子が出鱈目でたらめに設けた期間だ。
 限界はとうに超えている』


 「絵美ぃ! あたし、ここにいる!」


 ルナのが小さな手で必死に私の指を掴む。

 残すと決めれば、今すぐの別れは回避される。
 『声』はルナが消えると言うが、これまでも何度か危ないところを持ち直してきた。
 奇跡が起こるかもしれない。

 還すと決めれば。
 順番は、永遠に巡ってこないと決まった訳ではない。
 生まれ変わる。それもまた奇跡だ。


 どちらも不確実。
 私とルナの繋がりは、いつだって危なっかしい。



 『──決められないのか。ならば勝手に連れて行くぞ』


 ルナが泣き声を上げた。私は必死でルナを抱え込む。


 「やめて……!」


 『──苦しむことはない。すぐに楽になる』


 その言い方がやけに意味深に響く。


 『──この子がしでかしたことは前代未聞だ。
  そして、私もまた知られてはならない存在……』


 「何が言いたいのよ!?」


 迫る不安を押し退けるように、私は声を荒げた。

 目の前のものが腕を上げる。
 私は、引き離されないようしっかりとルナを抱き直した。


 『──記憶をもらう』


 背後から冷水を浴びせられたみたいに身体がすくむ。
 佐山の形をした者は上げた腕をピタリと止めると、ちょうど私の額のあたりで掌をかざした。


 最も無情な宣告が下る。



 『──この子に関係した全ての者から、この子の記憶を抜き取らせてもらう』
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