【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第二章 十月の修羅場

誘拐事件1

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 「これは……?」

 「煮干しです」

 「そんなことは分かってます。何故こんな物を私に」

 「宮原さん。あなたはどうも気が短いようだ。
 ルナさんにも悪影響です。カルシウムを摂られた方が良い」

 「……」

 私の後ろで、麻由子が肩を揺らして忍び笑っている。
 宮原というのは私の姓である。
 大人が三人とベビー。これだけ集まると、十畳のワンルームは窮屈だ。

 十月に入った。
 ルナを預かって約一週間になる。

 佐山はその日以来、毎日ここへ来て私に育児のアドバイスをしてくる。
 頼んでもいないのに。

 自ら育児本を買い込み、睡眠習慣がどうとかミルクの量がどうとか、日に一度はここへ来て何かを言って行く。
 これ全て、ピーコのためである。

 ピーコは、佐山の大事な大事なお友達。
 ルナの泣き声(と私の声)は繊細なピーコのストレスになるとかで、佐山は私の育児環境を整えようと必死である。

 ご苦労なことだ。

 憂鬱な気分の私をよそに、ルナは栄養補給の真っ最中。
 麻由子が世話をしてくれている。
 ルナは麻由子には好意的だ。
 そして、どういうわけか佐山のことも気に入っている。そのため今日はご機嫌だ。

 正直、麻由子がいてくれると助かる。
 ルナは、空腹その他の不快感が生じると普通の赤ちゃんとに戻ってしまう。
 こうなるともう手が付けられず、こちらで予想しながら不快感を取り除いてやるしかない。

 育児とはそんなものと言ってしまえばそれまでだが、アレルギー持ちの私にとっては最も過酷な時間なのだ。
 麻由子がいる間は、少しは休むことができる。
 
 色々あったが、育児に必要な物だけは揃いつつある。
 麻由子が子供たちのお下がりをくれたり、二十七日にはショッピングセンターへ買い出しにも行った。疲れたけど。
 物が揃ったのは良いが、未だ整頓されないまま部屋は荒れている。

 

 三日前、初めて佐山と対面した麻由子が驚きとともに私に耳打ちするには、

 「なんか良い感じじゃない?」

 とのことである。
 どこがどう良い感じなのか理解に苦しむ。
 そんな私にルナは言った。

 「内から滲み出る人柄ってもんを、絵美は分からないの? お子様ね」

 オムツを替えさせられながらこんなことを言われる理由も、佐山から何が滲み出ているのかも全く分からない。

 ところで、ルナは私のことを名前で呼ぶ。
 目上の者を呼び捨てにしないでほしい。ママって呼ばれるのも困るけど。
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