114 / 130
第五章 クリスマスの涙
クリスマス・イブ3
しおりを挟む佐山が少し首を傾げた。
彼は、日付が変わった後に訪れる運命を知らない。
「あなたはそのままで良い。
僕は好きですよ、あなたのような人」
心臓が爆発した。
爆発は免れたが、それに近いほど大きく鼓動したことは確かである。
不意打ちだ。佐山はズルい。
顔色ひとつ変えないで。
──僕は好きですよ、あなたのような人。
それは、例えば「和食系が好きなんだよね」っていうのと同じ種類の“好き”かもしれない。
けど嬉しいじゃない。
期待するじゃない。
今度こそ上手くやれと拳を握る冴子さんが、左斜め上にチラついた。
今、なのかも。
外でゴオッと風が唸った。
「あ、あのおぉっ!」
勢いをつけるようにワインを呷る。
こんなことしてる場合じゃないって分かってる。
審判の結果が賭かってる今。でも。
「あの。佐山さん」
まだ捨て切れない。
嘘が、真実に変わる可能性。
三人で歩いていく未来。
佐山がこちらを見ている。
髪で顔の上半分がほぼ見えない様相は、本当に変人のようで初めは戸惑ったものだ。
でも今なら分かる。
彼は、きちんとこちらを見ている。
「私……」
その時だった。
部屋の電気がチカチカ点滅したかと思うと、そのままフッと光が消えた。
「停電か?」
「やだ! 佐山さん、ルナ。どこ?」
この大事な時に──!
私は手探りで移動する。
「宮原さん、落ち着いて」
「だって怖いんだもの! 私、真っ暗なのダメなんです!」
「まったく」
「うっ、うええぇぇん」
「ここですよ」
パッと手を掴まれた。
暗闇の中での人の気配にホッとする。
「ごめん、ルナ。起こしちゃった」
ルナはパニックになっているらしい。
何か明かりになるもの……と言っても、こう暗くては探しに行くこともできない。
と、周りがボウッと明るくなった。
こちらを向いている佐山と、腕の中のルナが浮かび上がる。
初め、佐山がスマホか何かで照らしてくれたのかと思った。
でも違う。それよりも不安定な、蝋燭の火、みたいな。
ルナが泣き止んできょろきょろし始める。
佐山は「落ち着いて」と言った後、さらに言葉を継ごうとしたようだった。
しかし、口を開いた状態で突如動きを止める。
彼は、そのままガクンと首を垂れた。
「佐山さん?」
縁起でもないが、魂が抜けたかというくらいの脱力の仕方だった。
胸がザワザワと騒ぎ出す。
「佐山さん……佐山さん! どうしたの!?」
何度か呼びかけると、彼は機械仕掛けのようにカクカクと顔を上げた。
再び口が開かれる。しかし、いつもの佐山の語り口ではなかった。
『──ようやく辿り着いた……まったく、勝手な真似をしてくれたな』
「佐山さん? 何を言ってるのよ?」
佐山は、こちらの呼びかけに何の反応も示さない。
『──お前か。この子が求めていたのは』
佐山は、目の前で確かに佐山の形をしているのに。まるで違う生き物みたい。
『──私は』
違う。
見つけた異和感。
『──私は、この子を連れ戻しに来た者だ』
この声。
佐山の声じゃない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には
月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。
令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。
愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ――――
婚約は解消となった。
物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。
視点は、成金の商人視点。
設定はふわっと。
蝶々結びの片紐
桜樹璃音
ライト文芸
抱きしめたい。触りたい。口づけたい。
俺だって、俺だって、俺だって……。
なぁ、どうしたらお前のことを、
忘れられる――?
新選組、藤堂平助の片恋の行方は。
▷ただ儚く君を想うシリーズ Short Story
Since 2022.03.24~2022.07.22
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
※7月22日第2章完結。
※カクヨムにも投稿しています。

ほどけそうな結び目なのにほどけないね
圍 杉菜ひ
ライト文芸
津賀子さんに迫り来るものとは……
紹介文
津賀子は小学一年生の時以来と思われるソナタさんとトイレで偶然に再会した。この再会により津賀子は大変な目に……。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
夜紅の憲兵姫
黒蝶
ライト文芸
烏合学園監査部…それは、生徒会役員とはまた別の権威を持った独立部署である。
その長たる高校部2年生の折原詩乃(おりはら しの)は忙しい毎日をおくっていた。
妹の穂乃(みの)を守るため、学生ながらバイトを複数掛け持ちしている。
…表向きはそういう学生だ。
「普通のものと変わらないと思うぞ。…使用用途以外は」
「あんな物騒なことになってるなんて、誰も思ってないでしょうからね…」
ちゃらい見た目の真面目な後輩の陽向。
暗い過去と後悔を抱えて生きる教師、室星。
普通の人間とは違う世界に干渉し、他の人々との出逢いや別れを繰り返しながら、詩乃は自分が信じた道を歩き続ける。
これは、ある少女を取り巻く世界の物語。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
ミミサキ市の誘拐犯
三石成
ファンタジー
ユージは本庁捜査一課に所属する刑事だ。キャリア組の中では珍しい、貧しい母子家庭で育った倹約家である。
彼はある日「ミミサキ市の誘拐犯」という特殊な誘拐事件の存在を知る。その誘拐事件は九年前から毎年起こり、毎回一〇〇〇万イェロの身代金を奪われながら、犯人の逃亡を許し続けていた。加えて誘拐されていた子供は必ず無傷で帰ってくる。
多額の金が奪われていることに憤りを感じたユージは、一〇年目の事件解決を目指し、単身ミミサキ市へ向かう。ミミサキ市はリゾート地化が進んだ海沿いの田舎だ。
彼はそこでノラという一五歳の少女と出会って相棒となり、二人で事件の捜査を進めていくことになる。
ブロマンス要素あり、現実に近い異世界での刑事モノファンタジー。
表紙イラスト:斧田藤也様(@SERAUQS)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる