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第一章 九月の嵐
契約3
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喋る能力はあるのに、それ以外は普通の赤ちゃん並みだと!?
「分かんなーい、じゃないでしょ!
どうするのよ!?」
私が力なく床に手をつくと、ルナはちょっと決まり悪そうに言った。
「き、来ちゃったものは仕方ないわ。
変更はできないシステムなの」
「なに、そのシステム……!?」
何なの、さっきから。
どうして私の部屋に赤ちゃんが?
よりによって、昌也にフラれた原因そのものが──。
「無理よ。どうしても駄目なの。
私、ベビー・アレルギーなのよ……?」
情けない言葉が口をつく。
「大体、それが原因で昌也にフラれちゃったんだから」
別れた男の名前を口に出したら胸がチクリとした。
未練なんてないのに。
「当分は静かに傷を癒したいの。
大人しく警察に引き取られなさい」
もう一度スマホを手に取る。
さっきとは違うお巡りさんが電話に出てくれることを祈ろう。
すると、ルナは真っ赤な顔で叫んだ。
「けーさつなんて行かないもん!
はんざいしゃじゃないのに!」
「保護してもらうってことよ!」
まったく。どうして犯罪者なんて言葉を知ってるんだ。
何としても回避してやる。
赤ちゃんに居座られるなんて冗談じゃない!
「私には、できないの。
赤ちゃんてすぐ泣くでしょ。言葉も通じないし」
そうだ。警察に届ける方が常識的だ。
しかし、ルナは私が突き出した指の先で言った。
「何で? あたしとは喋ってるじゃん」
ほんとだ、喋ってるね。
「あのね、ヘンなおばさん」
ルナは、大の字のままで言う。
ただ喋るだけでなく、人を怒らせるツボまで心得ているとは何事だ。
「おばさんじゃないっ……と思う!
私には絵美って名前があるの!」
一瞬の間ができたのは、自信の無さの表れである。
自分が、おばさんであるか否か。
テロテロの部屋着にボサボサの髪。
仕事もなく、外出しないのでノーメイクだ。
ベビーから見たら、こんな私はおばさんなのか。
自然と、目線は下の方をさまよい始める。
ルナは、ダメージを受ける私に構わず続けた。
「こくふくって言葉、知ってる?」
顔を上げてみれば、ルナは鼻の穴を広げて得意そうな顔である。
小賢しい。
「別に!
ベビー・アレルギーのままでも私は困らな……」
困らない。
と言いかけたものの、私の声は情けなく萎んでいった。
一人で生きていく分には困らないが、ベビー・アレルギーが原因で様々な可能性が狭められていることも確かである。
「ほーらね。よく考えてみなよ」
ルナは、けたけた笑って手足をばたつかせた。
クッションが、ぽすんぽすんと音をたてる。
「う、うるさいわね!」
スマホを持つ手から力が抜けた。
頭の中が忙しなく動き始める。
もしも、ベビー・アレルギーが克服できたら──。
将来、子供好きの男性にプロポーズされても大丈夫だし、赤ちゃんごときが原因でフラれることもなくなる。
「分かんなーい、じゃないでしょ!
どうするのよ!?」
私が力なく床に手をつくと、ルナはちょっと決まり悪そうに言った。
「き、来ちゃったものは仕方ないわ。
変更はできないシステムなの」
「なに、そのシステム……!?」
何なの、さっきから。
どうして私の部屋に赤ちゃんが?
よりによって、昌也にフラれた原因そのものが──。
「無理よ。どうしても駄目なの。
私、ベビー・アレルギーなのよ……?」
情けない言葉が口をつく。
「大体、それが原因で昌也にフラれちゃったんだから」
別れた男の名前を口に出したら胸がチクリとした。
未練なんてないのに。
「当分は静かに傷を癒したいの。
大人しく警察に引き取られなさい」
もう一度スマホを手に取る。
さっきとは違うお巡りさんが電話に出てくれることを祈ろう。
すると、ルナは真っ赤な顔で叫んだ。
「けーさつなんて行かないもん!
はんざいしゃじゃないのに!」
「保護してもらうってことよ!」
まったく。どうして犯罪者なんて言葉を知ってるんだ。
何としても回避してやる。
赤ちゃんに居座られるなんて冗談じゃない!
「私には、できないの。
赤ちゃんてすぐ泣くでしょ。言葉も通じないし」
そうだ。警察に届ける方が常識的だ。
しかし、ルナは私が突き出した指の先で言った。
「何で? あたしとは喋ってるじゃん」
ほんとだ、喋ってるね。
「あのね、ヘンなおばさん」
ルナは、大の字のままで言う。
ただ喋るだけでなく、人を怒らせるツボまで心得ているとは何事だ。
「おばさんじゃないっ……と思う!
私には絵美って名前があるの!」
一瞬の間ができたのは、自信の無さの表れである。
自分が、おばさんであるか否か。
テロテロの部屋着にボサボサの髪。
仕事もなく、外出しないのでノーメイクだ。
ベビーから見たら、こんな私はおばさんなのか。
自然と、目線は下の方をさまよい始める。
ルナは、ダメージを受ける私に構わず続けた。
「こくふくって言葉、知ってる?」
顔を上げてみれば、ルナは鼻の穴を広げて得意そうな顔である。
小賢しい。
「別に!
ベビー・アレルギーのままでも私は困らな……」
困らない。
と言いかけたものの、私の声は情けなく萎んでいった。
一人で生きていく分には困らないが、ベビー・アレルギーが原因で様々な可能性が狭められていることも確かである。
「ほーらね。よく考えてみなよ」
ルナは、けたけた笑って手足をばたつかせた。
クッションが、ぽすんぽすんと音をたてる。
「う、うるさいわね!」
スマホを持つ手から力が抜けた。
頭の中が忙しなく動き始める。
もしも、ベビー・アレルギーが克服できたら──。
将来、子供好きの男性にプロポーズされても大丈夫だし、赤ちゃんごときが原因でフラれることもなくなる。
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