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第二章 十月の修羅場
女子会3
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──放っておけないのです。
不覚にもちょっと、ときめいてしまった。
“放っておけない”というのは、けっこうドキッとくる言葉だ。
しかし──。
相手が佐山となると、事情はちょっと変わってくる。
恐らく、彼の辞書に婉曲という言葉は無い。
余計なことを考えず、そこにある事実だけに目を向ける。
いささか情緒に欠けるのが佐山なのである。
つまり。
あの言葉は、今後の甘やかな展開を確約するものではない。
二十九にして、いかにも頼りなさそうな女がベビーを預かること。
ピーコにストレスを与えること。
文字通り、そういったネガティブな感情から出た言葉なのだろう。
別に落胆していない。
佐山なんて男を、わざわざ分析するまでもないのだ。
「噂を否定するのも面倒でしょ?
本当にくっついちゃえば?」
上の空でいたら、冴子さんが話しかけてきた。
ウキウキした様子で頬杖をついている。
「あの噂、まだ生きてるんですか?」
げんなりして冴子さんに問い返す。
私と佐山がそういう仲で、子供までいるという噂。
子供とは勿論ルナのことだ。
勝手な思い込みで噂を流しているのは大家・挟間道代である。
「昨日、店に来たの。
例のあれ、見てたらしいわ」
冴子さんは、あっけらかんと言う。
待って。例のあれって!?
「ちょ!
あの茶番を見てたってことですか!?」
思わず冴子さんの肩をつかんで揺する。
「茶番なんて言わなくてもぉ。
見てたらしいよ」
冴子さんは、ガクガク揺れつつもケロリと言った。
またあの女だよ。
何でいつもタイミング良く(悪く)……暇か!!
ローテーブルの上の食べ物を揺り落とす勢いで拳が震えた。
冴子さんによれば、道代はたまに来店するそうだ。
大体、ご近所さんやアパートの住人を連れているという。
このアパートは二階建てで合計十室。
若い独身者が大半だが、道代と同年代とみられる女性も入居している。
同年代の気安さで親しくしているらしい。
冴子さんがこのアパートの事情に詳しいのは、こういった人々を接客しているからであった。
ともかく、昨晩も道代は冴子さんの店に現れた。
道代は、唾を飛ばしながら次のように語ったという。
***
『ちょっと聞いて!
この前、すごいもん見たの!
修羅場よ、修羅場!
102号室の宮原さん!
ガラの悪い男がすごい剣幕で乗り込んで来てさ。
そこへ103号室の佐山さんも出て来て。
そうそう、噂になってる!
物好きよねぇ、隣人に手を出すなんて』
あなたが流した噂です。
『凄かったんだからぁ、怒号が飛んじゃって。
人目も憚らずにによくやるわ、最近の若い子は。
まあそんなに若くないけど』
余計な一言を、いつも絶対忘れないですね。
『可哀想に、あの赤ちゃん。
どっちの子か分かったもんじゃないわ』
どっちの子でもありませんよ。
あなたが作った話なの。
『それが、二人とも全然違うタイプ。
佐山さんは知ってるでしょ?
もう一人は、まぁ顔は良いけど軽薄そうな感じよ』
パッと見で昌也の本質を見抜けるところは年の功ですかね。
『要するにね。あの娘、誰でもいいの。
あんな顔して、男にだらしないのよ』
ババア、私に恨みでもあんのか。
***
こんな感じで、突っ込みどころ満載な話だったらしい。
一応お客なので、冴子さんは口を出せなかったようだが……。
同じアパートの女性も同席していたのがマズかった。
あのオバサンも道代とそう変わらないから、もう誰彼かまわず話を吹聴しているだろう。
「結局、私が不貞を働いたことになってるんですね……」
不覚にもちょっと、ときめいてしまった。
“放っておけない”というのは、けっこうドキッとくる言葉だ。
しかし──。
相手が佐山となると、事情はちょっと変わってくる。
恐らく、彼の辞書に婉曲という言葉は無い。
余計なことを考えず、そこにある事実だけに目を向ける。
いささか情緒に欠けるのが佐山なのである。
つまり。
あの言葉は、今後の甘やかな展開を確約するものではない。
二十九にして、いかにも頼りなさそうな女がベビーを預かること。
ピーコにストレスを与えること。
文字通り、そういったネガティブな感情から出た言葉なのだろう。
別に落胆していない。
佐山なんて男を、わざわざ分析するまでもないのだ。
「噂を否定するのも面倒でしょ?
本当にくっついちゃえば?」
上の空でいたら、冴子さんが話しかけてきた。
ウキウキした様子で頬杖をついている。
「あの噂、まだ生きてるんですか?」
げんなりして冴子さんに問い返す。
私と佐山がそういう仲で、子供までいるという噂。
子供とは勿論ルナのことだ。
勝手な思い込みで噂を流しているのは大家・挟間道代である。
「昨日、店に来たの。
例のあれ、見てたらしいわ」
冴子さんは、あっけらかんと言う。
待って。例のあれって!?
「ちょ!
あの茶番を見てたってことですか!?」
思わず冴子さんの肩をつかんで揺する。
「茶番なんて言わなくてもぉ。
見てたらしいよ」
冴子さんは、ガクガク揺れつつもケロリと言った。
またあの女だよ。
何でいつもタイミング良く(悪く)……暇か!!
ローテーブルの上の食べ物を揺り落とす勢いで拳が震えた。
冴子さんによれば、道代はたまに来店するそうだ。
大体、ご近所さんやアパートの住人を連れているという。
このアパートは二階建てで合計十室。
若い独身者が大半だが、道代と同年代とみられる女性も入居している。
同年代の気安さで親しくしているらしい。
冴子さんがこのアパートの事情に詳しいのは、こういった人々を接客しているからであった。
ともかく、昨晩も道代は冴子さんの店に現れた。
道代は、唾を飛ばしながら次のように語ったという。
***
『ちょっと聞いて!
この前、すごいもん見たの!
修羅場よ、修羅場!
102号室の宮原さん!
ガラの悪い男がすごい剣幕で乗り込んで来てさ。
そこへ103号室の佐山さんも出て来て。
そうそう、噂になってる!
物好きよねぇ、隣人に手を出すなんて』
あなたが流した噂です。
『凄かったんだからぁ、怒号が飛んじゃって。
人目も憚らずにによくやるわ、最近の若い子は。
まあそんなに若くないけど』
余計な一言を、いつも絶対忘れないですね。
『可哀想に、あの赤ちゃん。
どっちの子か分かったもんじゃないわ』
どっちの子でもありませんよ。
あなたが作った話なの。
『それが、二人とも全然違うタイプ。
佐山さんは知ってるでしょ?
もう一人は、まぁ顔は良いけど軽薄そうな感じよ』
パッと見で昌也の本質を見抜けるところは年の功ですかね。
『要するにね。あの娘、誰でもいいの。
あんな顔して、男にだらしないのよ』
ババア、私に恨みでもあんのか。
***
こんな感じで、突っ込みどころ満載な話だったらしい。
一応お客なので、冴子さんは口を出せなかったようだが……。
同じアパートの女性も同席していたのがマズかった。
あのオバサンも道代とそう変わらないから、もう誰彼かまわず話を吹聴しているだろう。
「結局、私が不貞を働いたことになってるんですね……」
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