【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

文字の大きさ
上 下
97 / 130
第五章 クリスマスの涙

異変2

しおりを挟む
 決定的におかしいと思い始めたのは、数日後のことだった。


 くしゃみの回数が多いとは思っていたのだ。

 その日、ルナの顔がやけに白く見えた。
 元々色白なので分かりにくいが、何だか血の気がないようだ。
 頬に触れてみると、ハッとするほど冷たかった。

 「嘘!」

 慌てて身体を確かめてみると、手足も冷たい。

 「ルナ。あんた、寒くない?」

 「んー? 別に大丈夫だよ」

 ルナは、けろりとしている。
 部屋を暖めたりして様子を見ると五分ほどで冷えは解消されたのだが……。

 それから二日。
 夜になると、必ず一度は同じ症状が出る。

 これまでにない異変だった。




 「どう思う?」

 いつものカップを麻由子に差し出した。
 気まぐれな冴子さんは、今日はいない。

 麻由子は「うーん」と言いながら湯気の香りを吸い込んだ。
 今日は、麻由子の手土産のカモミールティーだ。
 カップを置くと、麻由子はルナを抱き上げる。

 「顔色は……今は特に気にならないわね。
 機嫌も良いし」

 彼女は、うーんと言いながらルナと顔の高さを合わせるようにした。
 ルナは人の心配をよそに、きょとんとした顔で足をぶらぶらさせている。

 「赤ちゃんの手足って意外と冷たいものよ。
 寒い時期だから余計にそう思うんじゃない?」
 
 「そっか……ありがと、麻由子」



 症状が出る夜を迎えるのは心配だが、子育て経験のある麻由子から言ってもらえると安心感が違う。

 後から調べてみると、彼女が言った通りであった。
 赤ちゃんは手足で体温調節をしているとある。

 しかし、あの血の気が引いたような顔色や冷たさはどうなんだろう。

 一度思いつくと心配で、長時間スマホにかじりついてしまう。
 しかし、どれだけ時間をかけても、ルナの症状にピンポイントで当てはまるものはない。

 ルナの白い顔。胸騒ぎがする。

 今夜は大丈夫だろうか。
 気のせいであってほしい。




 「少し顔色がすぐれませんね」

 「佐山さんもそう思いますか」

 「いや、あなたのことですよ」

 夕刻。
 仕事を終えてやって来た佐山にルナの症状を説明する。

 「酒井さんが言うように、季節が関係しているかもしれませんね」

 彼は、考えるようにゆっくりと言葉を継いだ。
 「僕は直接その症状を見ていませんが」と付け加えた上で、

 「他に異常は?
 機嫌が悪いとか、ぐったりしているとか」

 と質問してくる。
 それはないなぁと思い首を横に振ると、佐山はうーんと唸ってルナを抱き上げた。

 ちらっとその横顔を盗み見る。


 やっぱり頼ってしまった。
 本当は、言うのは止めておこうと思っていたのだ。
 しかし、どうしても不安は募るのだった。


 「様子を見ましょう。
 どうしてもという時は病院へ行けばいい」
 
 佐山と話すだけで落ち着いてきた。
 結局、自分で判断できないんだよなぁ。

 「もしや、ずっと考え込んでいたのですか?」

 「はぁ」

 なぜ分かる?

 「情報に惑わされてはいけません。
 何事も……いたた」

 ルナが佐山のヒゲを引っ張ったのである。
 一度は布団の上に戻された彼女だが、くるりと回転してぺたぺたと床を這い、佐山の膝の上に舞い戻っていたのだ。

 小さな手がヒゲに触れたのは偶然で、しっかり掴むほどの長さがないそれはすぐにすっぽ抜けてしまった。
 が、ルナは獲物を狙う目になっている。

 途切れた佐山の言葉。
 大方、「冷静さが必要なのです」などと続けるつもりだったのだろう。

 「何事も冷静さが必要なのです」


 ほら。


 「ほら」

 「っへ!」

 ふいに手首を掴まれ、引き寄せられた。

 「僕の手だって冷たいでしょう」

 髭に手を伸ばすルナから逃げることもなく、佐山は口の端を上げた。

 外を歩いてきたためか、佐山の手は冷えている。
 いつぞや、私を温めてくれた時と違って。

 確かに気にしすぎなのかもしれない。
 大人だって外気の影響を受けるのだ。
 未発達なベビーなら尚更だろう。



 けど、私は冷静でなんていられない。
 そんな風に触れられたら。
 
 

 佐山が帰った後、病院の場所を調べた。
 歩いて行けそうな小児科だ。

 その夜、例の症状は出なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

真実の愛に目覚めたら男になりました!

かじはら くまこ
ライト文芸
結婚式の日に美月は新郎に男と逃げられた。 飲まなきゃやってらんないわ! と行きつけの店で飲むところに声をかけてきたのはオカマの男だったが、、 最後はもちろんハッピーエンドです! 時々、中学生以下(含む)は読ませたくない内容ありです。

シャウトの仕方ない日常

鏡野ゆう
ライト文芸
航空自衛隊第四航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルス。 その五番機パイロットをつとめる影山達矢三等空佐の不本意な日常。 こちらに登場する飛行隊長の沖田二佐、統括班長の青井三佐は佐伯瑠璃さんの『スワローテールになりたいの』『その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー』に登場する沖田千斗星君と青井翼君です。築城で登場する杉田隊長は、白い黒猫さんの『イルカカフェ今日も営業中』に登場する杉田さんです。※佐伯瑠璃さん、白い黒猫さんには許可をいただいています※ ※不定期更新※ ※小説家になろう、カクヨムでも公開中※ ※影さんより一言※ ( ゚д゚)わかっとると思うけどフィクションやしな! ※第2回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました。ありがとうございます。※

名もなき朝の唄〈湖畔のフレンチレストランで〉

市來茉莉(茉莉恵)
ライト文芸
【本編完結】【後日談1,2 完結】 写真を生き甲斐にしていた恩師、給仕長が亡くなった。 吹雪の夜明け、毎日撮影ポイントにしていた場所で息絶えていた。 彼の作品は死してもなお世に出ることはない。 歌手の夢破れ、父のレストランを手伝う葉子は、亡くなった彼から『給仕・セルヴーズ』としての仕事を叩き込んでもらっていた。 そんな恩師の死が、葉子『ハコ』を突き動かす。 彼が死したそこで、ハコはカメラを置いて動画の配信を始める。 メートル・ドテル(給仕長)だった男が、一流と言われた仕事も友人も愛弟子も捨て、死しても撮影を貫いた『エゴ』を知るために。 名もなき写真を撮り続けたそこで、名もなき朝の唄を毎日届ける。 やがて世間がハコと彼の名もなき活動に気づき始めた――。 死んでもいいほどほしいもの、それはなんだろう。 北海道、函館近郊 七飯町 駒ヶ岳を臨む湖沼がある大沼国定公園 湖畔のフレンチレストランで働く男たちと彼女のお話 ★短編3作+中編1作の連作(本編:124,166文字) (1.ヒロイン・ハコ⇒2.他界する給仕長の北星秀視点⇒3.ヒロインを支える給仕長の後輩・篠田視点⇒4.最後にヒロイン視点に戻っていきます) ★後日談(続編)2編あり(完結)

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

終わらぬ四季を君と二人で

緑川 つきあかり
ライト文芸
物置き小屋と化した蔵に探し物をしていた青年・山本颯飛は砂埃に塗れ、乱雑に山積みにされた箱の中から一つの懐中時計を目にした。 それは、不思議と古びているのに真新しく、底蓋には殴り書いたような綴りが刻まれていた。 特に気にも留めずに、大切な彼女の笑いの種するべく、病院へと歩みを進めていった。 それから、不思議な日々を送ることに……?

【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一
ライト文芸
織原朔真16歳は人前で話せない。息が詰まり、頭が真っ白になる。そんな悩みを抱えていたある日、妹の織原萌にVチューバーになって喋る練習をしたらどうかと持ち掛けられた。 織原朔真の扮するキャラクター、エドヴァルド・ブレインは次第に人気を博していく。そんな中、チャンネル登録者数が1桁の時から応援してくれていた視聴者が、織原朔真と同じ高校に通う国民的アイドル、椎名町45に属する音咲華多莉だったことに気が付く。 彼女に自分がエドヴァルドだとバレたら落胆させてしまうかもしれない。彼女には勿論、学校の生徒達や視聴者達に自分の正体がバレないよう、Vチューバー活動をするのだが、織原朔真は自分の中に異変を感じる。 ネットの中だけの人格であるエドヴァルドが現実世界にも顔を覗かせ始めたのだ。 学校とアルバイトだけの生活から一変、視聴者や同じVチューバー達との交流、eスポーツを経て変わっていく自分の心情や価値観。 これは織原朔真や彼に関わる者達が成長していく物語である。 カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。

冤罪による婚約破棄を迫られた令嬢ですが、私の前世は老練の弁護士です

知見夜空
恋愛
生徒たちの前で婚約者に冤罪による婚約破棄をされた瞬間、伯爵令嬢のソフィ―・テーミスは前世を思い出した。 それは冤罪専門の老弁護士だったこと。 婚約者のバニティ君は気弱な彼女を一方的に糾弾して黙らせるつもりだったらしいが、私が目覚めたからにはそうはさせない。 見た目は令嬢。頭脳はおじ様になった主人公の弁論が冴え渡る! 最後にヒロインのひたむきな愛情も報われる逆転に次ぐ逆転の新感覚・学内裁判ラブコメディ(このお話は小説家になろうにも投稿しています)。

処理中です...