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第一章 九月の嵐

佐山という男4

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 「かっ……!?」
 
 あまりのことに言葉を失う。
 この状況で、どうして“彼氏”が連想される?

 「あたしと、パパとママ。ファミリーの出来上がりね」

 ルナはきゃっと笑って佐山へ向かって腕を伸ばし、私を見上げた。
 生意気なことばかり言う癖に、状況判断能力はベビー並みか。
 何で私が、こんな不気味な男と……!

 「違う! あの人はパパなんかじゃないのっ!」

 胸いっぱいに広がる嫌悪感をルナに向かって吐き出した。

 「何をおっしゃっているのです?」

 佐山が眉をひそめる。
 ハッとして、私は満面笑顔のルナと仏頂面の佐山を見比べた。

 「あの……あなた、何も聞こえないんですか?」

 「ご覧の通り、聴力に問題はありませんが」

 「でしょうね」

 私が言いたいのは、そういう聴力のことじゃないんだけど。
 しかし、この様子だと佐山はルナが何を言ったか分かっていないようだ。
 ルナの言葉が聞こえるのは、私だけ──?

 考え込んでいると、佐山は咳払いをして「あのですね」と切り出した。

 「騒音は、こちらの赤ちゃんだけではないのです。
 あなたの声の方が大きいくらいだ」

 そういえば、けっこう怒鳴ったなぁ……。
 自分の声も迷惑の対象になることをすっかり忘れていた。

 膝の上のルナは、私に見せたことがないような笑顔で佐山を見つめている。

 「そ、それは。この子が喧嘩売ってくるから、こっちも大声出しちゃうんです。
 喧嘩売っといて泣くんですよ。卑怯だと思いません?」

 佐山は髭を生やした顎に指を置いて首を傾げているが、私は真剣だ。

 「あの。失礼ですが、頭の方は大丈夫ですか」

 佐山は怪しい者でも見るような目をした。
 怪しい男に怪しまれるなど、不本意極まりない。

 「想像力が豊かなんです」

 でも誤魔化すしかなかった。
 すると佐山は、明らかにムッとした表情になる。

 「あなた方のお陰で、僕の友人は重大なストレスを抱えているのですよ」

 「はあ。お友達が」

 ルームシェアでもしているのだろうか。
 ワンルームなのに。

 「ピーコといいます」

 佐山はクソ真面目に言った。
 真っ白になった頭の中に、ピーコという名前だけがエコーする。

 「ピーコって……鳥……」

 「ええ。桜文鳥のメスでしてね」

 「……」



 佐山は何故か誇らしげに、動物の良さについてペラペラと語った。
 聞きもしないのに、小動物を専門に扱う店で働いていることまで。

 「動物はいい。人間と違って裏表が無くて」

 「あのぉ。このアパートって、ペット禁止じゃ……」

 「ペットなどと! 僕の大切な友人を侮辱しないでいただきたい!」
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