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第一部
第六十四話 マーリンという男
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マーリンという軍師とルイス王子の信念は似通った部分がある。本来争いを好まないルイス王子は無駄な殺生を極力避け、和睦ないしは敵将の早期討伐を目指すなど戦死者が少なく済む方法を模索している。
対するマーリンも一見すれば効率を重視しているように見えるがその実、適材適所に人材を配置するプロフェッショナルでもある。
レギンレイヴシリーズには終盤、必ずと言ってもいいほどに公式がバッドエンド以外での積み防止キャラクターを放り込んでくる。
言わずもがなだが月虹のレギンレイヴにおけるマーリン枠――ファンの間では、そのバランスクラッシュ具合から公式チート枠と呼ばれる軍師キャラのことだ。
バランスの崩し具合としては近くにいる味方ユニットの全ステータスを最大で30上げたり、敵の命中・回避を最大で50マイナスしたりする。さらには戦闘中に技パーセントで発動するスキルの発動率を更に上げたり、他にもいろいろとやりたい放題な支援と妨害を飛ばしてくれる。
メタな話はこの辺にしておいて、俺がマーリンと始めて会ったのは数年前の魔物の大量発生事件――氷の魔女の名が大陸中に知れ渡ることになったあの討伐隊でのことだ。
マーリンは初対面の俺の顔を見るなり「お前は輸送隊」といってきて腹を立てることとなったのだ。実際は彼のスキルの効果範囲などの関係で、魔法防御の高い者たちを主力にしたほうが良い戦場だったので、今思えば仕方のない事なのだと理解できる。
討伐隊に居た時にも何度か話をしていたのだが、すべての仕事が終わったあと――当時所属していた傭兵団の団長が戦死したことにより行き場を無くした俺は、知り合いの団で世話になろうかと思っていたところでマーリンより誘いを受け未踏の地奥深くにある都へと連れていかれたのだ。
アルカディアと呼ばれるその街には太古の昔に大陸から消え失せたといわれている亜人種の姿や、見たことも無い文化が存在した不思議な場所だった。
討伐隊ではマーリンの事を浮き世離れしていると思っていた時期もあったが、その街に一歩踏み入れてからは彼は比較的だが普通の人間に見えたほどだ。アルカディアの中心部に建っている神殿に案内されると、儀式の間と呼ばれる場所に案内され古の魔女エリウと引き合わされることとなった。
石造りの荘厳な神殿のなか佇む老婆に導かれ、異なる大陸に移り住んだ神竜との通信が結ばれた。その交信の中で俺は女神の加護を得て、聖剣がこの地に顕現したのだ。
その後は大陸の各地を連れまわされ何体もの竜族と戦い討伐することとなったのだが、考えてみれば見るほど女神の加護だとか勇者になったとか関係なしにマーリンの支援が規格外に凄かったことを実感する。
現在のローレッタ軍ほどの規模の軍隊を指揮した経験はないそうだが、彼の策が加わり始めた頃から戦いやすさも上がっていることに違いは無い。
「敵中央の部隊は騎兵を主にした奴隷兵のようだが、両翼に竜族並びに合成獣が配置されているとなると神器持ちを幾つかの部隊に分けることになる。アガーテは回復役として一番安全な場所に布陣してもらうことになるが、他の神器はどう振り分ける?」
一夜明けて軍議が始まった。昨夜メテオライトがマーリンに渡した紙は案の定、帝国領内に布陣している敵軍のもので会議室の大きな地図上には鶴翼に展開された帝国軍を模した駒が置かれている。
「使い手が決まっていないのは神斧と神炎、神雷の三つだったね。僕としては魔導書の片方はマーリンにお願いしたいんだけど……」
「ふむ。しかし持ってきた手前こういうのもなんだが、私には炎魔法の適性はあっても雷魔法の適性が無いぞ」
「うん。それでも君しかいないって思うんだ」
「その点は承知した。では神炎とは私が契約しよう。神雷は――アマンダ、任せられるか?」
抜擢されると思っていなかったらしいアマンダが驚きを見せる。魔導騎士とはいえ彼女はアガーテの護衛役が本職なので、護るべき主君のそばを離れる不安もあるのだろう。
「私よりもヘリオドール殿のほうが適任じゃない?」
「ヘリオドールでは武器熟練度が足りない」
それにしてもヘリオドールは雷魔法Aまでしか上がっていなかったのか。魔導騎士は下級職である騎士時代に使用する武器が剣と槍の二種類だったから、魔導士系に比べると武器熟練度が低いのは仕方がないのだろう。
護衛騎士と騎士団員では訓練形式も違うだろうし、シスル軍はどう見ても武闘派揃いだから物理で殴るほうが得意そうだ。
「ルイス王子。神斧は武器熟練度の足りる兵がオブシディアンしかいないようですので、彼に任せてよろしいですか?」
「はい。それは僕も思っていたところです。オブシディアン将軍、よろしくお願いします」
ルイス王子が丁寧な言葉遣いなのはいつも通りというか慣れたものなんだが、やっぱりメテオライトの丁寧な言葉遣いは違和感が凄い。この二人の王子様オーラの差は一体何が原因なんだ。メテオライトの家出歴か。
「神剣以外の物理武器は騎兵に偏ったが、機動力があるぶん救援にも向かいやすいだろう。ルイスと魔導士たちは後衛からの援護とアガーテの護衛に回ってもらう」
剣士系であるルイス王子が後衛に回る理由は、間違いなく彼の持つ個人スキル【軍神の加護】による支援効果だ。たぶんマーリンとセットで出撃するだけで育成の進んでいないキャラクターであっても、命中率と回避率が安心できる数値をキープできるだろう。
ゲーム本編ではルイス王子の兵種【王子】は昇格して【騎士王】になると歩兵から騎兵になるのだが、どうやらこの世界では父王が健在なのもあるのかはたまた彼がまだ年若いからなのか昇格した気配はない。
「神器持ちには竜族と合成獣を優先してもらうことになるため他の兵たちで通常の兵にあたってもらうことになるが、前線に出てきている竜族があらかた片付くまでは出すぎないようにしてくれ――それから」
少し間をおいてマーリンが一同に徹底させた事柄は魔女キルケを発見次第、必ず彼にその居場所を伝えることだった。
先日のリリエンソール渓谷で遭遇時は持ち出していなかったが、キルケが持つ魔導書の中に危険性が高いものがあるからだ。その名は『魔典ラグナロク』――シミュレーションRPG【月虹のレギンレイヴ】に唯一登場する闇の魔導書のことである。
対するマーリンも一見すれば効率を重視しているように見えるがその実、適材適所に人材を配置するプロフェッショナルでもある。
レギンレイヴシリーズには終盤、必ずと言ってもいいほどに公式がバッドエンド以外での積み防止キャラクターを放り込んでくる。
言わずもがなだが月虹のレギンレイヴにおけるマーリン枠――ファンの間では、そのバランスクラッシュ具合から公式チート枠と呼ばれる軍師キャラのことだ。
バランスの崩し具合としては近くにいる味方ユニットの全ステータスを最大で30上げたり、敵の命中・回避を最大で50マイナスしたりする。さらには戦闘中に技パーセントで発動するスキルの発動率を更に上げたり、他にもいろいろとやりたい放題な支援と妨害を飛ばしてくれる。
メタな話はこの辺にしておいて、俺がマーリンと始めて会ったのは数年前の魔物の大量発生事件――氷の魔女の名が大陸中に知れ渡ることになったあの討伐隊でのことだ。
マーリンは初対面の俺の顔を見るなり「お前は輸送隊」といってきて腹を立てることとなったのだ。実際は彼のスキルの効果範囲などの関係で、魔法防御の高い者たちを主力にしたほうが良い戦場だったので、今思えば仕方のない事なのだと理解できる。
討伐隊に居た時にも何度か話をしていたのだが、すべての仕事が終わったあと――当時所属していた傭兵団の団長が戦死したことにより行き場を無くした俺は、知り合いの団で世話になろうかと思っていたところでマーリンより誘いを受け未踏の地奥深くにある都へと連れていかれたのだ。
アルカディアと呼ばれるその街には太古の昔に大陸から消え失せたといわれている亜人種の姿や、見たことも無い文化が存在した不思議な場所だった。
討伐隊ではマーリンの事を浮き世離れしていると思っていた時期もあったが、その街に一歩踏み入れてからは彼は比較的だが普通の人間に見えたほどだ。アルカディアの中心部に建っている神殿に案内されると、儀式の間と呼ばれる場所に案内され古の魔女エリウと引き合わされることとなった。
石造りの荘厳な神殿のなか佇む老婆に導かれ、異なる大陸に移り住んだ神竜との通信が結ばれた。その交信の中で俺は女神の加護を得て、聖剣がこの地に顕現したのだ。
その後は大陸の各地を連れまわされ何体もの竜族と戦い討伐することとなったのだが、考えてみれば見るほど女神の加護だとか勇者になったとか関係なしにマーリンの支援が規格外に凄かったことを実感する。
現在のローレッタ軍ほどの規模の軍隊を指揮した経験はないそうだが、彼の策が加わり始めた頃から戦いやすさも上がっていることに違いは無い。
「敵中央の部隊は騎兵を主にした奴隷兵のようだが、両翼に竜族並びに合成獣が配置されているとなると神器持ちを幾つかの部隊に分けることになる。アガーテは回復役として一番安全な場所に布陣してもらうことになるが、他の神器はどう振り分ける?」
一夜明けて軍議が始まった。昨夜メテオライトがマーリンに渡した紙は案の定、帝国領内に布陣している敵軍のもので会議室の大きな地図上には鶴翼に展開された帝国軍を模した駒が置かれている。
「使い手が決まっていないのは神斧と神炎、神雷の三つだったね。僕としては魔導書の片方はマーリンにお願いしたいんだけど……」
「ふむ。しかし持ってきた手前こういうのもなんだが、私には炎魔法の適性はあっても雷魔法の適性が無いぞ」
「うん。それでも君しかいないって思うんだ」
「その点は承知した。では神炎とは私が契約しよう。神雷は――アマンダ、任せられるか?」
抜擢されると思っていなかったらしいアマンダが驚きを見せる。魔導騎士とはいえ彼女はアガーテの護衛役が本職なので、護るべき主君のそばを離れる不安もあるのだろう。
「私よりもヘリオドール殿のほうが適任じゃない?」
「ヘリオドールでは武器熟練度が足りない」
それにしてもヘリオドールは雷魔法Aまでしか上がっていなかったのか。魔導騎士は下級職である騎士時代に使用する武器が剣と槍の二種類だったから、魔導士系に比べると武器熟練度が低いのは仕方がないのだろう。
護衛騎士と騎士団員では訓練形式も違うだろうし、シスル軍はどう見ても武闘派揃いだから物理で殴るほうが得意そうだ。
「ルイス王子。神斧は武器熟練度の足りる兵がオブシディアンしかいないようですので、彼に任せてよろしいですか?」
「はい。それは僕も思っていたところです。オブシディアン将軍、よろしくお願いします」
ルイス王子が丁寧な言葉遣いなのはいつも通りというか慣れたものなんだが、やっぱりメテオライトの丁寧な言葉遣いは違和感が凄い。この二人の王子様オーラの差は一体何が原因なんだ。メテオライトの家出歴か。
「神剣以外の物理武器は騎兵に偏ったが、機動力があるぶん救援にも向かいやすいだろう。ルイスと魔導士たちは後衛からの援護とアガーテの護衛に回ってもらう」
剣士系であるルイス王子が後衛に回る理由は、間違いなく彼の持つ個人スキル【軍神の加護】による支援効果だ。たぶんマーリンとセットで出撃するだけで育成の進んでいないキャラクターであっても、命中率と回避率が安心できる数値をキープできるだろう。
ゲーム本編ではルイス王子の兵種【王子】は昇格して【騎士王】になると歩兵から騎兵になるのだが、どうやらこの世界では父王が健在なのもあるのかはたまた彼がまだ年若いからなのか昇格した気配はない。
「神器持ちには竜族と合成獣を優先してもらうことになるため他の兵たちで通常の兵にあたってもらうことになるが、前線に出てきている竜族があらかた片付くまでは出すぎないようにしてくれ――それから」
少し間をおいてマーリンが一同に徹底させた事柄は魔女キルケを発見次第、必ず彼にその居場所を伝えることだった。
先日のリリエンソール渓谷で遭遇時は持ち出していなかったが、キルケが持つ魔導書の中に危険性が高いものがあるからだ。その名は『魔典ラグナロク』――シミュレーションRPG【月虹のレギンレイヴ】に唯一登場する闇の魔導書のことである。
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