30 / 130
第二章 十月の修羅場
青天の霹靂2
しおりを挟む
「お散歩ですか。良い心がけです」
玄関の鍵をかけていると、佐山が隣の部屋からぬぼーっと顔を出した。
ルナがけたけたと笑い出す。
「冷やし過ぎないように」
佐山は、乳母車のルナをチラと見やった。
すごいイラッとする。いちいち口出してきて。
姑か。
やるとなったら、とことんやる性格らしい。
ピーコのためとはいえ、よく続く。
「何で朝から居るんですか?」
「もうお昼前ですよ。今日は休みなのです」
玄関ポーチの辺りで立ち話をしていると、冴子さんがピンヒールのかかとを鳴らしながら階段を降りてきた。
まだ仕事へは行かないのか、ラフな格好である。
冴子さんは何も言わず、からかうように肩をすくめて去って行った。
「後ほど、お邪魔しますので」
佐山は気にする様子もない。
「あの。変な噂が立ってるんで控えてもらえませんか」
「控えるとは?」
食いつく場所が微妙に違う。
噂の方を気にしてくれ。
「噂になってるらしいんです。わ、私たち……」
私たちが付き合っていてルナは二人の子という、大家・挟間道代が勝手に作り上げた噂。
本人を前にして口に出すのは気恥ずかしく、私の声は尻すぼみになった。
佐山は、ドアを手で支えながら表情を変えずに突っ立っている。
「特に問題はないでしょう。では後ほど」
問題あるでしょう……!
待てと言う前に、佐山はドアを閉めてしまった。
掃除してないんですけど。
これ以上、道代に変な噂を立てられては堪らない。
後でもう一度言い聞かせてやらなければ。
公園への道すがら、ルナはぶぅっと頬を膨らませている。
佐山と一緒に出掛けたかったのだろうが、それだけではないはずだ。
これから会いに行くユイカさんは、私とルナが本物の母娘だと思っている。
ルナは、それが気に入らないのだ。
仕方ないじゃん。
若さと美貌、もうすぐ生まれてくるベビー。
ユイカさんは、私が手に入れられないものを全て持っている。希望に満ちている。
母親って肩書きがないと、それに圧倒されてしまうんだ。
ユイカさんは、今日も散歩に来ていた。
そして、今日もきれいだ。
こんなに胸がチリチリするなら、ルナが言う通り公園に来なきゃいい。
でも。
「ねぇ、絵美さん。聞いてもらえますか?」
でも。私を頼ったり、すごいと言ってくれるのもまた、ユイカさんだけだから。
玄関の鍵をかけていると、佐山が隣の部屋からぬぼーっと顔を出した。
ルナがけたけたと笑い出す。
「冷やし過ぎないように」
佐山は、乳母車のルナをチラと見やった。
すごいイラッとする。いちいち口出してきて。
姑か。
やるとなったら、とことんやる性格らしい。
ピーコのためとはいえ、よく続く。
「何で朝から居るんですか?」
「もうお昼前ですよ。今日は休みなのです」
玄関ポーチの辺りで立ち話をしていると、冴子さんがピンヒールのかかとを鳴らしながら階段を降りてきた。
まだ仕事へは行かないのか、ラフな格好である。
冴子さんは何も言わず、からかうように肩をすくめて去って行った。
「後ほど、お邪魔しますので」
佐山は気にする様子もない。
「あの。変な噂が立ってるんで控えてもらえませんか」
「控えるとは?」
食いつく場所が微妙に違う。
噂の方を気にしてくれ。
「噂になってるらしいんです。わ、私たち……」
私たちが付き合っていてルナは二人の子という、大家・挟間道代が勝手に作り上げた噂。
本人を前にして口に出すのは気恥ずかしく、私の声は尻すぼみになった。
佐山は、ドアを手で支えながら表情を変えずに突っ立っている。
「特に問題はないでしょう。では後ほど」
問題あるでしょう……!
待てと言う前に、佐山はドアを閉めてしまった。
掃除してないんですけど。
これ以上、道代に変な噂を立てられては堪らない。
後でもう一度言い聞かせてやらなければ。
公園への道すがら、ルナはぶぅっと頬を膨らませている。
佐山と一緒に出掛けたかったのだろうが、それだけではないはずだ。
これから会いに行くユイカさんは、私とルナが本物の母娘だと思っている。
ルナは、それが気に入らないのだ。
仕方ないじゃん。
若さと美貌、もうすぐ生まれてくるベビー。
ユイカさんは、私が手に入れられないものを全て持っている。希望に満ちている。
母親って肩書きがないと、それに圧倒されてしまうんだ。
ユイカさんは、今日も散歩に来ていた。
そして、今日もきれいだ。
こんなに胸がチリチリするなら、ルナが言う通り公園に来なきゃいい。
でも。
「ねぇ、絵美さん。聞いてもらえますか?」
でも。私を頼ったり、すごいと言ってくれるのもまた、ユイカさんだけだから。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件
中島健一
ライト文芸
織原朔真16歳は人前で話せない。息が詰まり、頭が真っ白になる。そんな悩みを抱えていたある日、妹の織原萌にVチューバーになって喋る練習をしたらどうかと持ち掛けられた。
織原朔真の扮するキャラクター、エドヴァルド・ブレインは次第に人気を博していく。そんな中、チャンネル登録者数が1桁の時から応援してくれていた視聴者が、織原朔真と同じ高校に通う国民的アイドル、椎名町45に属する音咲華多莉だったことに気が付く。
彼女に自分がエドヴァルドだとバレたら落胆させてしまうかもしれない。彼女には勿論、学校の生徒達や視聴者達に自分の正体がバレないよう、Vチューバー活動をするのだが、織原朔真は自分の中に異変を感じる。
ネットの中だけの人格であるエドヴァルドが現実世界にも顔を覗かせ始めたのだ。
学校とアルバイトだけの生活から一変、視聴者や同じVチューバー達との交流、eスポーツを経て変わっていく自分の心情や価値観。
これは織原朔真や彼に関わる者達が成長していく物語である。
カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。

終わらぬ四季を君と二人で
緑川 つきあかり
ライト文芸
物置き小屋と化した蔵に探し物をしていた青年・山本颯飛は砂埃に塗れ、乱雑に山積みにされた箱の中から一つの懐中時計を目にした。
それは、不思議と古びているのに真新しく、底蓋には殴り書いたような綴りが刻まれていた。
特に気にも留めずに、大切な彼女の笑いの種するべく、病院へと歩みを進めていった。
それから、不思議な日々を送ることに……?

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
【石ゴル】石化の魔女は平凡なオルゴール職人に恋をしました
朝月なつき
ライト文芸
【お知らせ】
二章を更新開始しました。
二章に合わせて各情報を変更しました。
表紙も近いうちに変えます。
■ ■ ■
※こちらのあらすじは二章以降のものです※
石の魔女と呼ばれるシエラは、田舎町に店を構えるオルゴール職人・グレインの元に足繁く通っていた。
伝承の魔女として最強クラスの力を持つシエラだが、数ヶ月前の出来事がきっかけで、平凡な彼に恋して沼ってしまっていた……。
店のお手伝いをする日々を過ごしながら、世話を焼いたり、身体で迫ったり、たまに石化したりキスしたりして、振り向かせようとヤキモキする。
しかし繊細奥手なグレインは拒否するばかり……。どうしてだろう?
彼の気持ちを知りたい。結ばれたい。愛し合いたいのに――。
そんな恋心成就のため、シエラは突っ走る。
恋愛経験ゼロ、メンヘラ系肉食魔女シエラの恋愛奮闘記。
■ ■ ■
※注意※
一章からジャンル変更しました。
一章は石化世界に閉じ込められた二人が脱出するまでの話になります。
ここだけシリアスかつ閉鎖的で、かなり毛色が違うのでご注意ください。
※全五章予定※
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる