短編集

キツナ月。

文字の大きさ
上 下
4 / 11
② 北国の春

おわる2

しおりを挟む

 「ほな、そろそろ行こか」

 「うん。またな、花タソ」

 おおきにな。
 多分、これが最後や。

 おおきにな。
 賑やかにしてもうて。歌、聴かしてもうて。ばあちゃん、嬉しかったで。楽しかったで。

 気ぃつけて帰りや。
 おおきに。ありがと。

 ……言えてないやろな。ごめんな。


 菫と幹也は残ってくれるんか。
 堪忍な。

 ああ。それにしても、しんどい。
 孫らがおる時には、気が紛れたけど。

 「ほな、お母さん。おやすみ」

 お父さんが電気消したから、今が夜やと分かる。

 夜は怖い。
 夜は余計にしんどい。

 朝が遠い。
 しんどい。
 冷たい。

 休もうと思うのに、どうしてか息を吸うてまう。
 辛いし、なんか別のこと考えよか。

 そや。菫と幹也が小さい頃は、この部屋で寝とったなぁ。並びもこんな風やった。アタシだけ介護ベッドに寝てんのが、なんか違うけど。


 楽しかったなぁ。


 アタシ、鈍臭いし、かしこないから。
 お父さんに、よう怒られた。
 みんなの話、ついてけへん。難しい話、分からん。

 ほんでも幸せやった。
 みんな集まって、わいわいしてんの見るだけで。
 アタシのお料理、モリモリ食べてくれるだけで。

 菫が嫁に行って、晴子さんが嫁に来て。
 孫ができて、みんな、ええ子に育って……。

 あ、目ぇだけ熱いな。



 身体中カラカラやのに、涙、出たわ。

 「ふふ……」


 ありゃ?


 急にラクになったと思ったら、アタシはアタシを見下ろしてた。

 「お母さん?」

 菫がアタシを覗き込んでる。

 「お父さん、幹也。起きてっ!」

 言い終えるかどうかという内に、お父さんと幹也が飛んできた。

 「お母さん、息してへん」

 「……訪看さん、呼ぼか」

 少しの沈黙の後、お父さんが静かに言った。弾かれたように幹也が動き始める。


 ありゃりゃ?
 アタシ、死んだん?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

いえろ〜の極短編集

いえろ~
ライト文芸
 私、いえろ~が書いた極短編集です。  ☆極短編・・・造語です。一話完結かつ字数がかなり少なめ(現在目安1000字前後)の物語。ショートショートって言うのかもしれないけどそんなの知らないです(開き直り)   ー ストーブ ー  ストーブを消した五分後、いつもつけ直してしまう女の子のお話。 ー 大空 ー  色々思い悩んでいる学生は、大空を見てこう思ったのだそうだ。 ー ルーズリーフ ー  私が弟を泣かせてしまった次の日、弟はこれを差し出してきた。 ー Ideal - Idea ー  僕は、理想の自分になるために、とにかく走った。 ー 限られた時間の中で ー  私は、声を大にして言いたい。 ー 僕を見て ー  とにかく、目の前にいる、僕だけを見てよ。 ー この世も悲観したものじゃない ー  ただ殻に閉じこもってた、僕に訪れた幸運のお話。

処理中です...