7 / 130
第一章 九月の嵐
パニック2
しおりを挟む
赤ちゃんの方は、私の苦労など知ったことかといった風情で呑気に寝息をたてている。
まだハイハイもできなさそうな、常に寝っ転がっている感じの赤ちゃん。
私がいちばん苦手なタイプだ。
小さな頭に小さな手足。薄い爪。
小さな胸が懸命に上下する。
万人が無条件に守る存在として認識するその様は、私にとっては恐怖だ。
そして、何ということだろう!
この肌は何だ!
見るからにツルツルで……毛穴がない。
ある筈だけど目立ってない。
思わず自分のトリハダと比べて落ち込む。
観察を続けていると、真っ白な肌着についた刺繍が目に入った。
ちょうど赤ちゃんの胸の辺りだ。
光沢のある銀の糸で【LUNA】と刺繍されている。
「へえ。あんた、ルナっていうの」
寝ている赤ちゃんに声をかけてしまった。
きまりが悪くなってうつむく。
女の子かな。多分。
外した視線の先に、白い紙片が落ちている。
雑然とした部屋の中、それは明らかに覚えのない物だ。
寝転がったまま腕を伸ばして紙片を手に取る。
端が少し湿って歪んでいるということは、さっきの雹のせいか。
つまり、赤ちゃんを包んだ布に一緒に入っていた?
「何、これ?」
【この子を預かってください。
三ヶ月後、あなたに審判が下されます。】
流れるような美しい文字が、紙片の真ん中あたりにバランス良くおさまっていた。
一旦は落ち着いていた心拍が、にわかに乱れ始める。
「何なのよ……?」
頬にゾワリと冷たいものが走った。
美しすぎる文字が不気味さを増長する。
これは、この子を置き去りにして行った人物が残したメッセージだろうか。
何度も目をこする。
しかし、何度見返しても中身は変わらなかった。
この子をよろしくお願いします。
と言うなら、まだ分かる。
しかし、三ヶ月後の審判とは。
思わず唸ってしまう。
タチの悪いいたずらか。
でも、いたずらで赤ちゃんを置き去りになんてするものだろうか。
警察に通報しなければ。
赤ちゃんが置き去りにされ、さらにこんな不気味なメモまで付いてきたとなれば、重大な犯罪と関わっているかもしれない。
手探りでスマートフォンを探し始めた。
大体いつも床に転がっているはずだが、焦りから手は空を切る。
「ふぁーぅ」
何だ、今のは。
欠伸のような息遣いが聞こえたが。
「ひっ、ひいいぃぃっ!!」
私は高々と両手を上げた。
だって。
赤ちゃんが目を開けているのだ──!!
まだハイハイもできなさそうな、常に寝っ転がっている感じの赤ちゃん。
私がいちばん苦手なタイプだ。
小さな頭に小さな手足。薄い爪。
小さな胸が懸命に上下する。
万人が無条件に守る存在として認識するその様は、私にとっては恐怖だ。
そして、何ということだろう!
この肌は何だ!
見るからにツルツルで……毛穴がない。
ある筈だけど目立ってない。
思わず自分のトリハダと比べて落ち込む。
観察を続けていると、真っ白な肌着についた刺繍が目に入った。
ちょうど赤ちゃんの胸の辺りだ。
光沢のある銀の糸で【LUNA】と刺繍されている。
「へえ。あんた、ルナっていうの」
寝ている赤ちゃんに声をかけてしまった。
きまりが悪くなってうつむく。
女の子かな。多分。
外した視線の先に、白い紙片が落ちている。
雑然とした部屋の中、それは明らかに覚えのない物だ。
寝転がったまま腕を伸ばして紙片を手に取る。
端が少し湿って歪んでいるということは、さっきの雹のせいか。
つまり、赤ちゃんを包んだ布に一緒に入っていた?
「何、これ?」
【この子を預かってください。
三ヶ月後、あなたに審判が下されます。】
流れるような美しい文字が、紙片の真ん中あたりにバランス良くおさまっていた。
一旦は落ち着いていた心拍が、にわかに乱れ始める。
「何なのよ……?」
頬にゾワリと冷たいものが走った。
美しすぎる文字が不気味さを増長する。
これは、この子を置き去りにして行った人物が残したメッセージだろうか。
何度も目をこする。
しかし、何度見返しても中身は変わらなかった。
この子をよろしくお願いします。
と言うなら、まだ分かる。
しかし、三ヶ月後の審判とは。
思わず唸ってしまう。
タチの悪いいたずらか。
でも、いたずらで赤ちゃんを置き去りになんてするものだろうか。
警察に通報しなければ。
赤ちゃんが置き去りにされ、さらにこんな不気味なメモまで付いてきたとなれば、重大な犯罪と関わっているかもしれない。
手探りでスマートフォンを探し始めた。
大体いつも床に転がっているはずだが、焦りから手は空を切る。
「ふぁーぅ」
何だ、今のは。
欠伸のような息遣いが聞こえたが。
「ひっ、ひいいぃぃっ!!」
私は高々と両手を上げた。
だって。
赤ちゃんが目を開けているのだ──!!
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
月見里ゆずる(やまなしゆずる)
ライト文芸
私、依田結花! 37歳! みんな、ゆいちゃんって呼んでね!
大学卒業してから1回も働いたことないの!
23で娘が生まれて、中学生の親にしてはかなり若い方よ。
夫は自営業。でも最近忙しくって、友達やお母さんと遊んで散財しているの。
娘は反抗期で仲が悪いし。
そんな中、夫が仕事中に倒れてしまった。
夫が働けなくなったら、ゆいちゃんどうしたらいいの?!
退院そいてもうちに戻ってこないし! そしたらしばらく距離置こうって!
娘もお母さんと一緒にいたくないって。
しかもあれもこれも、今までのことぜーんぶバレちゃった!
もしかして夫と娘に逃げられちゃうの?! 離婚されちゃう?!
世界一可愛いゆいちゃんが、働くのも離婚も別居なんてあり得ない!
結婚時の約束はどうなるの?! 不履行よ!
自分大好き!
周りからチヤホヤされるのが当たり前!
長年わがまま放題の(精神が)成長しない系ヒロインの末路。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
※7月22日第2章完結。
※カクヨムにも投稿しています。
蝶々結びの片紐
桜樹璃音
ライト文芸
抱きしめたい。触りたい。口づけたい。
俺だって、俺だって、俺だって……。
なぁ、どうしたらお前のことを、
忘れられる――?
新選組、藤堂平助の片恋の行方は。
▷ただ儚く君を想うシリーズ Short Story
Since 2022.03.24~2022.07.22

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

義娘が転生型ヒロインのようですが、立派な淑女に育ててみせます!~鍵を握るのが私の恋愛って本当ですか!?~
咲宮
恋愛
没落貴族のクロエ・オルコットは、馬車の事故で両親を失ったルルメリアを義娘として引き取ることに。しかし、ルルメリアが突然「あたしひろいんなの‼」と言い出した。
ぎゃくはーれむだの、男をはべらせるだの、とんでもない言葉を並べるルルメリアに頭を抱えるクロエ。このままではまずいと思ったクロエは、ルルメリアを「立派な淑女」にすべく奔走し始める。
育児に励むクロエだが、ある日馬車の前に飛び込もうとした男性を助ける。実はその相手は若き伯爵のようで――?
これは若くして母となったクロエが、義娘と恋愛に翻弄されながらも奮闘する物語。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
※毎日更新を予定しております。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

ほどけそうな結び目なのにほどけないね
圍 杉菜ひ
ライト文芸
津賀子さんに迫り来るものとは……
紹介文
津賀子は小学一年生の時以来と思われるソナタさんとトイレで偶然に再会した。この再会により津賀子は大変な目に……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる