短編集

キツナ月。

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② 北国の春

そこに居なくても

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 「まこと人騒がせなことよ」

 「篁さま。態度が悪いと閻魔さまに言いますよ」

 いつの間にか傍にいた男前を、紗那ちゃんが窘めた。
 鞄の底には、火葬場へ向かう霊柩車が映っとる。

 「すんまへん、アタシ……」

 いいんですよと首を振り、紗那ちゃんは言った。

 「みなさんの性分なんでしょうね」

 「性分?」

 「泣きたいのに元気なフリしちゃう。ふざけちゃう」

 テキパキ動く子供らや、大騒ぎで化粧する菜々美たちを、アタシは思い出していた。


 「気持ちと裏腹にふざけるのは、そなたも同じではないのか」



 ここでの言動をよくよく思い返せと、男前は言うた。その通りやった。

 「それは、そなたに近しい者たちの性質だ。太古の昔から受け継がれ、こののちも脈々と受け継がれてゆく」

 男前の顔つきが、少し優しなったように見えた。


 「そなたが俗世から消えようとも、そなたの性質は在り続けるのだ。あの者たちの間に」


 そうか。アタシ、今もるんや。みんなの傍に。

 「そなたは、よう励んだ。大往生であった」

 男前がもう一度扇を振ると、不思議と心が静かになる。

 「あんた、無愛想やけど見所あるな」

 感心しきりでそう言うと、男前はまた顳顬に青筋を立てた。アタシは鞄の底へ呼びかける。


 「お父さん。みんな。おおきに。

 アタシ、大丈夫やさかい心配せんとって。

 なんや偉い人の世話になってるわ。

 あのー、名前が、よう分からへんねんけどな。

 ほな。あ、メガネくんにもよろしゅう言うといてや。

 ほななー」



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