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第二章 十月の修羅場
ママ友候補1
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「あの、どうぞ」
公園の隅の自販機で買ったミネラルウォーターを女性に差し出した。
急に気分が悪くなってしまったとのことだが、女性は少し落ち着いてきたようだ。
蒼白だった顔に赤みが戻り始めている。
「すみませんでした……」
女性は顔を上げ、遠慮がちにペットボトルを受け取った。
「いえ、良いんですよ」
ペットボトルに口をつけ、ホッと息をつく女性の様子に胸を撫で下ろす。
救急車を呼ぶような事態にならなくて、本当に良かった。
乳母車を引き寄せ、私もベンチに腰を下ろした。
あ。超美人。
ずっと焦っていたので、女性の顔を初めてちゃんと見た。
ぱっちり二重に、スッと通った鼻筋。
公園の木漏れ日に反射する茶色がかった髪は無造作にアップでまとめられ、きれいな首筋に後れ毛が流れている。
美人は何でも絵になるのだ。
惨めな思いとか、したことないんだろうなあ。
私は尊敬の念すら抱きながら、その美しい横顔に見入った。
こんなに綺麗な人から生まれるのは、どんなベビーだろう。
ベビー。
考えた瞬間、心臓がドンとなった。
続いて激しい動悸が始まる。
ベンチから転がり落ちそうな感覚に陥り、片方の手でベンチの縁をギュッと掴んだ。
アレルギー反応だ。
まだ生まれてもいないのに。
毎日ルナと過ごしているのに、多少の免疫もできていないのだろうか。
彼女のことも、初めから妊婦さんだと分かっていたのに。
妊婦さんを介抱するのが初めてだったからだろうか。
不意打ちでベビーに意識が行ってしまったからだろうか。
分からない。
私は鼻の頭に吹き出した汗をそっと拭うと、女性からゆっくり視線を外した。
通常、アレルギー反応の出そうな場所からは早急に退散することが望ましい。
ただ、状況が状況だ。
まだ体調が不安定な女性を一人残して、いきなり「失礼します」と去っていくのは人の道に反するのではないだろうか。
こういった場合。
様子を見つつ、「お近くまでお送りしますよ」と申し出るのが筋であろう。
しかし。今は私も動けそうにない。
「あのおぉっ。赤ちゃん、いつ頃のご予定なんですかっ」
喋って繋ぐことにした。声が裏返った。
「来月の中頃くらいです」
挙動不審になっているであろう私にも、女性はふわっと笑いかけてくれる。
ああ。やっぱり綺麗。
可憐な花が咲いた瞬間みたいだった。
花の匂いまで香ってきそうである。
「わ、わぁ。もうすぐですねー」
などと相槌を打ちながら、ドギマギしてしまう。
「この子は……女の子?」
女性は、やわらかな眼差しを乳母車の方へと向けた。
「お、女の子です」
二人して乳母車を覗くと、ルナがぱちっと目を開いた。
女性が相好を崩す。
「まあ。可愛らしい」
「ルナ。起きたの?」
ルナは、ゆっくりと瞬きして私を見返した。
これは、私のことを小バカにしているサインである。
こういう時、ルナは決まって生意気なことを言い出す。
が、当然ながら女性はこのサインに気づいていない。
「ルナちゃん? 可愛いお名前ね。うちは男の子なんですよ」
体調はすっかり良くなったようだ。良かった。
女性はベンチに座り直すと、ふくらんだお腹に手を当てて嬉しそうに続けた。
「子どもたち、同い年ですね」
「え? ええ……そうなりますね」
ルナが生後三ヶ月として、この女性のお腹からベビーが出てくるのが来月。
同学年ということになるが。
「ぜひお友達になりたいわ。
引っ越したばかりで知り合いもいなくて」
話が、あらぬ方向へ進み始めてしまった。
公園の隅の自販機で買ったミネラルウォーターを女性に差し出した。
急に気分が悪くなってしまったとのことだが、女性は少し落ち着いてきたようだ。
蒼白だった顔に赤みが戻り始めている。
「すみませんでした……」
女性は顔を上げ、遠慮がちにペットボトルを受け取った。
「いえ、良いんですよ」
ペットボトルに口をつけ、ホッと息をつく女性の様子に胸を撫で下ろす。
救急車を呼ぶような事態にならなくて、本当に良かった。
乳母車を引き寄せ、私もベンチに腰を下ろした。
あ。超美人。
ずっと焦っていたので、女性の顔を初めてちゃんと見た。
ぱっちり二重に、スッと通った鼻筋。
公園の木漏れ日に反射する茶色がかった髪は無造作にアップでまとめられ、きれいな首筋に後れ毛が流れている。
美人は何でも絵になるのだ。
惨めな思いとか、したことないんだろうなあ。
私は尊敬の念すら抱きながら、その美しい横顔に見入った。
こんなに綺麗な人から生まれるのは、どんなベビーだろう。
ベビー。
考えた瞬間、心臓がドンとなった。
続いて激しい動悸が始まる。
ベンチから転がり落ちそうな感覚に陥り、片方の手でベンチの縁をギュッと掴んだ。
アレルギー反応だ。
まだ生まれてもいないのに。
毎日ルナと過ごしているのに、多少の免疫もできていないのだろうか。
彼女のことも、初めから妊婦さんだと分かっていたのに。
妊婦さんを介抱するのが初めてだったからだろうか。
不意打ちでベビーに意識が行ってしまったからだろうか。
分からない。
私は鼻の頭に吹き出した汗をそっと拭うと、女性からゆっくり視線を外した。
通常、アレルギー反応の出そうな場所からは早急に退散することが望ましい。
ただ、状況が状況だ。
まだ体調が不安定な女性を一人残して、いきなり「失礼します」と去っていくのは人の道に反するのではないだろうか。
こういった場合。
様子を見つつ、「お近くまでお送りしますよ」と申し出るのが筋であろう。
しかし。今は私も動けそうにない。
「あのおぉっ。赤ちゃん、いつ頃のご予定なんですかっ」
喋って繋ぐことにした。声が裏返った。
「来月の中頃くらいです」
挙動不審になっているであろう私にも、女性はふわっと笑いかけてくれる。
ああ。やっぱり綺麗。
可憐な花が咲いた瞬間みたいだった。
花の匂いまで香ってきそうである。
「わ、わぁ。もうすぐですねー」
などと相槌を打ちながら、ドギマギしてしまう。
「この子は……女の子?」
女性は、やわらかな眼差しを乳母車の方へと向けた。
「お、女の子です」
二人して乳母車を覗くと、ルナがぱちっと目を開いた。
女性が相好を崩す。
「まあ。可愛らしい」
「ルナ。起きたの?」
ルナは、ゆっくりと瞬きして私を見返した。
これは、私のことを小バカにしているサインである。
こういう時、ルナは決まって生意気なことを言い出す。
が、当然ながら女性はこのサインに気づいていない。
「ルナちゃん? 可愛いお名前ね。うちは男の子なんですよ」
体調はすっかり良くなったようだ。良かった。
女性はベンチに座り直すと、ふくらんだお腹に手を当てて嬉しそうに続けた。
「子どもたち、同い年ですね」
「え? ええ……そうなりますね」
ルナが生後三ヶ月として、この女性のお腹からベビーが出てくるのが来月。
同学年ということになるが。
「ぜひお友達になりたいわ。
引っ越したばかりで知り合いもいなくて」
話が、あらぬ方向へ進み始めてしまった。
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