【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

第一章 九月の嵐

パニック4

　待って。何、今の？

　なんか聞こえた。耳鳴りか。
　気持ち悪くて呼吸が荒くなってしまう。
　ギュッと目を瞑つむった。

　「ねえねえ、そこのヘンな人」

　耳鳴りどころか、頭にまで響いてくる。
　なんか、マセたガキみたいな声……。
　顔を上げると、赤ちゃんはまだこちらを見ている。

　「あんた、合格には程遠いよ。
　全然お世話してくれないじゃん！」

　今度こそハッキリ聞こえた。頭の中に。
　すごい性格悪い。

　いや、そういうことではなく！

　頭の中の声と、赤ちゃんが短い腕をこちらへぽんと投げ出したタイミングは妙にシンクロしていた。
　これは、どういうことか。

　拳を天高く突き上げる。
　そのまま引力の法則に従って、自分の頭に拳を落とす。

　痛い。

　夢じゃない。
　私は、昌也にフラれて頭がおかしくなったのか。

　「おーい、聞いてる？」

　どこからか、自分の血の気が引く音を聞いた気がした。
　夢でも気のせいでもない。
　赤ちゃんは、大きな目をぱちくりとさせた。

　「あたしのことは、ルナちゃんって呼びなさいね」



　赤ちゃんが、喋ってる──？