【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第五章 クリスマスの涙

真実2

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 思えば、ルナとの生活は初めから謎に満ちていた。


 「やめてえぇっ!」


 ルナが絶叫する。

 九月の、ひょうが降ったあの日。
 ルナは突然そこに居た。
 私は、ずっと窓から外を見てたのに。

 警察への通報も上手くいかなかった。
 麻由子に伝えようとしたら声が出なくなった。

 湧いて出たように不思議なメモが部屋にあって、それに従ってルナを預かることにした。
 ところが、どこかにいるはずの依頼主は雲のように掴みどころがなく、メモ自体もいつの間にか消えていた。

 そして何よりも、私とだけ言葉が通じた。


 ルナは、人の手によってここに運ばれたのではない。


 私が顔を上げると、佐山の形をした『声』は、それが合図だったかのように語り始めた。


 『──気の遠くなるような過去、遙か遠い地で』


 「過去なんて知らない! あたし、何処にも行かないんだから!」


 ルナが身体中で懇願する。



 『──この子は、生まれるだった』



 『声』は、私の理解が追いつくのを待つように間を空けた。


 『──だが、それは叶わなかった。
 この子は泣く泣く私のところへ戻ってきた』


 ルナの過去。
 私も生まれていない頃の、ずっと昔の。


 『──奇跡のようなものだ。この子らが無事、地上へ辿り着くことは』


 じゃあ、ここにいるルナは。
 胸に抱き続けた希望に紗が掛かる。

 『声』が語ることが真実なら、ここに存在するルナは誰からも生まれていないということになる。
 つまり、実体のあるベビーではないということ──。


 遠のいていく。
 嘘が真実に変わる可能性。三人で歩く未来。


 『──時が巡れば生まれ変わることもある。
 しかし。どういう訳か、この子の順番だけは、いくら時を経ても巡って来なかったのだ』


 ルナが泣いている。私は、ルナをしっかり抱きとめておくことしかできない。


 『──結果、この子は禁を犯した。
 親となる者の血を受け継ぐ前に、こちらの世界へ飛び出した』


 ルナ。
 聞きたいことがたくさんあるのに、私の口から漏れたのは嗚咽だった。
 あんたは本当に虚像なの?


 温もりがここにあるのに。
 小さな胸の震えが、確かに伝わるのに。




 『──名と姿かたちは、たまたま近くにいた者を真似たようだな』


 梨奈ちゃんだ。
 だから二人はあんなに似ていた。


 『──その者がさらわれたのは全くの偶然であったが……随分と気を揉んだぞ』



 思い返せば、おかしなことは山ほどあった。

 どこから来たかと問えば「わからない」とおどけて。
 依頼人について尋ねれば、そわそわしながら「言えない」と。
 誘拐騒ぎで梨奈ちゃんの顔が全国区になった時には「あたしの方が可愛い」なんて。

 小さな身体で、必死の嘘と強がりを。
 私は何も気づかないまま──。

 後悔が涙になって頬を伝った。


 「……冗談じゃないわよ!」


 「絵美ぃ?」


 不安げなルナを抱き直す。


 「元々そっちが悪いんじゃないの!」


 ルナはずっと待ってたのに。
 私は、怒りをもって宣言した。




 「ルナは渡さない!」
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