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第一章 九月の嵐
佐山という男5
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友人て……。
軽くめまいがした。
佐山は大真面目な様子で、相変わらず正座を崩さない。
この薄い壁の向こう。佐山が夜な夜な鳥に話しかける姿が思い浮かび、ゾッとする。
「人間のお友達、いないんですね」
チクリと言ってやると、佐山は出来の悪い子供の相手でもするようにため息をついた。
「作らないのです。裏表のある人間より、動物の方が余程魅力的だ」
冗談のようなことを真っ直ぐ語る男に、返すべき言葉が見つからない。
「あのね、ルナ」
ルナは、きょとんとした目でこちらを見ている。
「あのおじさん、酷いのよ。あんたの声が、うるさいってさ」
佐山が「あッ」と膝頭を叩いた。
「危うく話をすり替えられるところでしたよ!」
「あなたが勝手に喋っていたんです」
「まだ、具体的な対策をお聞きしていませんよ」
「偉そうに……」
おっかなびっくりでルナを抱え直す。
何とか腕の定位置に落ち着け、私は先を続けた。
「私を責めるくらいなら、あなたが世話をしたらどうです?
やれるもんならね!」
これだけ言えば引き下がるだろう。
案の定、佐山は黙り込んでいる。
ほら。
偉そうなこと言う奴に限って何も……。
「分かりました。やりましょう」
えぇ?
「あなた一人では、どう見ても無理だ。
今も腰が引けていますしね。協力しますよ」
「失礼ね! 勝手に協力しないでください!」
「やれるものならやれと、あなたが言いました」
佐山が指を差してくる。
そっか、私が言ったね……しかし。
そういう風に受け取られるとは。
「これはピーコのためでもある」
佐山は、下顎の髭を撫でながらブツブツ言い始めた。
続いて、指をパチンと鳴らす。
「育児環境を整えることこそが、いちばんの近道だな」
結局、私の一言が彼に火をつけてしまった。
やれるもんなら。というのは、けっこう挑発的でもある。
「きゃははっ」
腕の中で、ルナが暴れ始めた。
身体全体で喜んでいる。
ファミリーができたなどと、本当に思っているのだろうか。
「明日から、毎日お邪魔しますので」
佐山が口の端を歪めた。
勝手に使命感を燃やされても困る──。
九月二十六日。
変な隣人と知り合いになった。
軽くめまいがした。
佐山は大真面目な様子で、相変わらず正座を崩さない。
この薄い壁の向こう。佐山が夜な夜な鳥に話しかける姿が思い浮かび、ゾッとする。
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チクリと言ってやると、佐山は出来の悪い子供の相手でもするようにため息をついた。
「作らないのです。裏表のある人間より、動物の方が余程魅力的だ」
冗談のようなことを真っ直ぐ語る男に、返すべき言葉が見つからない。
「あのね、ルナ」
ルナは、きょとんとした目でこちらを見ている。
「あのおじさん、酷いのよ。あんたの声が、うるさいってさ」
佐山が「あッ」と膝頭を叩いた。
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「あなたが勝手に喋っていたんです」
「まだ、具体的な対策をお聞きしていませんよ」
「偉そうに……」
おっかなびっくりでルナを抱え直す。
何とか腕の定位置に落ち着け、私は先を続けた。
「私を責めるくらいなら、あなたが世話をしたらどうです?
やれるもんならね!」
これだけ言えば引き下がるだろう。
案の定、佐山は黙り込んでいる。
ほら。
偉そうなこと言う奴に限って何も……。
「分かりました。やりましょう」
えぇ?
「あなた一人では、どう見ても無理だ。
今も腰が引けていますしね。協力しますよ」
「失礼ね! 勝手に協力しないでください!」
「やれるものならやれと、あなたが言いました」
佐山が指を差してくる。
そっか、私が言ったね……しかし。
そういう風に受け取られるとは。
「これはピーコのためでもある」
佐山は、下顎の髭を撫でながらブツブツ言い始めた。
続いて、指をパチンと鳴らす。
「育児環境を整えることこそが、いちばんの近道だな」
結局、私の一言が彼に火をつけてしまった。
やれるもんなら。というのは、けっこう挑発的でもある。
「きゃははっ」
腕の中で、ルナが暴れ始めた。
身体全体で喜んでいる。
ファミリーができたなどと、本当に思っているのだろうか。
「明日から、毎日お邪魔しますので」
佐山が口の端を歪めた。
勝手に使命感を燃やされても困る──。
九月二十六日。
変な隣人と知り合いになった。
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