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第三章 十一月の受難

仮想新婚、からの1

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 「まったく。
 あなたは仕様がない人ですね」

 ルナを抱っこした佐山が、私の横に並ぶ。
 二人して、あるものを覗き込んでくる。

 「何をどういった割合で配合したら血のように赤いシチューができるのです?」

 「その表現、やめてもらっていいですか」

 「う……うえぇん」

 「ルナ!?
 何でコレ見て泣くのよ?」

 ワンルームの一角の、小さなキッチン。

 佐山は、結局ここに残ってくれた。
 助けてもらったお礼も兼ねて、夕食をふるまうことにした。

 しかし、出来上がったビーフシチューは……。

 ルウを割り入れるだけじゃ味気ないと思ったのだ。
 麻由子から、色々混ぜるとコクが出ると聞いていたのだが。
 やっぱり私、センスない。

 味見をするため、グツグツと煮えたぎる赤い液体を小皿によそう。
 チラリと隣の気配をうかがうと。
 

 改めて。
 背、高いな。


 横から手が伸びて来る。
 佐山は指先で小皿のシチューに触ると、それを口に運んだ。
 長くて真直ぐな指。

 どぎまぎして視線を落とすと、目の前のシャツにはまだシワが寄っている。
 自分の行いが思い出されて無駄に心拍が上がる。

 あったかかったな、佐山の身体。

 私、赤面していないだろうか。
 カラダとかそんな……何を考えてるんだろう、私。

 思案顔でシチューの味を確かめていた佐山が言った。

 「凄いな、食べられますよ!」

 「食べるものを作ってます!」



 ボコボコと沸騰する鍋の中身を見下ろす。
 確かに赤い。

 「はいはい。
 もう見るのは止めておきましょうね」

 佐山は、まだぐしゅぐしゅと愚図るルナの背をさすりながらキッチンを離れていく。
 また恥をさらしてしまった。

 どうしよう、まだドキドキしてる。
 佐山は、さっきのことを何とも思っていないのだろうか。

 振り返ると、佐山はルナをあやしつつソファに座っている。
 私は、できたての食事を出そうとしている。

 なんか一緒に住ん……駄目だ駄目だ、余計なことは考えない!


 ***


 「うーん。不思議な味だ。
 何故か後を引く」
 
 午後八時過ぎ。
 色々あった割には早めの夕食となった。

 ローテーブルに食事を並べ、私たちは向かい合って座っている。

 「な、なかなか斬新でしょう?
 予定通りだわ」

 「しかし、これはビーフシチューではないですね。
 宮原さん、あなた」

 佐山は真っ赤なシチューをすすった。

 「料理ができない人ですね?」

 「……」

 「やはりな。
 初めから怪しいと思っていましたよ」

 ルナがけたけたっと笑った。
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