【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第四章 続・十一月の受難

男の本音4

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 地下駐車場へ続くエレベーターホール。

 さっきまで「ここでに見られたらまたストーカー扱いだ」などと軽口を飛ばしていた昌也であったが、ガランとした空間に近づくと急速に大人しくなった。

 「なあ、さっきの。
 ユイカのことだけど」

 また友人として会ってやってくれないかという、先程の依頼を思い出す。

 「ユイカさんの方が嫌がるんじゃないの?」

 昌也の思うところが分からず、私は戸惑いを覚えた。

 「あいつは、俺らのことをただの友達同士だと思ってる」

 「いや、そんなワケないって!」

 それは表向きだ。
 内心、不安に決まっている。

 私は、産後間もないユイカさんのメンタルが本気で心配になってきた。
 
 「そういうヤツなんだよ」

 しかし、昌也は呑気に目元をほころばせる。

 あの公園で遭遇した後、ユイカさんは不思議そうに聞いたそうだ。
 「絵美さんを知ってるの?」と。

 「知り合いだ」というぎこちない説明にもかかわらず、彼女はそれを信じた。
 その目には、1ミリの疑いの色も無かったという。
 それだけでなく、この偶然をいたく喜んでくれているとか。


 ホントか?


 無理してるんじゃないのか。
 ユイカさん、良い人だし……。

 私はいぶかしい思いで昌也を見返したのだが。
 彼女の天使の如き素直な性格を考えると、あり得ることだとも思えてきた。
 むしろ、とても彼女らしいのかも。

 「分かった。
 近いうちに行くわ、あの公園」

 決めてしまうと、今度はユイカさんに会うのが楽しみになってきた。
 審判以降を想像すると、喉が詰まるように苦しくなるけど。

 「俺さ」

 昌也が何か言いかけた時、チンと音がして下降の矢印が点滅を始めた。
 ようやくエレベーターが降りてきたのだ。
 これで、もう会うことはないだろう。

 彼は先を続けた。

 「自信ねえんだよな。
 家族を守る自信」


 「どうしたの、急に?」

 いつも根拠のない自信に溢れていて、それでもどこか憎めない。
 そんな彼が見せたことのない弱々しい横顔である。

 「大きすぎるんだよ、存在が。
 大切すぎて怖くなるんだ。間違えたら失いそうで」

 先延ばしになっていた入籍。
 彼なりに思うところがあったのだろうか。

 ユイカさんは、そんな彼を信じて待っていた。
 
 「あんたは、もっとユイカさんを信用しなさい!」

 背中をバン! と叩いてやる。

 勢いでよろけた彼は、ちょうど開いたエレベーターの箱の中へ転がり込んだ。
 先に乗っていた幾組かのファミリーが目を丸くしている。

 「あんたなんかに勿体無い、最高の嫁じゃん!
 家族でしょう、あんたたちは」

 彼は、ピクリと肩を動かして振り返った。
 まったく、世話が焼ける元彼だ。

 「がんばれ」

 「ああ」

 昌也は大きく頷いた。
 余計な言葉はない。でも、多分もう大丈夫だ。

 「彼氏と仲良くな」

 否定する前に、エレベーターの扉が静かに閉じた。
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