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学校は勉学の場だけど勉学の場ではない③
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まず向かったのは職員室だ。丁度廊下にいた教師に事情を説明するとアヤメだけ職員室の中に呼ばれた。あまり離れることができないので廊下で待つことにした。
窓の外は桜の並木になっている。初代の校長は桜が好きで学校中に植えた。その結果、どの窓からでも桜を見ることができ、春には学校一面が桜色に染まる。この高校の『桜海高校』という名前も¨春の景色からそう呼ばれるようになった¨という噂もまんざら外れていないのかもしれない。
春には綺麗な花を咲かせる桜もこの時期は完全に禿げている。ただでさえ、¨花より団子¨の敦には退屈な風景。自然と欠伸が溢れる。暇潰しにゲームをしようとしたときアヤメが担任の佐藤と出てきた。
「おい、阪口。早く教室行けよ?」
無精髭を蓄えた顎で階段を指す。敦は佐藤とアヤメの後をついていく。佐藤から「引っ越してくる前はどこに住んでたんだ?」とか「どんな町だったんだ?」とか聞かれている。それに対するアヤメの回答は予め考えていたようにスムーズで、政治家の答弁みたいだ。
敦は教室の後ろの扉を開けた。自分の席に向かう途中、クラスメイトの雑談が聞こえてくる。転校生が来るらしいという話題だ。敦は昨日の夜、本人から聞くまで知らなかった。敦がボッチだから話題に取り残されたのか、神の御業なのか定かではない。チャイムの音と同時に佐藤が前の扉から入ってきて教壇に立った。アヤメの姿はない。廊下で待たせているらしい。
いつもは席に着くのもダルそうにする生徒も今日ばかりは機敏に動きホームルームが滞りなく進むように協力していた。
「おはよう! 皆、知っていると思うが今日このクラスに転校生がくる」
佐藤の言葉で転校生がくるという噂が真実になり、クラスが浮き足立った。
「入ってきて」
佐藤の言葉を合図にアヤメが入ってきた。一瞬、雷が落ちたのかと思うほどの歓声に敦は耳を塞いだ。
「始めまして。阪口アヤメです。一身上の都合で引っ越して来ました。仲良くして下さい!」
アヤメが挨拶をしてお辞儀をすると拍手が巻き起こる。まるでアイドルのライブ会場にいるみたいだ。アヤメはクラス破壊一人一人の顔を順番に見ていく。全員の顔を見たところでもう一度深く頭を下げる。
「特に連絡することないからホームルームは終わりにするぞー! あとは質問タイムだ。アヤメさんに聞きたいことがあれば手を挙げろ! 自己紹介も忘れるなー」
佐藤は一番前の席をアヤメに割り振ると質問タイムを始めた。「前はどこに住んでたの?」と佐藤と同じ質問や「彼氏はいるの?」というかなりプライベートに突っ込んだ内容の質問にも笑顔を絶すことなく答えていく。質問の嵐はホームルームの時間が過ぎても収まらない。一限は佐藤の受持ちの歴史なのだが、授業が始まる気配がないどころか佐藤自身が始めようとさえしていなかった。この状況で授業をしてもまともな授業にならないと判断したのか、アヤメが早く打ち解けられるようにという配慮なのか分からないが、授業をする気がないのなら迫る期末テストの範囲を縮めて欲しいと敦はアヤメの横顔を見ながら思っていた。
窓の外は桜の並木になっている。初代の校長は桜が好きで学校中に植えた。その結果、どの窓からでも桜を見ることができ、春には学校一面が桜色に染まる。この高校の『桜海高校』という名前も¨春の景色からそう呼ばれるようになった¨という噂もまんざら外れていないのかもしれない。
春には綺麗な花を咲かせる桜もこの時期は完全に禿げている。ただでさえ、¨花より団子¨の敦には退屈な風景。自然と欠伸が溢れる。暇潰しにゲームをしようとしたときアヤメが担任の佐藤と出てきた。
「おい、阪口。早く教室行けよ?」
無精髭を蓄えた顎で階段を指す。敦は佐藤とアヤメの後をついていく。佐藤から「引っ越してくる前はどこに住んでたんだ?」とか「どんな町だったんだ?」とか聞かれている。それに対するアヤメの回答は予め考えていたようにスムーズで、政治家の答弁みたいだ。
敦は教室の後ろの扉を開けた。自分の席に向かう途中、クラスメイトの雑談が聞こえてくる。転校生が来るらしいという話題だ。敦は昨日の夜、本人から聞くまで知らなかった。敦がボッチだから話題に取り残されたのか、神の御業なのか定かではない。チャイムの音と同時に佐藤が前の扉から入ってきて教壇に立った。アヤメの姿はない。廊下で待たせているらしい。
いつもは席に着くのもダルそうにする生徒も今日ばかりは機敏に動きホームルームが滞りなく進むように協力していた。
「おはよう! 皆、知っていると思うが今日このクラスに転校生がくる」
佐藤の言葉で転校生がくるという噂が真実になり、クラスが浮き足立った。
「入ってきて」
佐藤の言葉を合図にアヤメが入ってきた。一瞬、雷が落ちたのかと思うほどの歓声に敦は耳を塞いだ。
「始めまして。阪口アヤメです。一身上の都合で引っ越して来ました。仲良くして下さい!」
アヤメが挨拶をしてお辞儀をすると拍手が巻き起こる。まるでアイドルのライブ会場にいるみたいだ。アヤメはクラス破壊一人一人の顔を順番に見ていく。全員の顔を見たところでもう一度深く頭を下げる。
「特に連絡することないからホームルームは終わりにするぞー! あとは質問タイムだ。アヤメさんに聞きたいことがあれば手を挙げろ! 自己紹介も忘れるなー」
佐藤は一番前の席をアヤメに割り振ると質問タイムを始めた。「前はどこに住んでたの?」と佐藤と同じ質問や「彼氏はいるの?」というかなりプライベートに突っ込んだ内容の質問にも笑顔を絶すことなく答えていく。質問の嵐はホームルームの時間が過ぎても収まらない。一限は佐藤の受持ちの歴史なのだが、授業が始まる気配がないどころか佐藤自身が始めようとさえしていなかった。この状況で授業をしてもまともな授業にならないと判断したのか、アヤメが早く打ち解けられるようにという配慮なのか分からないが、授業をする気がないのなら迫る期末テストの範囲を縮めて欲しいと敦はアヤメの横顔を見ながら思っていた。
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