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第二章 十月の修羅場
修羅場は続くよ、どこまでも2
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「警察に突き出されたくなければ、もうここへは来ないことです」
佐山は、呆れたように腰に手を当てた。
「来たくて来てんじゃねぇわ!」
昌也は髪を振り乱して叫ぶ。
そうだね。
私とルナを見かけて焦って追いかけてきたんだもんね。
「俺はその女と話してんだ。
ウゼェんだよ、てめぇ!」
ついに、昌也が佐山の胸ぐらを掴んだ。
そうだったね。
ルナが自分の子だって思ってるんだもんね。
そう言えばその話、まだ終わってなかったね……。
「下がって」
こちらを見ずに、佐山が短く言った。
それから、昌也の手を引き剥がしてググッと力を込める。
昌也が怯んだように見えた。
「この通り、僕らには家庭があるんだ。
これ以上手出しするなら容赦しませんよ」
待った、何その誤解を招くような言い方──!?
「ちょっと!」
足を前に出しかけると、ルナがしゃきーんと目を開いた。
やっぱり寝たフリだったんだ。
ルナは首巡らせて私を見上げると、意味ありげな顔で言った。
「話を合わせときなさい」
ルナの言葉は私の頭の中に届くので、誰にも聞こえてはいないのだが。
続いて、ルナはニヤリと笑った。
ベビーってそんな顔できるんだ。
「あのコワイおにーさんを追っ払うには、これがいちばん早いの」
話はもっと早く終わる筈だった。
佐山が割り込んで来なければ……!
「やっぱり、コイツとデキてたんだな!」
「そういう訳ですので諦めてください」
「ちょっと待ってッ!」
「んぶうぅっ、あぎっ(話を合わせろって言ったでしょ)」
「俺の子だって言ったよな!?」
「あー……やっぱりその話、覚えてた?」
「あーぅー(絵美がいけないんだよっ)」
「妄想癖か」
「黙れ、てめぇ!」
ああ、もう。
四者四様の言葉が入り乱れて収拾がつかない。
昌也が私に詰め寄ろうとし、すぐに佐山に阻まれた。
「初めから俺を騙すつもりだったんだろう!
訴えてやるからな!」
大きな背中の向こうで、昌也がわめいている。
「ご、ごめん。本気にすると思わなくて。
結果的に、あんたは困らないんだから良いんじゃない?」
ユイカさんとの子供のことだけ考えてれば良いんだもんね。
佐山の後ろからチラリと顔を出すと、昌也は放心したように立ち尽くしていた。
自分が何故この場にいるのか、何をムキになっているのか。
ようやく考え始めたようだった。
「覚えとけよ!」
忘れられる訳ないよ、こんな茶番。
昌也は逃げるように走り去る。
十月にしてはやけに冷たい風が、私たちの前を吹き過ぎていった──。
佐山は、呆れたように腰に手を当てた。
「来たくて来てんじゃねぇわ!」
昌也は髪を振り乱して叫ぶ。
そうだね。
私とルナを見かけて焦って追いかけてきたんだもんね。
「俺はその女と話してんだ。
ウゼェんだよ、てめぇ!」
ついに、昌也が佐山の胸ぐらを掴んだ。
そうだったね。
ルナが自分の子だって思ってるんだもんね。
そう言えばその話、まだ終わってなかったね……。
「下がって」
こちらを見ずに、佐山が短く言った。
それから、昌也の手を引き剥がしてググッと力を込める。
昌也が怯んだように見えた。
「この通り、僕らには家庭があるんだ。
これ以上手出しするなら容赦しませんよ」
待った、何その誤解を招くような言い方──!?
「ちょっと!」
足を前に出しかけると、ルナがしゃきーんと目を開いた。
やっぱり寝たフリだったんだ。
ルナは首巡らせて私を見上げると、意味ありげな顔で言った。
「話を合わせときなさい」
ルナの言葉は私の頭の中に届くので、誰にも聞こえてはいないのだが。
続いて、ルナはニヤリと笑った。
ベビーってそんな顔できるんだ。
「あのコワイおにーさんを追っ払うには、これがいちばん早いの」
話はもっと早く終わる筈だった。
佐山が割り込んで来なければ……!
「やっぱり、コイツとデキてたんだな!」
「そういう訳ですので諦めてください」
「ちょっと待ってッ!」
「んぶうぅっ、あぎっ(話を合わせろって言ったでしょ)」
「俺の子だって言ったよな!?」
「あー……やっぱりその話、覚えてた?」
「あーぅー(絵美がいけないんだよっ)」
「妄想癖か」
「黙れ、てめぇ!」
ああ、もう。
四者四様の言葉が入り乱れて収拾がつかない。
昌也が私に詰め寄ろうとし、すぐに佐山に阻まれた。
「初めから俺を騙すつもりだったんだろう!
訴えてやるからな!」
大きな背中の向こうで、昌也がわめいている。
「ご、ごめん。本気にすると思わなくて。
結果的に、あんたは困らないんだから良いんじゃない?」
ユイカさんとの子供のことだけ考えてれば良いんだもんね。
佐山の後ろからチラリと顔を出すと、昌也は放心したように立ち尽くしていた。
自分が何故この場にいるのか、何をムキになっているのか。
ようやく考え始めたようだった。
「覚えとけよ!」
忘れられる訳ないよ、こんな茶番。
昌也は逃げるように走り去る。
十月にしてはやけに冷たい風が、私たちの前を吹き過ぎていった──。
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