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第一部

第八話 推しからプレゼントを貰っちゃいました

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 ミシェルの協力で竜を倒した俺たちは、手持ちの傷薬で手当てをした後、森の入り口まで戻り残りの騎士団と合流した。
 こんな森に竜が居るなど思ってもいなかった騎士たちはどうすればいいのかと右往左往していたのだが、レックス殿の姿を確認して落ち着きを取り戻したのか、事の仔細を聞いた後は撤退の準備を始めた。
 魔物の討伐に関しては、すでにある程度は間引けていたので問題ない。それに今は王都に戻り、竜の出現と討伐を報告しなくてはならないので、今回はここで撤収する必要がある。とはいえ、またこのようなことが起こると困るので、いくつかの部隊はあの後すぐに到着した魔導兵団とともに、森の近くで野営し暫くの間は様子を伺うこととなった。

「さてと、初めまして勇者さま。私はローレッタ聖王国魔導兵団長のミシェルよ。これから一緒に戦うこともあるでしょうから、仲良くしてくださると嬉しいわ」
「エリアスだ。さっきは助かったよ、ありがとう」

 騎士たちと話をしているところに現れた彼女は、笑顔でそう言いながら俺に手を差し出してきた。どうやら握手を求められているらしい。
 推しに握手を求められて断る理由はないので、俺は差し出された手を握り返すと彼女は一層笑みを深めた。よかった。出会い方が変わっても、ミシェルは俺に友好的だった。
 ああ、それにしても目のやり場に困る。こういうときってどこ見ればいいんだっけ? 男の性で彼女の豊満な胸に目が行ってしまうんだが。

(って、鍵の形の首飾り……? なんか彼女のイメージと違うな)
「初対面の女性の胸をじろじろ見るなんて、流石は勇者さま。随分と肝が据わっているのね」

 ついつい見てしまう胸元への視線に気が付いた彼女は、相変わらず笑みを絶やさない。しかし、これは怖いに分類していい氷の微笑だ。
 答えを間違えると、さっきの魔法で氷漬けにされて串刺しの刑にされる。
 だがこの首飾りは気になるというか、彼女にはあまり似合わない装飾品だ。もしや何かのアイテムか。

「えっ、あっ、いや! 鍵の形の首飾りなんて珍しいなって思って! その、えっと、やましい気持ちはあんまりないです!」
「嫌味をものともしないうえに下心を否定しないとは……これはカウスリップというアイテムよ。オシャレで付けているわけじゃないわ。もう少し守備が欲しいのよ」

 俺の素直すぎる返答に呆れながらも、ミシェルは首飾りのことを教えてくれた。
【カウスリップ】というのはゲームにも登場したアイテムの一つで、俺が先日貰った石のように固定数値でステータスを増加させるものではなく、所持しているだけでレベルアップ時のステータス成長率にプラス補正が付くというアイテムだ。ちなみにこれはゲーム中で一つしか手に入らないアイテムで、砂漠での発掘作業が必要なやつだ。
 彼女の兵種は賢者セージらしいから、物理攻撃に対する守備が上がりにくいのは仕方がない。原作のミシェルも、守備はそこまで高くならなかったはずだ。
 しかしまさか、こんなところでそんなレアアイテムが出てくるとは思ってもみなかった。譲ってもらいたいところだが、物がものなので、そう簡単にはいかないだろう。

「ふむ。勇者さまは多分、力と守備と速さと幸運と技と魔防が中途半端なところまでしか成長しないタイプだわ」
「うぐっ、返す言葉がない」

 ミシェルさんよ、それはほぼ全部のステータスだ。たしかに俺の成長率は低いし、現在のステータスも……まあ酷い。
 でも力と守備は、原作でもカンストはしないけど結構いい線行くんですよ。カンストはしないけど。

「そうね。守備に関しては貴方のほうが上でしょうし、これあげるわ」

 そういいながら首飾りを外し俺に渡してくる。あれ? ほんとに俺の幸運カンストしてないのこれ?
 しかし貰いっぱなしというのも居心地が悪い。なにか代わりに渡せるようなものってあったかな……あった。こないだの石だ。
 彼女のことだから魔力がカンストしているかもしれないが、幸運の石だったら使い道くらいあるよな。
 俺はカウスリップを一度ポケットにしまうと、道具袋の中から村で子供に貰った赤い石を取り出す。

「代わりといってはなんだけど、この石あげるよ。俺には使い道が分からないんだ」
「あら、マジックストーンじゃない。ちょうど実験用に欲しかったのよね」

 ミシェルは掌に乗せた赤い石を見分し笑みを浮かべる。どうやらこの石は、魔力が上がるほうのドーピングアイテムだったようだ。
 彼女の魔力は案の定カンスト済みらしいが、魔導研究の良い材料になるらしく喜んでもらえた。
 これは結構、好感触な気がする。胸を見ていたことに関しては失敗したが、それ以外では彼女からの印象は悪くなさそうだ。モンタギュー殿からは了承を得たも同然だし、推しを嫁に出来るのだったら嫁にしたい。

「馬車を用意させてあるから、それに乗って帰りましょうか。さぁ、勇者さまもご一緒に」
「それじゃあお言葉に甘えて」

 彼女に誘われるがまま馬車に乗り込んだ俺は、盛大に後悔した。
 同乗者がレックス殿とミシェルなのは理解できる。しかし!

「まさか勇者さまの弱点が乗り物だなんて、思いもしなかったわ」

 可哀そうなものを見る目で、ミシェルがこちらを見てくる。そう、俺は乗り物酔いが激しいのだ。
 自分で操縦できる馬ならば問題ないのだが、船とか馬車は昔から苦手なのだ。傭兵団に所属していたころは、それはもう散々からかわれた記憶がある。
 ここ一年程は、移動が必要になってもマーリンにワープで引き回されていたので、すっかり忘れていた。

「王都まではさほど遠くはないが、途中で休憩をはさんだほうがよさそうか?」
「いえ、竜が王都の近くにいたなんて、一大事ですから……うっぷ。一刻も早く戻って報告しないと……うぅっ」

 王都に戻った後はモンタギュー殿も交えて話し合った後に、聖王であるエルドレッド陛下への報告を予定していたのだが、俺がこの通り酷い状態なので、あとは二人に任せて部屋で休ませてもらうことになった。
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