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第一部
第二十四話 仮面の騎士
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飛んできた暗器は俺の腕に深く突き刺さった。利き腕にあたらなかったのが幸いだろう。治療は後回しにして鉄の剣を抜くと、森に潜む暗殺者に向き直る。
刹那――別の方向から飛び込んできた暗殺者が急所を目掛けて攻撃を仕掛けてきたが、メレディスがとっさに炎の魔法を放ち事なきを得る。しかし複数の暗殺者に囲まれてしまった。
暗殺者といえばゲームにも何度か登場したリンデン帝国が抱える人間の奴隷たちで、幼いころから洗脳じみた教育と人殺しの技術だけを教え込まれている。
「メレディス、空に向かってファイアを。フェイス様は俺たちから離れないように」
俺たちはフェイス王女を背後に庇うように立つ。しかし困った。これでは逃げるに逃げられない。
俺の速さは15だ。メレディスとロビンもたぶん似たようなステータスだろう。ゲームでは序盤に仲間になるせいもあって、下級職かつレベルが低い状態で仲間になるフェイス王女はさらに遅いはずだ。
そもそもゲームシステム的に素早さは逃げるのにあまり関係ない。各キャラクターごとに移動力が設定されていて、その数値分だけマップ上のマス目を移動できる。素早くて有利なのは敵に追撃ができるかどうかと、攻撃を回避できるかということくらいだ。
暗器はゲームだと射程が1~2ある武器なので、近接・間接攻撃の両方が行える。しかし幸いなことに、ゲームと違ってこちらが上手く立ち回れば王女に相手の武器は届かない。
「え、エリアス。どうすんだよこれ!」
「他のみんなとはそんなに離れていないんだから、助けが来るまで耐えるしかないだろ!」
暗器を受け流しやすいように、魔導書ではなく剣を装備したロビンが叫ぶ。叫びたいのはこちらのほうだが、さっきメレディスに打ち上げて貰った狼煙に気が付いて仲間たちが駆けつけてくれることを祈るしかない。
俺たちは素早さでは劣るが、暗殺者は力と守備のステータスがそこまで高くない。面倒なのは必殺の一撃が発動しやすい兵種スキル【瞬殺】だ。
このスキルに関しては俺の兵種スキルなら発動を封じることができるのだが、対象は俺に対する攻撃だけなので他の三人は危険が伴う状態だ。
せめてロビンが魔導騎士じゃなく重装騎士だったらよかったのだが、今はそんなことも言ってられない。
「死ね」
暗殺者たちが一斉に飛び掛かってくる。どうやら援軍が到着する前に仕事を片付けられると判断したらしい。
俺は初撃を受け流し、そのまま相手の腹から胸にかけてを深く切り裂いた。まだ少し息があるようだが、まずは一人動きを封じた。あとは確認できる範囲で四人か。
メレディスが放ったファイアでもう一人が炎に巻かれ、のた打ち回る。俺やメレディスの攻撃でこれだけダメージが入ったのならば、ゲームでも序盤に登場する敵と同じ程度のステータスなのだろうか?
しかしロビンのほうは少してこずっているようで、気を付けないと誘導されて孤立しかねない。
「ロビン! 前に出すぎるな!」
「おっと、いけね」
残りは姿を現しているだけでも三人。まだ隠れているかもしれないが、これならどうにかなりそうだ。
ロビンを下がらせ、武器を剣から魔導書に持ち替えさせる。あと一人沈めたら、メレディスたちには王女の壁役をしてもらいつつ援護をしてもらって、残りも俺が倒すのが上策だろうか。
俺はあまり出すぎないように前進する。もし他に暗殺者が潜んでいても対応しやすい距離を保ちつつ眼前の敵に剣を向ける。
さすがに相手との素早さに差が大きいのか、こちらが一回の攻撃を繰り出すのに対して相手は二回攻撃を叩きこんでくる。
ダメージはそんなに多くないのだが地味に痛い。俺のスキルの影響で相手が必殺を出せないことに勘付く前に倒してしまいたいところだ。
素早い相手で少し時間がかかったが、メレディスたちの援護もあって一人を倒しきる。
すると残りの二人は逃げるつもりなのだろう、素早い身のこなしで俺たちから離れると片方が暗器を構えた。先ほどまでとは違う形状のそれからは、なんだか嫌な気配がした。
ゲームでは敵専用で毒の武器が存在した。おそらくはそれだろう。
毒消しは荷車に積んであるはずなので一撃くらいなら食らっても大丈夫だろうと判断し、俺はフェイス王女の前に飛び出そうとした瞬間、何者かがこの場に乱入してきた。
最初に視界に入ったのは、先程の狼煙に気が付いてくれたらしいヘレーネたち傭兵や護衛の騎士たちだ。人数からして残りはグレアム王子たちの護衛についているのだろう。
護衛たちとは反対側の方角からフェイス王女を庇うように飛び出してきたのは、厳めしい黒い鎧で身を包んだ一人の騎士だった。
素早い身のこなしで暗器を叩き落とすと、一気に接近し槍の石突で敵の腹を突くと相手は血泡を吹いて倒れる。その勢いのまま槍をふるい続け、もう一人のほうも一撃で地に沈むこととなった。
短く切りそろえられた藍色の髪に、ほとんど全身黒ずくめの騎士など後ろ姿だけで俺には誰だかわかってしまう。
しかし騎士の顔が見えたと思ったとき視界に入ってきたのは、目元を覆っている黒地に金で装飾を施された仮面だった。
「あなたは?」
「私はアゲート。旅のものです」
見間違えようもない。なぜこんなところでこいつに遭遇するのだ、とも思った。
たとえ仮面で素顔を隠していようとも、彼は間違いなくシスル王の黒き爪――漆黒の聖騎士オニキスその人なのだから。
刹那――別の方向から飛び込んできた暗殺者が急所を目掛けて攻撃を仕掛けてきたが、メレディスがとっさに炎の魔法を放ち事なきを得る。しかし複数の暗殺者に囲まれてしまった。
暗殺者といえばゲームにも何度か登場したリンデン帝国が抱える人間の奴隷たちで、幼いころから洗脳じみた教育と人殺しの技術だけを教え込まれている。
「メレディス、空に向かってファイアを。フェイス様は俺たちから離れないように」
俺たちはフェイス王女を背後に庇うように立つ。しかし困った。これでは逃げるに逃げられない。
俺の速さは15だ。メレディスとロビンもたぶん似たようなステータスだろう。ゲームでは序盤に仲間になるせいもあって、下級職かつレベルが低い状態で仲間になるフェイス王女はさらに遅いはずだ。
そもそもゲームシステム的に素早さは逃げるのにあまり関係ない。各キャラクターごとに移動力が設定されていて、その数値分だけマップ上のマス目を移動できる。素早くて有利なのは敵に追撃ができるかどうかと、攻撃を回避できるかということくらいだ。
暗器はゲームだと射程が1~2ある武器なので、近接・間接攻撃の両方が行える。しかし幸いなことに、ゲームと違ってこちらが上手く立ち回れば王女に相手の武器は届かない。
「え、エリアス。どうすんだよこれ!」
「他のみんなとはそんなに離れていないんだから、助けが来るまで耐えるしかないだろ!」
暗器を受け流しやすいように、魔導書ではなく剣を装備したロビンが叫ぶ。叫びたいのはこちらのほうだが、さっきメレディスに打ち上げて貰った狼煙に気が付いて仲間たちが駆けつけてくれることを祈るしかない。
俺たちは素早さでは劣るが、暗殺者は力と守備のステータスがそこまで高くない。面倒なのは必殺の一撃が発動しやすい兵種スキル【瞬殺】だ。
このスキルに関しては俺の兵種スキルなら発動を封じることができるのだが、対象は俺に対する攻撃だけなので他の三人は危険が伴う状態だ。
せめてロビンが魔導騎士じゃなく重装騎士だったらよかったのだが、今はそんなことも言ってられない。
「死ね」
暗殺者たちが一斉に飛び掛かってくる。どうやら援軍が到着する前に仕事を片付けられると判断したらしい。
俺は初撃を受け流し、そのまま相手の腹から胸にかけてを深く切り裂いた。まだ少し息があるようだが、まずは一人動きを封じた。あとは確認できる範囲で四人か。
メレディスが放ったファイアでもう一人が炎に巻かれ、のた打ち回る。俺やメレディスの攻撃でこれだけダメージが入ったのならば、ゲームでも序盤に登場する敵と同じ程度のステータスなのだろうか?
しかしロビンのほうは少してこずっているようで、気を付けないと誘導されて孤立しかねない。
「ロビン! 前に出すぎるな!」
「おっと、いけね」
残りは姿を現しているだけでも三人。まだ隠れているかもしれないが、これならどうにかなりそうだ。
ロビンを下がらせ、武器を剣から魔導書に持ち替えさせる。あと一人沈めたら、メレディスたちには王女の壁役をしてもらいつつ援護をしてもらって、残りも俺が倒すのが上策だろうか。
俺はあまり出すぎないように前進する。もし他に暗殺者が潜んでいても対応しやすい距離を保ちつつ眼前の敵に剣を向ける。
さすがに相手との素早さに差が大きいのか、こちらが一回の攻撃を繰り出すのに対して相手は二回攻撃を叩きこんでくる。
ダメージはそんなに多くないのだが地味に痛い。俺のスキルの影響で相手が必殺を出せないことに勘付く前に倒してしまいたいところだ。
素早い相手で少し時間がかかったが、メレディスたちの援護もあって一人を倒しきる。
すると残りの二人は逃げるつもりなのだろう、素早い身のこなしで俺たちから離れると片方が暗器を構えた。先ほどまでとは違う形状のそれからは、なんだか嫌な気配がした。
ゲームでは敵専用で毒の武器が存在した。おそらくはそれだろう。
毒消しは荷車に積んであるはずなので一撃くらいなら食らっても大丈夫だろうと判断し、俺はフェイス王女の前に飛び出そうとした瞬間、何者かがこの場に乱入してきた。
最初に視界に入ったのは、先程の狼煙に気が付いてくれたらしいヘレーネたち傭兵や護衛の騎士たちだ。人数からして残りはグレアム王子たちの護衛についているのだろう。
護衛たちとは反対側の方角からフェイス王女を庇うように飛び出してきたのは、厳めしい黒い鎧で身を包んだ一人の騎士だった。
素早い身のこなしで暗器を叩き落とすと、一気に接近し槍の石突で敵の腹を突くと相手は血泡を吹いて倒れる。その勢いのまま槍をふるい続け、もう一人のほうも一撃で地に沈むこととなった。
短く切りそろえられた藍色の髪に、ほとんど全身黒ずくめの騎士など後ろ姿だけで俺には誰だかわかってしまう。
しかし騎士の顔が見えたと思ったとき視界に入ってきたのは、目元を覆っている黒地に金で装飾を施された仮面だった。
「あなたは?」
「私はアゲート。旅のものです」
見間違えようもない。なぜこんなところでこいつに遭遇するのだ、とも思った。
たとえ仮面で素顔を隠していようとも、彼は間違いなくシスル王の黒き爪――漆黒の聖騎士オニキスその人なのだから。
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