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第一章 九月の嵐
パニック1
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突然はやめて。
心臓に悪いから。
冷汗が背中を伝っていく。
雹が止んで澄んだ青空には似つかわしくない気分だ。
目の前で、真っ白な布にくるまれた赤ちゃんがすやすやと眠っている。
何故こんな所に赤ちゃんがいる?
ここは人の家だ。
正確には借りているのだが、そんなことはどうでも良い。
私は、赤ちゃんがこの世で最も苦手だ。
だから、突然出てくるのはやめてほしい。
とは言っても、相手は自力で動けない赤ちゃんである。
自力で動けないとなれば、誰かが置いて行ったということになる。
私の部屋はアパートの一階だ。
物干し場は小さなウッドデッキのような造りで、柵で囲われた外側は生け垣になっている。
生け垣が少々邪魔だが、柵は低いので置いて行けないこともない。
捨て子だろうか?
とりあえず、警察に。
そう発したつもりであったが、唇が戦慄いて声にならなかった。
ようやく思考が回り始めたところで、ふと思う。
この子、いつから居たんだろう。
さっきまで雹が降っていたではないか。
まさか、その中にさらされていた?
「大変!」
何故もっと早く気付かなかったのだろう。
いくら軒下と言っても、雨や雹は物干し場まで降り込んでいた。
布の端を触ってみると、やはり少し湿っている。
赤ちゃんがこんな環境にいて平気な訳がない。
部屋に入れてやらなくては。しかし。
触れない──!!
私はベビー・アレルギーなのだ。
蒸し暑いのに、全身に鳥肌が立った。
とりあえず覗き込んでみる。
やっぱり無理だと離れる。
頭を掻いてみる。
息を止めてみる。
私は何て駄目な奴だ!
無駄な動きを繰り返している間にも、時間は経過する。
時間が経てば経つほど、赤ちゃんは弱ってしまう。
ここは、大人として対応せねばなるまい!
布の四隅を集め、風呂敷包みのように持ち上げた。
確保……!
扱いがぞんざい?
アレルギー持ちには、これが限界だ!
私の心臓は、制御不能の機関銃のように激しい収縮を繰り返している。
軽いような、重いような。
ずっしりとした感触が腕に伝わった──。
五分後。私は脱け殻だった。
もう起き上がれない。
赤ちゃんはクッションの上に寝かせた。
湿った布の上に転がしておくのもどうかと思い、半ば引きずるように移動させたのだ。
寿命が、確実に五年は減ったと思う。
「それにしてもまぁ、酷い話ね」
悪天候の中、こんな所に赤ちゃんを置き去りにするなんて。
断っておくが、私は鬼ではない。
ベビー・アレルギーでも、こんな事態に遭遇すれば胸が痛むのだ。
心臓に悪いから。
冷汗が背中を伝っていく。
雹が止んで澄んだ青空には似つかわしくない気分だ。
目の前で、真っ白な布にくるまれた赤ちゃんがすやすやと眠っている。
何故こんな所に赤ちゃんがいる?
ここは人の家だ。
正確には借りているのだが、そんなことはどうでも良い。
私は、赤ちゃんがこの世で最も苦手だ。
だから、突然出てくるのはやめてほしい。
とは言っても、相手は自力で動けない赤ちゃんである。
自力で動けないとなれば、誰かが置いて行ったということになる。
私の部屋はアパートの一階だ。
物干し場は小さなウッドデッキのような造りで、柵で囲われた外側は生け垣になっている。
生け垣が少々邪魔だが、柵は低いので置いて行けないこともない。
捨て子だろうか?
とりあえず、警察に。
そう発したつもりであったが、唇が戦慄いて声にならなかった。
ようやく思考が回り始めたところで、ふと思う。
この子、いつから居たんだろう。
さっきまで雹が降っていたではないか。
まさか、その中にさらされていた?
「大変!」
何故もっと早く気付かなかったのだろう。
いくら軒下と言っても、雨や雹は物干し場まで降り込んでいた。
布の端を触ってみると、やはり少し湿っている。
赤ちゃんがこんな環境にいて平気な訳がない。
部屋に入れてやらなくては。しかし。
触れない──!!
私はベビー・アレルギーなのだ。
蒸し暑いのに、全身に鳥肌が立った。
とりあえず覗き込んでみる。
やっぱり無理だと離れる。
頭を掻いてみる。
息を止めてみる。
私は何て駄目な奴だ!
無駄な動きを繰り返している間にも、時間は経過する。
時間が経てば経つほど、赤ちゃんは弱ってしまう。
ここは、大人として対応せねばなるまい!
布の四隅を集め、風呂敷包みのように持ち上げた。
確保……!
扱いがぞんざい?
アレルギー持ちには、これが限界だ!
私の心臓は、制御不能の機関銃のように激しい収縮を繰り返している。
軽いような、重いような。
ずっしりとした感触が腕に伝わった──。
五分後。私は脱け殻だった。
もう起き上がれない。
赤ちゃんはクッションの上に寝かせた。
湿った布の上に転がしておくのもどうかと思い、半ば引きずるように移動させたのだ。
寿命が、確実に五年は減ったと思う。
「それにしてもまぁ、酷い話ね」
悪天候の中、こんな所に赤ちゃんを置き去りにするなんて。
断っておくが、私は鬼ではない。
ベビー・アレルギーでも、こんな事態に遭遇すれば胸が痛むのだ。
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